動物の個体を識別することは、その行動や個体群動態を知るための第一歩です。実際に、人工的な標識の装着が様々な動物で実施されています。しかし、標識の脱落によって識別ができなくなること、装着が動物に対して負担となる可能性があることなどが問題になります。そこで、標識の装着にかえて、写真をもとに個体識別をおこなうPhoto-IDという手法が注目されています。
ウミガメ類でもPhoto-ID手法はこれまでに研究が進んでおり、主に横顔の写真を用いる手法が提案されてきました。しかし、横顔の写真を撮影するためには当然ウミガメの顔に近づく、撮影者が視界に入ることになるため、ウミガメの行動を阻害することが懸念されます。そこで、本研究では、甲羅の写真を使って個体を識別することが可能かについて検証しました。
石垣島で産卵をおこなったアオウミガメの背中側の甲羅(背甲)の第5椎甲板の写真(77個体、167画像)に対し、HotSpotterというプログラムを使用してRootSIFT特徴量に基づくマッチングを実施しました。同一個体のマッチングは、同一産卵期内(69日以内)に撮影されたものであれば1例を除き成功し(98.1%)、産卵期から次の産卵期までの平均的な期間である2–4年が経過しても70%以上の成功率となりました。インコネル(金属)製の標識を1個体に2つ装着しても、そのうち1つが脱落する確率は3年で52%という推定結果があることを踏まえても、悪くない数値であるといえます。
今回使用した写真は、Photo-ID用に撮影されたものだけではなく、産卵調査時に補助的に撮影されたものや古い写真を含んでいます。撮影方法の統一を図ること、近年のカメラの高精度化によって、より成功率が上がることが期待されます。
※バイオロギング研究会会報No. 191に掲載された解説記事を編集・再掲したものです。
詳細は...
Tabuki K, Nishizawa H, Abe O, Okuyama J, Tanizaki S (2021) Utility of carapace images for long-term photographic identification of nesting green turtles. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology 545: 151632