野生動物において、形態的な計測値をもとにした肥満度の指標が提案されています【1】。なかでも主に水産学分野で一般的なのは、Fulton’s condition index(factor)と呼ばれる指標で、体重÷(体長)^3で計算されるものです。ちなみに、Fulton’sと呼ばれているものの、Fultonさん自身がこの指標値を提唱したわけではないようです【2】。
ウミガメ類でもこのFulton’s condition indexはよく用いられており、おおむね 1.2 を超えるとよい状態とされています(野外環境は過酷な環境のため、健康を害するほどの肥満体になることはあまり考えなくてもよいようで、数値が高い=「よい」となるようです)。しかし、この指標は体のプロポーションの種間での違いや成長に伴う変化を考慮していない数値です。高度な分析機器なしに、お手軽に計算できるというのは大きな利点ですが、いろいろな種や成長段階に対して画一的に基準を適用することはできません。
そこで、まずウミガメ類においてどれくらいFulton’s condition indexがよく用いられているのかを評価するため、文献調査をおこないました。Fulton’s condition index以外の指標(体重÷体長など)、体のプロポーションの変化を考慮した指標(体重 = a 体長bの関係を明らかにしたうえで、体重÷ a体長^bを計算するなど)が用いられている例もありましたが、Fulton’s condition indexは多くのウミガメ種で用いられ、また摂餌個体だけでなく孵化幼体で計算されている例もありました。
次に、比較的事例の多いアオウミガメ、アカウミガメ、タイマイの3種を対象に、種間やサイズクラス間でのFulton’s condition indexの違いを検証しました。単にFulton’s condition indexが報告されている文献の値を用いるだけでなく、バイオロギング研究などで個体の体重・体長が示されているものからの引用・計算をおこない、またマレーシアにおけるタイマイの計測値を追加したうえで、解析をおこないました。その結果、Fulton’s condition indexは3種ともに孵化幼体時に高くなること、成長後はアオウミガメ、アカウミガメに比べて、タイマイが低い値を示す傾向を持つことがわかりました。これは、これまでにウミガメ類で推定されている体重・体長(直甲長SCL)の関係からの予測と一致しました。
本研究は、当たり前のことを当たり前だと示したに過ぎません。しかし、簡単に計算できて便利だからこそ、肥満度の指標の使い方には気をつける必要があるといえるでしょう。
(文献)
【1】Stevenson RD, Woods WA (2006) Condition indices for conservation: new uses for evolving tools. Integrative and Comparative Biology 46: 1169–1190.
【2】Nash RDM, Valencia AH, Geffen AJ (2006) The origin of Fulton's condition factor – Setting the record straight. Fisheries 31: 236–238.
※バイオロギング研究会会報No. 194に掲載された解説記事を編集・再掲したものです。
詳細は...
Nishizawa H, Joseph J (2022) Differences in the morphological body condition index of sea turtles between species and size classes. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom 102: 479–485