決戦から十年後、公安委員長ホークスが荼毘を利用してヒーローが暇な社会を実現しようとする話です。続きます。
連合時代と最終回の後を捏造しました。荼ホの世界線なので、死刑囚の荼が公安に協力します。
(中)以降の注意:名前のあるモブが喋る/轟家の崩壊/ホが悪い/ホー荼毘ともとれる描写
エンデヴァーさんは莫大な賠償金を払うために公安で働いている。初めの一年ほどは荼毘と根気強く話をしていたけれど、次第にこの部屋からは遠ざかっていった。
決戦から二年半ばだっただろうか。面会中、火災報知器が鳴り響いて、俺は急いで部屋に入った。車椅子に腰かけたエンデヴァーさんは暗い顔だった。
『お父さん、早く俺を殺してくれよ』
荼毘の声はひどく枯れていたけれど、蒼い目だけは爛々と光っていて、それが炭となり黒くこけた顔に不釣り合いだった。
『さっきまであんなに炎をくれたのに……ベルぐらいで何ヒヨってんだよ』
俺は思わず荼毘を背にして振り向いた。エンデヴァーさんは、うつむいていた。
「エンデヴァーさん、荼毘にヘルフレイムを向けました?」
『黙れホークス。てめえが囀るせいでクソ親父が怖気づいちまった。あと一歩だった……!』
俺は正しくいないといけない。※補足
「轟炎司さん、しばらく面会を禁止します」
「……ああ。だが燈矢には」
もう面会に来る人間などいない。そう言いかけたエンデヴァーさんを手で制し、笑ってみせた。
「俺が行きます」
それからだ、俺がこんな風に荼毘と話すようになったのは。
この八年、焦凍くんはよくもっている方だと思う。月一回は顔を覗きに来るのだが、荼毘は気分によって追い返す。それでも欠かさないので荼毘の方が折れる始末だ。
妹の冬美さんは数年前にひどいバッシングを受けて公安の保護下に入り、今は別の名前で暮らしている。弟の夏雄くんは決戦後すぐに結婚し、相手の姓になり轟家には一度も帰ってこないらしい。
俺以外に、荼毘がほしい言葉をあげられる人間はいない。連合だった時の話をすれば、殺人ヒーローだとかお前の舌噛み切ってやればよかったなァとか罵られはするけれど、荼毘は少し落ち着いて笑うことが多い。
荼毘は俺が来るとわずかに目を細めるようになった。逆に仕事が立て込んで来れなかった日が続けば、ひどく取り乱してしまうらしい。らしいというのは、俺が来たって冷めた目で「遅かったなヒーロー。もう死んじまったかと思ったぜ」なんて言うからだ。看護師が言うには、殺してくれ、殺せ、殺さねえなら全部焼いてやる、で体温が急上昇して鎮静剤を打つらしいけど。
そんな関係が五年目に差し掛かった頃から、荼毘はぽつぽつ過去の犯罪について話すようになった。塚内さんたちが睨んだ通り、荼毘はエンデヴァーさんに似た男ばかり狙っていた。俺は逐一録音し、裁判の証拠として提出し荼毘はめでたく裁判を終えた。極刑だった。
それで、終わるはずだった。俺と荼毘の関係は、それで終わるはずだったのに。
(つづく/今秋には完成させたいです)