実質バカンス監禁生活 前夜
実質バカンス監禁生活 前夜
「シエテ、キミの望みは全て叶えるよ」
「そうだなぁ。俺にもしものことがあったら……俺のことなんか忘れて、幸せになってね」
「ウィ!」
「まぁ、ロベリアなら心配ないね」
「ああ! オレは今、幸福だからな。可愛いモンシェリができたんだ! トレビアンッ!」
そう、確かにそう言っていた。その時の音声は残している。だって生まれて初めての告白で、生まれて初めて恋人が出来た時の音声なんて絶対に録り逃す訳がないだろう。当然のことだ。
だいたいシエテがとんでもなく強くて丈夫で、それなりに強い仲間がいて団長とも仲良くしていたらもしもの時なんてそうそうこないし、オレがいればシエテ一人くらい背負って逃げることは出来る。それなのに……オレのことを置いて行った。いつもと変わらない声と表情で、いつもと同じくいってきますの一言で出発して、予定どおりの日程では帰って来なかった。
絶対に許せない。愛情というものは不思議なもので、ふわふわと温かく甘ったるいものなのに、即座に反転して激しい憎しみへと変わる。問い詰めて返事によっては破壊してしまうかもしれない。恋人の破壊される音なんて最高じゃないか。コンセールの準備は万端だ。
胸元の赤い石が光る。タワーも応援してくれている。他の何者かに壊される前にオレの手で引導を下す。そうだ、そうしよう。
呼ばれた部屋のドアをノックすると団長の声がした。団長と十天衆のウーノに出迎えられ部屋に入ると、ベッドの上でシエテが眠っている。全身に包帯が巻かれていて首から上も少ししか出ていないがシエテだ。ぐっと拳に力が入る。
「シエテ、シエテ、シエテッ、どうしてオレを置いて無茶をしたんだ!シエテ!」
ベッドに横たわるシエテに駆け寄ると、透明な壁に阻まれた。
団長が近寄ってくるが知ったことではない。壁を破壊したいが手が震えてうまくいかない。
「ロベリア落ち着いて。大丈夫だからそんなに大きな声を出さないで」
呼吸音も小さく、離れているせいで耳を凝らしても心音が聞き取れない。
「シエテ……シエテ……」
呼びかけても全く動く気配がない。
団長とウーノが話すのを背後に感じながらも、シエテから目が離せない。
「ウーノにいてもらってよかった。何をするか分からないとは思ってたけど、ここまで取り乱すとはね」
「シエテは特に心配しなくていいと言っていたが……彼は自分に向けられる好意に鈍いから、こうなることを予測出来ていなかったのだろう」
「取り乱すのは仕方ないよ。あんなに仲良かったんだし」
2人の会話は頭に入ってこない。シエテが無事で、生きていてくれればなんでもいい。
「シエテ……」
脚の力が抜けて床に座り込む。
確かにオレたちは恋人同士だったはずだ。何度も好きだと言ったし、シエテも好きだと返してくれた。2人きりの時間も長く過ごした。肉体関係だってあったし、キスだって何度もした。近いうちに街にデートに行こうと約束もしていた。
それなのに、何も言わずにいなくなって、忘れろと言うのか。
ウーノがオレの肩に手を置いた。労わるように話しかけてくる。
「シエテも仲の良い友人が出来てとても喜んではいたんだけどね。元々、彼は人付き合いがあまり得意ではないんだよ」
――仲の良い友人?
「ロベリアも折角出来た友達がこんなことになってショックだよね。シエテには目が覚めたらキツく言うからさ……ロベリア?」
そうか、シエテにとってオレは友人でしかなったのか。
「……く、くはっ、なんでもないさ。団長、シエテを叱るのはオレがするから2人でバカンスに出てもいいかい? 艇よりも安定した場所で療養した方が早く治るだろう」
「え、大丈夫なの?」
「大切な友人の世話くらい出来るさ。移動だってタワーに手伝って貰えば、揺らすことなく出来る」
真っ直ぐに団長の目を見つめると、困った顔をして視線を逸らしてウーノを見る。ウーノは自身の髭を撫でながら少し考えた後に頷いた。
「団長、彼にお願いするのもそう悪い選択肢ではなさそうだよ」
「……うーん、わかった。絶対に安静にさせて。あとは寝てれば治るらしいから」
こうして、定期連絡をする約束だけをさせられて目覚めない重症のシエテと2人でバカンスに出た。
過ごす部屋は団員に紹介を受け、空域を越えて移動した。海と温泉が近くにある静かな島だ。
目が覚めたらまず、オレたちの関係性に名前を付けなければいけない。友人ではなく、恋人同士なのだと。そうでなければならない。そうだと言うまで絶対に解放しない。
まず最初に拘束する為の道具を買おう。足輪と、鎖と……それから、それから……。
目が覚めるまでどれだけの時間がかかるかわからない。本当に眠っているだけでいいのか、今まで通りに目を覚ましてくれるのだろうか。
これまでに経験したことのない感情を持て余しながらシエテが目覚めるのを待つことしか許されない。
だって、オレは、シエテの恋人ではないのかもしれないのだから。