流体力学に対する統計力学の構築
非平衡系のゆらぎの理論は過去30年で著しく進展し、線形応答公式の導出に関する理解は深まりましたが、運動論が適用可能な希薄気体の場合を除いて、微視的な線形応答理論と巨視的な流体力学の公式間の関係性は不明瞭です。両者のつながりを明らかにするための例題として、レイノルズ数が十分小さい粘性流体中の球に働く抵抗に着目して研究を行いました。
流体方程式を解析すると、抵抗係数は粘性率と球の半径に比例するというストークス則が得られます。一方で線形応答理論を用いると、抵抗係数は平衡下で球表面に働く応力の時空間平均ゆらぎによって表され、粘性率は流体バルクでのずり応力の時空間平均ゆらぎで表されます。つまり、球表面と流体バルクでの応力ゆらぎの関係が分かれば、線形応答理論から流体方程式の帰結を導出できることになります。我々は、中心極限定理を踏まえて、流体バルクにおける時空間平均応力ゆらぎの確率密度がガウス分布に従うと仮定することで確率密度の表式を導出し、この確率密度に対して大偏差理論のコントラクション原理を適用することで表面とバルクの応力ゆらぎを結びつけ、係数まで含めて正しくストークス則を導出しました。
高密度の流体に対して流体方程式を前提とせずに統計力学の観点から流体力学の結果を導く研究はこれまでに無く、本研究は流体力学に対する統計力学の建設に向けた一歩になると考えています。
関連論文:J. Stat. Phys. 161, 532–552 (2015)