ウミガメ類の多くは海洋中の長距離移動をおこないます。大洋での回遊行動については、これまで盛んに研究がおこなわれてきましたが、海峡や陸地で囲まれた海にいるウミガメ類は、どこから来たのでしょうか?大洋から来遊しているのでしょうか、あるいはその海のなかだけで暮らしているのでしょうか?
本研究では、東南アジアの南シナ海、スールー海、セレベス海と太平洋のアオウミガメ産卵集団(これまでに先行研究で報告されているデータに、新たに東南アジアで取得したデータを加える)と、南シナ海、セレベス海で摂餌をおこなっているアオウミガメの関係を調べました。Mixed Stock Analysisという手法により、ミトコンドリアDNAの型をもとにその関係性を調べます。平たく言うと、「摂餌をおこなっているグループの構成を実現するには、どの産卵集団を混ぜ合わせればよいのか」を推定し、それに基づき来遊履歴を調べます。
その結果、南シナ海で摂餌しているグループは、南シナ海で生まれた個体とスールー海で生まれた個体から構成され、セレベス海で摂餌しているグループは、スールー海と太平洋・ミクロネシアで生まれた個体から構成されていました。
また、この回遊と産卵集団間の関係性を比較することで、アオウミガメが産卵場所をどのように開拓してきたかについての知見も得られます。アオウミガメは一般的に、出生地付近に戻って産卵をおこないますが、歴史的に新たな産卵場所を開拓してきたことも事実です。長距離移動をおこなった先で産卵をおこなうようになっていったとすれば、推定された回遊経路上にある産卵集団間の関係性が近しくなると考えられます。
今回の研究から、産卵集団間の関係において、フィリピン-スラウェシの東西で分断があり、それを乗り越える形で太平洋からセレベス海への回遊がおこなわれていることがわかりました。セレベス海の産卵集団とミクロネシアの産卵集団の関係が特に近しいわけではありませんでした。したがって、長距離移動が離れた産卵場所の開拓に寄与しているというよりは、出生地「付近」に産卵場所を開拓していったのかもしれません。このあたりについては、今後、他の地域での検証も待たれるところです。
※バイオロギング研究会会報No. 143に掲載された解説記事を編集・再掲したものです。
詳細は...
Nishizawa H, Joseph J, Chong YK, Syed Kadir SA, Isnain I, Ganyai TA, Jaaman S, Zhang X (2018) Comparison of the rookery connectivity and migratory connectivity: insight into movement and colonization of the green turtle (Chelonia mydas) in Pacific-Southeast Asia. Marine Biology 165: 77