実質バカンス監禁生活
実質バカンス監禁生活
ちょっとしたミスが原因で身動きが取れないくらいの大怪我をしてしまった。なんてことない、寝ていればすぐに治る。そう思って大人しく目を瞑って回復の為の眠りについた。周囲には気を失ったと思われたかもしれないが、近くにウーノもいたし上手いこと説明してくれるだろう。そう気楽に思っていたのに、起きたら見知らぬ部屋で眠っていた。艇の中でも病院でもどこかの街の宿でも十天衆の拠点や隠れ家でもない。
身体はまだ思うようには動かない。動かそうとすると痛みが走る。そこまで時間は経過していないと思う。団に迷惑をかけたくもないし、怪我した姿を見られるのは恥ずかしいから、ウーノたちがどこか別の場所に運んでくれたのだろうか。それにしてもここはどこだろう。
意識を集中させると星の海とは繋がっていることは確認出来たが、情報がないと落ち着かない。
音もなくドアが開く。入ってきた相手がよく知った顔で安心して名前を呼ぶ。
「ロベリア」
なんの因果か、神の気まぐれか、いつの間にか恋人同士となった相手、十賢者のロベリアだ。なんだか疲れた顔をしている。信用出来る人物の登場に安堵して話しかけようとしたが声が出せない。魔術を使われた不快感で顔を顰めるとすぐに魔術は解いてくれたが、唇に指を当てられた。今は喋るな、ということだろう。状況がわからないので黙って従う。
感覚が麻痺していたせいで気がつくのが遅くなったが、足首に違和感がある。どういうことなのか聞きたいが今は様子を見るしかない。
掛けられていた毛布を膝の辺りまで捲られて傷の具合を確認された後、上半身を起こされる。乾いた血と汗の臭いがして気持ちが悪い。嫌だなと思っていると濡れた布で体を拭かれ、薬を塗った布を当てて包帯を巻き直される。
それをずっと何も言わずに見つめる。やけに真剣な顔をして器用にこなしていくものだから、可笑しくて思わず笑い出しそうになったが奥歯を強く噛み締めて我慢した。傷の手当てが上手いんだと、知らなかった一面を知っていく。壊すことしか出来ないのだと思っていた。この男はこれまで俺の常識やら羞恥心やらプライドやら様々なものを壊してきた。
周囲に危険はないようだし、音も聞こえないことから何かしらの魔術を使っている。冷静に考えてみると、音を出してまずい状況下だとしても音の魔術師が隣にいたら当然のことながら防音の魔術を使う。だから声を出しても何の問題もない。
「ねぇ、お腹空いた。喉も乾いてるから水も欲しい」
要求するとすぐに部屋を出て、どこからか水とくたくたに煮込んだパン粥を持ってきてくれた。甘い匂いがする。スプーンで一口ずつ運ばれてくるのを大口を開けて迎え入れる。
チーズの入った塩味のパン粥ではなく、はちみつの入った甘いパン粥はとても好みの味だった。消化器官も弱っているから柔らかく栄養のある食事は非常に助かる。水も飲ませてくれて腹も満たされた。
器を片付けて戻ってくるのを待って声をかける。
「あ~美味しかった~。ひょっとしてロベリアが作ってくれたの?」
「……ああ」
やっと声が聞けた。低く掠れている。怪我人よりも憔悴しきっているのはどうかと思う。そんなに動揺するような状況なのだろうか。敵は全て倒したはずだが。
「こんな特技があったならもっと早く言ってよ。明日も同じのがいいな。もっと甘くしてね」
話が出来ると思ったのに、リクエストに黙って頷くだけだ。いつもなら褒めたら褒めただけ得意気な顔をするのに。予想外の反応で調子が狂う。
「退屈だから何か話をしてよ」
お喋り好きなくせに全く話そうとしない。そのくせ、何か言おうとして開いた口をすぐに閉じるのだからまどろっこしくて見ていられない。
髪の毛が乱れているだけではない。唇がカサついて、目の下に濃い隈も出来ている。今すぐに抱き締めたいのに腕も足も動かない。
「ここ、どこ?」
露骨に動揺して目が大きく泳ぐ。グランサイファーでもないし、停まっていた港町とも違う。島どころか空域も違っているかもしれない。窓のカーテンは閉じきっていて外の音も聞こえないが、漏れ入ってくる光の差し方でわかる。随分と遠くに来てしまっている。
返事は返ってこない。始めから期待はしていなかった。
「ま、いいや。お腹いっぱいになったら眠くなってきちゃった。おやすみ、ロベリア」
甘いパン粥に飽きたら米の粥も作ってもらえるかな、飽きる前に他のものも食べられるようになるかな、と食事について考えながら目を閉じる。
「……シエテ」
小さな声で名前を呼ばれる。声の主を見ると迷子の子供みたいな目をしている。放っておけない。なんといって声を掛けたらいいのか悩み、思いついたものをそのまま口に出す。
「このまま2人で駆け落ちしちゃおっか?」
ロベリアが目を見開いて暫く考え込んだ後、頷いた。どうやら正解だったらしい。
そうなると、今から駆け落ち生活ということになる。具体的に何をするかはわからない。駆け落ちしてしまった有力者の娘を探したとこがあるが、見つけ出した時には妊娠していたのでそういうことをするものだろうか。きっと、息苦しい環境から逃げ出して開放的な気持ちで盛り上がるんだろう。俺たちは元から好きな時に好きなだけしてるし意味があるのかわからない。ましてや今はまだ体はズタボロで何も出来ない。
まぁ、たまにはこういう変わったバカンスもいい。ウーノにも少しは休めと言われてたし、連絡手段なんていくらでもある。グランサイファーにいなくても、十天衆でまとまって行動しなくても特に支障はない。
装備品やマントも一緒に持ってきてくれたようで部屋の隅に置いてあるのが見える。閉じ込めるにも詰めが甘い。ルピ以外は全部置いてくるくらいしないとすぐに居所なんてバレるというのに。
そんなところも世間知らずで可愛らしいと思えるのだが、今の弱りきった状態は可愛くない。いつもの煩わしいくらい元気で自分勝手に騒いでくれたら犬みたいで良いのに。
「おいで」
呼び寄せると近くまでは来るが、触れ合うほど近寄りはしない。
苛立って無理やり体を動かそうとするとやんわりとベッドに押し付けられる。
「シエテ、傷口に障る」
「大袈裟だなぁ。このくらい平気だってば。一緒に寝ようよ」
「ノンノン、ちゃんと完治してからだ」
「えー、お兄さんは珍しくものすごーくえっちな気分なのにぃ?」
「シエテ、いい子だから」
子供扱いされるのは気に食わない。俺よりもずっと子供のくせに。
ロベリアとはこうした言葉のやり取りが楽しい。本当にセックスがしたい訳じゃないが少しでも触れ合いたい。
腰を浮かせると太腿の位置がずれて足全体が動く。金属製の鎖がチャリッと音を立てる。金属の音がした途端、ロベリアの顔色が悪くなり口を固く閉ざしてしまった。
足首の違和感がなにかなんてわかっている。随分と頑丈な足輪が嵌められて鎖で繋がれている。
監禁されるなんて久し振りのことだ。久し振りといっても、人質の無事を確認するために捕らえられた振りをしたとかその程度だが。星の海の力を使える者相手には意味がないのに。こんなものに繋がなくてこの体では逃げる気もしないし、恋人から逃げる理由もない……はずだ。今更、壊したくなったとか言い出されても困るが、そんなことは絶対に言わないと言い切れるだけの時間を過ごしている。
ロベリアが何がしたいか見極める為にもこのまま大人しく監禁されるしかない。この世界は何が起こるかわからないし、なんらかの星晶獣の影響を受けている可能性も否定出来ない。
「ねぇねぇ、やっぱり一緒に寝ない? 動けないから何もしないよ~?」
再び会話がしたくて口にした提案も、首を横に振られて断られてしまう。
本当に一緒に寝ないようで椅子に座ったままでいる。このまま話しかけ続けたとしてもロベリアの睡眠時間が更に減るだけだ。気にはなるが眠くなってきたので寝てしまう。回復には睡眠が必要だ。このくらいの怪我はあと数日で治る。
それなのにロベリアは酷くショックを受けてこんな訳の分からない真似をし始めた。ほんの少し無茶をして失敗しただけだ。この程度の怪我なんて昔はよくあったというのに。こうなるのが嫌だから断っていたのに、受け入れてしまった。怪我をしても気にしないで、死んでしまったら忘れて欲しいと思っていたのに、今はもうそんなことは言えなくなってしまった。変化に対して感じるのは後悔ではない。じんわりと胸が暖かくなってくるから不思議なものだ。
三食昼寝付き、しかも飯は口を開ければ食べさせてくれて、全ての世話をしてくれる。排泄の介助だけは耐え難く動けない数日だけで後は自分でなんとかしたが、まぁ、とても楽で優雅な生活だ。
ロベリアも睡眠を取るようになったし、身だしなみを整える余裕も戻ってきた。きっちりとサイドから後ろの髪の毛を固めてピアスも服装によって変わる。目の下のクマも薄くなり、肌も綺麗になってきた。やっぱりオレの恋人は見栄えが良い。
食事はパン粥からサンドイッチになった。ハムとチーズをたっぷり挟んでもらって卵まで焼いてくれた。明日はフルーツパフェを作ってもらう。フルーツと生クリームとプリンの入った贅沢なやつだ。想像しているだけで小腹が空いてきた。
正直、暇を持て余している。自力で上半身を起こせるようになったから、ベッドの上に座った格好で剣拓を出す。体が動かせるようになったらすぐにでも剣が振りたくなってしまう。
「シエテっ!」
急にドアが開いて、剣を握っているところを見つかってしまった。これだから音を消して動く相手との生活は困る。怒っているのか悲しんでいるのかよくわからない表情をしてこちらを見ていて、なにを考えているのかいまいちわからない。
すぐに剣拓を消して話題を逸らす。
「ちょっと~、満身創痍のお兄さんを置いてどこ行ってたの?」
「買い出しだ。キミがフルーツを食べたいと言うから」
「どこに?」
「近くの雑貨屋と、少し遠くの市場まで」
「ふぅ〜ん。お菓子も買ってきてくれた?」
雑貨屋と市場は徒歩圏内にあるのかと、情報を頭に入れて考えてしまうのは習性だから仕方ない。
口を開けると、紙袋から小さな包みを取り出して食べさせてくれる。中にクリームの入った賞味期限の短いもので一部の島特有の伝統菓子だ。わかるようにした上でのブラフなのか、それとも情報を取り扱うことに慣れていないのか――恐らく、後者だろう。情報を制することをせずとも能力だけで生きてこれたのだろうし。そもそも警戒する必要があるならこんな無防備に寝ている場合ではない。
食べている間に足首と鎖を確認された。
「あのさぁ、そんなに確認しなくても逃げないって」
嫌そうな顔をされる。逃げないと言っているのに何度も確認される。そのうち脚をもがれるのではないか、なんて冗談でも言える雰囲気ではない。
「ああ……」
辛気臭い空気なのは好きじゃないのに、ずっとこの湿っぽい調子でカビでも生えてしまいそうだ。
「それよりせっかく駆け落ちしたんだから、もっと刺激的なことをしようか」
ある程度は自由に動けるようになった。着ているシャツのボタンを下からゆっくりと一つ一つ外していく。これはお誘いだから艶かしくなるように見せつけるように肌を晒す。
毎日、脱がせるのも着せるのもロベリアがやっているのに、面白いくらいに動揺している。頬も赤くなって可愛い。
「で、でも、傷が」
「もう治ってるって。知ってるだろう」
傷に薬を塗ったり、体を清めたりしてるのだから状態はわかっているはずだ。そんなにやわな体ではない。
我慢出来ずに笑ってしまう。脚を開こうと動かすが、鎖が邪魔をして思ったように動けない。
「あー、もうっ、動きが制限されると面倒だなぁ」
指先に力を入れて鎖の継ぎ目に負荷をかけると簡単に割れた。こういうことにはコツがあって怪力でなくとも楽に壊せる。
「シエテ……」
呆れたような声で名前を呼ばれるが気にせずに身につけているものを全て脱ぎ去った。ロベリアはまだ煮えきれずにベッドの横に棒立ちしたままだ。
「なんだよ、また後で付ければいいじゃない。予備はないの?」
服を掴んで体を引き寄せると、唇に噛み付く。久し振りのキスはとても気持ちがいい。
ベッドの上にロベリアを押し倒し、逃さないように上に跨がる。下腹部に刺激を与えると陰茎がすぐに昂ぶり固くなった。魅力を感じなくなったという訳でもないようで安心する。
「早くしようよ」
頬を赤らめて照れている年下の恋人の顎を掴む。目と目を合わせると熱を帯びた瞳が揺らぐ。唇に音を立てて軽くキスをすると観念したのかゆっくりと頷いた。
「……ウィ」
体の熱と重さを感じる。ロベリアの匂いと、耳元にかかる吐息と、普段は感じることのない圧迫感と、なによりも気持ちが良くて頭がおかしくなりそうだ。
久し振りなせいか、この状況のせいか、非常に盛り上がった。ほんの少しだけ微睡んで三大欲求を満たすと、今度は足首が気になる。
「これも邪魔だから早く外してよ」
足の先でロベリアの脛を撫でる。足輪も壊してしまえばいいが、一応は監禁されているのだしこれは外させた方がいいだろう。足先で撫でられるのはくすぐったいのか腕で防ごうとしてくるから、上手く躱して脚で胴を挟んで蟹挟みにして絞めると、尻の穴から精液が零れてきた。少し悪巫山戯をし過ぎた。すぐに離れて処理しようとしたが、逆に脚を掴まれて尻に指を這わせられる。
「待った。自分でするから」
今はそこに触られたくない。散々中に出された場所が、再び熱を持ってしまいそうで照れくさい。
「いいからオレに任せてくれ」
真剣な眼差しで見つめられると従うしかなくなる。
「えっちな触れ方はしないでよねぇ」
「くはっ、それはキミの受け取り方次第じゃないか」
指の先で縁をくるくると円を書くように撫でられ、それだけで背筋がぞわぞわと震える。指を中にちょっと挿れられただけで声が漏れそうになった。
「ね、やっぱり、自分でする、から!」
逃れようと体を捻るが腰を掴まれて逃げられない。
「シエテ」
名前を呼ばれ、足首の付近が一瞬だけ青白く光って足環が砕け落ちた。鍵も使わずにあっさりと外されてしまった。
「あっ」
その光景に思わず声を上げると同時に指が奥まで入った。指を軽く曲げてぐりぐりと中を抉られる。
「待って、待って……待てってば!」
前立腺をとんとんと叩かれて、足の先が丸まる。ぐちゃぐちゃと湿った音が静かな部屋の中に響く。これは後処理の触れ方ではない。まだ続くんだと思っただけで体が期待で熱くなる。
「後でまた処理するから大人しくしてくれ」
余裕のない声で懇願させると、何も言えずに頷くことしかできない。ロベリアの固く反り返った先端が中に入ってくるのを感じながら、幸せに喉を震わせる。甲高い声を出してしまうのはいつまで経っても恥ずかしいものだが、ロベリアが喜ぶから良い。どうせロベリア以外は誰も聞いていないのだから。
カーテン越しに光が入ってくる。これは朝日ではない。昼どころか日が傾いている。いくらなんでもやり過ぎた。関係を持ち始めた頃だってこんなにしたことがない。
なんのしがらみもない場所で2人きりだと開放的な気持ちにもなるかと、自己弁護して大きく息を吐き、気持ちを切り替える。
「ボンジュール、シエテ」
ベッドから消えていたロベリアが、大きな皿を持ってやってきた。フルーツを簡単に切っただけのものを口に運ばれる。乾いた体に甘い果汁が染み渡る。
「はぁ〜、フルーツパフェがよかったのになぁ」
「反省しているよ」
「思ってもいないくせに」
「オレが、悪かった」
謝罪しながらも口元がにやけている。自分も楽しんだからいいのだけど、少しだけ悔しい。
もう体も動かしても支障はない。艇に合流する頃には完全に治ったように見せられる程度には動けるだろう。
「じゃあ、そろそろグランサイファーに帰ろっか」
ロベリアのにやけた口元が一気に下がる。このままもう少し遊んでいたい気持ちもわかるが、いつまでもこんなことをしていられない。
「……駆け落ちは?」
「お終い。そんなことしなくたって俺たちの関係は変わらないし」
団にいたって仲良くやっていたし、団にいたから恋人同士になるだなんて奇跡が起こった。2人きりでいるよりも、戻ってこれまで通りの生活をした方が長続きしそうだと思う。
こちらの意図が伝わっていないのか、ロベリアは泣きそうな顔をしている。言い方がよくなかったかもしれない。
「いいじゃない。たま~に2人きりで旅に出てさ、パン粥を作ってよ。甘いやつ」
「キミが望めばいつだって作るよ」
頭を優しい手つきで撫でてくる。今まで撫でることはあっても撫でられることはあまりなかった。こんな優しい声をだすことも知らなかった。恋人の色んな面を知れたとても有意義な時間を過ごせた。
「そうと決まればすぐに帰ろう。体が鈍っちゃうよ」
ロベリアは困ったように眉を下げてから、迷いつつも口を開いた。
「シエテ、実はこの近くに海と温泉があるんだ。新鮮なシーフードを出す評判のレストランもある」
海と温泉にグルメ。万全とはいえない体に必要なものが揃っている。
「それは……、もう2、3日休養しないとだね」
ロベリアは特徴的な笑い声をあげて笑顔になった。2人きりの時間が増えて嬉しいのだろう。俺だって、こんなに尽くしてもらえたら嬉しい。
「あ~あ、恋人に愛され過ぎて困っちゃうなぁ」
「……恋人だって思っててくれたのか」
いつもより低い声だ。穏やかな顔をしているが、泣きそうにも見える。まだまだ見たことのない顔をするものだ。
「そうじゃなきゃ、こんなに好き放題させる訳ないでしょ」
当たり前のことを、何を言っているんだ。これで恋人でなかったらなんだというのか。お互いにそのつもりでいたと思っていたのに今更なにを口に出そうと思った瞬間、後ろから抱き締められて首にキスをされる。唇が触れて、ゆっくりと歯を立てられ、甘咬みされる。暫く好きにさせていると満足したのか口を離して背後から酷く震えた声を浴びせられる。
「オレを置いて死のうとしたくせに」
今、どんな顔をしているのか気になるが後ろにいるせいで見えない。見られたくないのだろう。そのまま抱きかかえられながら話を続ける。
「死のうとは思ってないよ。現に死ななかっただろう」
「もう、あんな真似するのはやめてくれ」
服を握り締められる。強く、指の先が白くなるほどに。随分と心配をかけてしまった。そこは反省すべきだ。
本当に死ぬつもりもなかった。ただ、死んでしまっても仕方ないと諦めている部分もある。そのせいでこれまで恋人なんて存在を作るつもりもなかった。そんな気持ちを乗り越えて居座った相手を大切にしたい。
「そうだね。次からはロベリアにも手伝ってもらうよ」
ロベリアがいれば、最悪背負って逃げて貰えばいい。
「ウィ、……約束だ」
「はいはい、約束ね」
小指と小指を絡め合わせて誓う。
残り少ないバカンスを楽しんで、日常へ戻ろう。温泉に入ってディナーを楽しんで、明日は海で泳いで、また温泉に入って、それから――
楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまっま。すっかり体力も気力も満ちている。なんだかんだ体を繋げてばかりいた気もするが、まだ若いのだから許して欲しい。
久しぶりに十天衆の装束を身に纏い、気持ちを入れ替える。滞在していた部屋ともお別れだ。
「シエテ、そろそろ艇が出る時間だ」
「今行くよ〜」
部屋を出る前に、床の端に落ちた鎖の一部を鞄の奥にしまう。この世界と繋がり続ける為の鎖となるように、自戒の意味も込めて、誰にもわからないような物で形に残しておきたい。
グランサイファーに乗り込む直前に、ロベリアが足を止めた。
「どうしたの? 何か忘れ物でもした?」
数日かけて合流地点に来た。今からあの場所に取りに戻るのは難しい。
「シエテ、団長にオレたちは恋人同士だと言ってくれないか」
「えっ、言ってなかったの?」
思ってもいなかった言葉に驚く。どうせ真っ先にロベリアが言うからいいかと思って言っていなかった。団長に伝わればビィやルリアに伝わって、そのうち他の団員にも知れ渡るから放置していた。
「キミが言っていると思ってオレからは言っていないし、仲のいい友達だと思われてる」
拗ねているのか口を尖らせている。それは俺は悪くないし、どちらも悪くないのにとても不満そうだ。
団長も、よく仲のいい友達に重症の人間を任せたなと対応に疑問を持ってしまう。しかもロベリア相手に。なんと言って任されたのか気になる。どうせ上手い具合に言葉を並べたのだろう。
「別にそれならそのままでもいいんじゃ……」
「ノンノン、よくないっ!」
あまりの剣幕に一歩引いてしまう。そんなに報告したいものか。勝手に言えばいいのに、よくわからない。
楽しい休養だったし、たまには我儘を聞いてあげてもいいか。
「ん〜、帰還報告と一緒に言えばいい?」
満面の笑顔で頷き、軽い足取りで再び歩き始めたのを追うように歩く。
「シエテ」
急に名前を呼ばれ、ロベリアが立ち止まってこちらを振り向いた。
「まだ何かある?」
近づくと抱き締められて頬に軽くキスされた。手を取られて、小指と小指が繋がれる。
「キミのこと、幸せにするよ」
「……そういうのは後でにしてくれないかなぁ」
何がそんなに嬉しいのかよくわからないが、艇の真ん前で約束が増えてしまった。この世界に留まり続ける理由が増していくのは、悪いことではないと今ならそう思える。