3年 [R15] 前編(シエテ視点)
3年 [R15] 前編(シエテ視点)
団長への剣の稽古が終わり、汗を拭いながら思い出したことを口にする。
「そういえば、またルリアちゃんとデートしたんだって? 教えてくれたらフェディエルと一緒に見守りに行ったのになぁ」
団長は思いっきり嫌そうな顔をした後、顔を無表情にして言い返してきた。
「やめてよ。まったく、シエテも早くお嫁さんもらって落ち着いたらいいのに」
お嫁さん、という言葉が遠い世界の言葉のようで頭にスッと入ってこない。そんな未来を想像することのない生き方をしてきたし、将来的にそうなることも許されていない。己に課せられた宿命として、そして今の生活から考えてもあり得ない。
「いや~、あははっ、なにをするにせよロベリアが俺に飽きでもしないとねぇ」
適当に笑って流そうと冗談混じりに言う。同じ団に所属するロベリアとお付き合いをしていてるのに、他の相手を探すなんて不誠実なこと出来るわけがない。相手に不満もないというのに。
「えぇっ、ひょっとして付き合ってたの?」
「そんなに驚くことかなぁ」
予想外の反応に首を傾げる。付き合うかどうかという時に団長には相談をした。反対してもらいたかったのだが、最終的には背中を押された形になったというのに。恥ずかしくて報告はしなかったが気がついていなかったのか。
「2人ともそんな気配が全くないからずっと友達以上恋人未満みたいな関係だと思ってた」
「まぁ、シエテお兄さんも大人だからね。公私混同はしないよ」
付き合っているからと周囲に気を遣わせるのも悪いし、別れた時に気まずい。なによりも、とにかく恋愛関連の話は恥ずかしいから隠している。ロベリアも理解したのか面白がっているのか上手く秘密にしてくれている。
「だってもう3年になるでしょ」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「えっ……もうそんなに経ってたっけ?」
3年。確かにこの団には思ったよりも長いこと所属している。ただ、ロベリアと付き合ってからの年月はあまり気にしていなかった。そんなにも経っていただろうか。
「そうだよ。ロベリアがここにきてすぐだったじゃん」
「う、うそ」
そういえば最近、ロベリアがなんだかわからない記念日がどうだの言っていた気がする。どうせ碌なことじゃないだろうと適当に話を流していた。だってあいつは自分のしたいことがあると平気で嘘を吐くから全てのことをいちいち相手にしてられない。
よくよく考えてみれば季節のイベントをふたりでこっそりと何度も過ごしていた。ロベリアは俺がやりたいと言ったことには協力的なのでいつも楽しい。最初の頃はプレゼントやチョコレートをあげたら驚いていたが、今ではお互いに贈りあっている。
「シエテくらいの大人になると3年ってあっという間に感じるんだね」
「地味にダメージ与えてくるのやめてよ。最初に冗談言ったことは謝るからさぁ」
団長に指摘されたことが頭に残る。稽古を再開する雰囲気でもなくなってしまって解散すると、部屋に帰りながら付き合い始めた当初を思い出す。
何度も告白をしてくるから、何度も断った。自身も周囲も繰り返される光景が面倒になってきて、団長も試しに少しだけでも付き合ってあげたらと言ったし、ほんの少しだけなら別にいいかなと思った。今はこんなに情熱的に求めてくるのも熱病のようなもので、どうせ数週間もすればこんなものかと冷める。暫くの間だけ遊ぶ相手として悪くはないと判断した。嫌だったらやっぱり無理だと言って別れればいい。
「お前が飽きるまで付き合ってあげるよ」
恋人になって欲しいと言う告白に対して、軽く冗談みたいな軽い口調で返した。ロベリアは目を見開いて動きを数秒止めた後、セボンだのトレビアンだのウールーだの訳の分からない単語を大声で捲し立てて抱き締めてきた。そんなに嬉しいものかなと面白くなってきて、2人して笑っていた。勢いでキスをしてみたら意外と嫌悪感はなくて、ちゃんと恋人同士としての距離感で過ごしてきた。
あれから3年も経つのか。そりゃあ情も湧く。
帰ってきた部屋にはロベリアがいて、それが当たり前になっている。気の合う仲のいい友人同士か、危険人物と監視者だと思われていて、互いの部屋を行き来していても誰も何も言ってこない。それでも団長は気づいていてそっとしてくれてるものだと思っていた。ロベリアが団長に報告していないことにも驚く。確かに誰にも言わないで欲しいとは言ったがそこまで守ってくれていただなんて改めて感心してしまう。
ただいまと言ってキスをして、各々が好きに時間を過ごして、夜はなんとなくそういう雰囲気になって同じベッドで体を重ねる。交わりながら話を切りだす。
「ロベリア、飽きてきてない?」
「正常位が?」
体位の話になりそうだからすぐに訂正する。
「ううん、俺に対して」
「……全く?」
何を言っているのかわからないといった顔をしてキスをしてきた。
セックスの最中に聞くような話題ではなかった。一旦抜かれて、片足だけ抱え上げられて横向きで再度挿入された。体位を変えて欲しいとせがんだようで恥ずかしい。あまりしたことのない格好で揺さぶられながら快楽に打ち震えていると、反応を確かめるように細かく観察される。キスがしたいなと思うとすぐに口が塞がれた。恋人としては素直で気遣いのできる良い奴だ。本当に、恋人としては何の不満もない。
3年は長い。このままでいいのだろうか。ロベリアも随分と団に馴染んでいる。ずっと一緒にいることの出来ないだろう俺なんかよりも、もっと良い相手を早く見つけた方がいい。
終わった後に、ロベリアの頭を撫でながら別れについて考える。どうにか飽きさせて自然に関係を解消させるように仕向けられないだろうか。
「シエテ?」
上の空が続いているせいか、顔を覗き込まれた。真っ直ぐな視線に思わず目を逸らす。別れたい、別れようとはどうしても言い出し難い。言ったところで何故と言われたら上手く答えられる気がしない。
「もっとしたいなー、……なんて」
とりあえず回数を増やせば飽きるんじゃないか。単純にそう思いついて口に出す。
「くはっ、キミがそう言うのは珍しいな」
朝までするのは久しぶりだったが、やればできるものだ。暫くの間は一緒にいられるから、ロベリアがうんざりするくらいにずっと側にいよう。
幸せそうに眠るロベリアの顔を見て、別れようとして誘ったことに胸が痛む。起こさないようにそっと唇を重ねてから目を閉じた。
「シエテ、今日も側にいてくれるのかい?」
「うん。嫌?」
「いいや、セボン! こんなに長く一緒に過ごせるのは初めてで嬉しいよ」
おかしい。回数を増やして側にいるだけでは飽きている気配が全くしない。付き合い始めは時間が許す限りもっとしていたし、回数の問題ではないのかもしれない。
抱きしめられながら考える。だったら次はやりたいと言っていたことをやり尽くさせよう。思いつくことを全部叶えたら流石に飽きてくるだろう。
「あのさぁ、前に拘束とかしたいって言ってたじゃない。しようか」
「えっ……本当にいいのか? あんなに嫌がっていたのに」
「うん、いいよいいよー。なんでもするよ。いつも禁止してるやつも好きにしていいよ」
「くはっ! なんでも? トレッビアンッ!」
指を鳴らして白い巻貝を幾つも取り出した。録音する気だ。なんでもすると言ったことを後悔し始めたが、頬を赤く染めて喜んでいるので今更取り消すことも出来ない。
「流石に骨を折ったり内臓を潰したりはだめだよ」
「当然だろう? 何を言ってるんだキミは」
飽きれたような顔をされてしまった。今までそんなことをされそうになったことも、したいと言われたこともないが、念の為に言っておきたかっただけだ。なんとも腑に落ちず唇を尖らせると軽く吸われた。
笑顔で楽しそうにしているロベリアを見るのは好きだ。体を貪られながらぼんやりと思う。許可を出したからか遠慮は一切なかった。準備から後始末まで手を出され、嫌だと言っていたことを全てやらされた。体力的にキツくなってくると、優しく労わってくるからなんとか全ての希望を受け入れられた。
数日に渡って色々とされた結果、やっぱり普段通りが一番いいと言われた。ようやく飽きたんだと安心して抱きつく。体力やら羞恥心やらを犠牲にして頑張った甲斐があった。これで円満に別れられる。こうして一緒に過ごす時間は後どれくらいあるのだろうか。感傷に浸っていると、軽く触れるだけのキスをされた。
「ジュテーム、シエテ」
「えっ」
「えっ?」
「い、いや、なんでもない」
想定と違う状況に慌ててしまった。これは絶対に飽きていない。むしろいつもより甘ったるい声をして、蕩けた目で見てきている。
「何か俺に言いたいこととか、不満はない?」
不満がわかればそれをさりげなく増やしていけばいい。我ながら名案だ。最初からそうしていればよかった。ロベリアは口元に手を当てて真剣に考えてくれる。
「そうだなぁ……ノン……ないな。今日もキミは可愛いよ」
何かあるような気配はあったが、ないと言われたので引き下がることにした。逆に聞かれたら返答に困るし、なんだか嬉しくてこの場はこれでいいかと諦める。特になにも不満はないのに、実はお互いの将来の為に別れようとしていますなんて言ったらややこしくなる。
他に考えられる方法は浮気をする、だろうか。不誠実にも程がある。無理だ。大体、他の人間とあれやこれや出来る気がしない。絶対に無理だ。
葛藤を悟られないように触れるだけのキスをして「俺もないよ」と言って笑い合った。
「ロベリアが常に幸せ絶頂で女が出来たって噂されてるんだけど心当たりある?」
団長に聞かれて、心当たりがありすぎて困ってしまう。最近のロベリアは常に幸せだという満ち足りた顔をしている。浮かれきっていることを隠せていない。
「お互いの今後のことを考えて別れようと思って、俺のことを飽きるように仕向けてみたんだけどね」
「なにをしたの?」
「毎日付き纏ってきて何でも言うことを聞くような相手じゃ飽きるだろうなって、いろいろしてみたんだけどー」
「それを喜んじゃってるわけか」
2人揃って深くため息を吐く。
「普通は嫌気が差すでしょ?」
俺だったら嫌だ。めんどくさい。なのにロベリアは喜んでいて、周囲にわかるくらい幸せそうにしている。
「ちゃんと話し合った方がいいんじゃないの。パパとママをずーっと愛してる男だよ。一度好きになったものを飽きるとかないんじゃないかな」
現状から察するにその可能性が高い。喜ばせるだけに終わってしまった。
「……団長ちゃん、それは3年前に言って欲しかったなぁ」
それなら最初から付き合ったりしなかったのに。こうなったら別れようとハッキリと言うしかない。胃が重たくなってくるのを感じながら覚悟を決めた。