好きなんて 言えやしないと 諦めて 遠くの空に 吐いて捨て去る
好きなんて 言えやしないと 諦めて 遠くの空に 吐いて捨て去る
金属製のガントレットに覆われた手で持つには似つかわしくない可憐な白い花が一輪、風に揺られて散りそうになっている。滞在した島では、この花を送るのは恋心を相手に示す意味を持つ。必要のないものをどうして持ってきてしまったのだろう。
帰るにはまだ数日かかる。その間にこの花は枯れてしまう。このまま風に吹かれていれば枯れるよりも先に散ってしまう。なによりも潜めている恋心を伝える気もない。だからこの花はもう手放すべきだ。定期艇に乗った時からずっとそう考えているのに、未練がましく今もまだ花を眺めている。
青く澄み渡った空も色が移り変わり、風も冷たくなってきた。薄っすらと星の光が見え始めて、せめて何か紙に挟もうかと思っていた矢先に突風が吹いた。
「あっ」
小さな小さな白は、風に流され空に飲み込まれてもう見えない。風は弱まる気配がなく容赦なく吹き続ける。決意を込めて作った揃いのマントがはためく音がやけに耳につく。
「……好き……なんて、ね」
誰にも聞こえない小さな声で吐き捨て、何事もなかったかのような顔をして艇の中に入った。
激しい風が艇を揺らす。冷たくなった頬に艇内の温かな空気が染みて、不意に目頭が熱くなるのを強く目を瞑って耐えた。数を十、数える頃には胸の奥に重たく詰まっていた何かはいつの間にか消え去ってしまっている。
良かった。これで帰る頃には何もなかったことに出来る。あの花が全て持っていってくれた。
いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、真っ直ぐに歩き始める。