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これまでに発表した英語論文の要約です。


青年期の自己概念の異文化間における検証:日本とスウェーデンの比較」

Nishikawa, S., Norlander, T., Fransson, P., & Sundbom, E. (2007). A Cross-cultural validation of adolescent self-concept in two cultures: Japan and Sweden. Journal of Social Psychology and Behavior, 35, 269-286.

本研究では,英語版のSDQII (Self-Description Questionnaire-II; Marsh, 1992) を日本語とスウェーデン語に翻訳し心理測量を調べ,日本とスウェーデンの中学生の自己概念(セルフ・コンセプト)の比較することを主な目的とした。日本144名,スウェーデン96名 (14歳-15歳)の中学生が日本語またスウェーデン語のSDQIIとActual-Ideal Questionnaire(実際の私と理想の私調査)に回答した。 主な結果は,日本の中学生がスウェーデンの中学生よりも低い自己概念の得点を有した。質問紙のそして,日本の中学生がスウェーデンの中学生よりも「今の自分」と「理想の自分」の差異(セルフ・ディスクレパンシー)が大きかった。そして自己概念尺度とセルフ・ディスクレパンシーの逆相関が両国の間で見られた。自己概念の得点の男女差は文化の影響力に比べると比較的小さいものだった。自己概念を言語や習慣の異なる国で質問紙を用いて比較調査する際は,レスポンス・スタイル(回答の仕方)の違いが平均得点の差に影響することも考えなければならない。


「青年期の親の養育態度が及ぼす自己概念とメンタルヘルスへの影響」

Nishikawa, S., Sundbom, E., & Hägglöf, B. (2009). Influence of Parental Rearing on Adolescent Self-Concept and Mental Health in Japan. Journal of Child and Family Studies,19, 57-66.

日本の思春期の青年の親の養育態度がアッタチメントスタイル(愛着),自己概念,メンタルヘルス問題にどのように影響しているのか調べた。計193名の高校生(男子143名,女子50名,平均年齢=16.4)が自己記述式質問紙に回答した。PLS回帰分析では,不安定なアッタチメント(回避型と躊躇型)と親からの拒絶感が高校生の内向的・外向的問題を予測するという結果が出た。ノンアカデミック・セルフ尺度(感情的,社会的,身体的自己概念)は,内向的・外向的問題の両方を予測した。養育態度と思春期のメンタルヘルス問題との関連性は,親と子供それぞれの性別に応じて違った影響力があるようだ。親からの心理的なサポートはどこの国の若者にも欠かせないものである。しかし,養育態度の文化的背景も心にとめておく必要がある。若者の自分自身の認識,対人関係,そしてメンタルヘルス問題はそれぞれ影響し合っている。自己概念の尺度それぞれがどのようにメンタルヘルスや対人関係と関連しているかを考査することにより青年期の教育また臨床治療でも役に立つことを望まれる。

「青年期の愛着スタイルと自己概念による内向的問題と外向的問題への貢献分析」

Nishikawa,S.,Hägglöf, B., & Sundbom, E. (2010). Contributions of Attachment to Self-concept and Internal and Externalizing Problems among Japanese Adolescents. Journal of Child and Family Studies, 19, 334-342.

高校生の愛着スタイルと自己概念がメンタルヘルス問題にどのように貢献しているのかを考察した。計228名の高校生(男子186名,女子82名,平均年齢=16.4)が自己記述式質問紙に回答した。主な結果は,安全型愛着スタイルを有する学生は,不安定な愛着スタイル(回避型と躊躇型)を有する生徒に比べメンタルヘルス問題が少なく,自己概念の得点が高い傾向にあった。Structural Equation Modeling (構造方程式モデル) によって,愛着スタイルと自己概念が仲介役となり内向的問題に貢献していることがわかった。モデルの中の外向的問題には関連性がなかった。若者の自分自身の認識,対人関係,そしてメンタルヘルス問題はそれぞれ影響し合っているようだ。友人や両親との関係が肯定的であると,自己概念も肯定的になる。一方,対人関係を否定的にとらえる若者は, 自己概念も否定的になる。否定的な自己概念は,不安,気分の落ち込み,攻撃性,非行などの問題行動と関連している。「そのような青年期の実態をどのようにして良くさせるか?」ということが今後の課題である。

「親から受けた拒絶感とセロトニントランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)が成人の衝動性に与える影響」

Nishikawa, S., Nishitani, S., Fujisawa, TX., Noborimoto, I., Kitahara T., et al. (2012) Perceived Parental Rejection Mediates the Influence of Serotonin Transporter Gene (5-HTTLPR) Polymorphisms on Impulsivity in Japanese Adults. PLoS ONE 7 (10): e47608.

本研究では,父親と母親からの拒絶感が5-HTTLPR遺伝子型および衝動性の関係を調べることを目的とした。まずは,5-HTTLPR遺伝子多型と親からの拒絶感および衝動性の相互関係を調べ,仲介モデルを作成し貢献分析をした。403名の成人(男性152名,女性252名,平均年齢24.20歳)から遺伝子データとアンケート(BIS11; Barratt Impulsiveness Scale-11およびEMBU; Egna Minnen av Bätraffande Uppfostran)に回答した。SEM(構造方程式モデリング)を使用して,母親または父親からの拒絶感(MAT/FAT)と5-HTTLPR遺伝子(5HTT)が衝動性(IMP)に直接または間接的に関係しているか3つのモデルを作成し評価した。モデル1では,5-HTTLPR遺伝子(5HTT)と衝動性(IMP)の直接路は重要ではなく,全体のモデルとデータ間の適合度も良くなかった。モデル2および3は, 5-HTTLPR遺伝子(5HTT)が母または父からの拒絶感(MOT/FAT)を通して衝動性(IMP)に影響することを示した。モデル2および3のパスはすべて重要で,仮定されたモデルとデータ間の適合を示した。更に,本研究における成人の衝動性への5-HTTLPR遺伝子型の影響は,母親か父親から受けた拒絶感が仲介役となり影響を受けると出た。親からの影響力は特に男性の間で強健に見えた。これらの結果が,衝動性に関する遺伝と環境の相互作用の解明へとつながることが期待される。

「他者の心情の推測時の前頭葉活動における養育とセロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)の相互作用」

◎Nishikawa, S., Toshima, T., & Kobayashi, M. (2015) Influence of gene and perceived parenting on prefrontal activation during the facial-emotional task. PLoS ONE 10 (9): e0134685.

 本研究では,近赤外線分光法(Near Infrared Spectroscopy: NIRS)を用いて表情識別課題を行っている時の前頭葉の活動を計測し,親から受けた養育とセロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)が,表情識別時の脳活動にどのように影響しているか検討した。53名(22-37歳)の成人を対象に,遺伝子多型を測るための口腔内粘膜,質問紙調査(EMBU; Egna Minnen av Bätraffande Uppfostran)を用い,幼少期に受けた父親と母親からの①拒絶感,②心理的暖かみ,③過保護さを測った。さらに,近赤外線分光法(Near Infrared Spectroscopy: NIRS)を用いて表情識別課題を行っている時の脳活動を計測し,ヒトの顔認知機能を探る検討を行った。表情識別課題は,吉田ら(2011, 心理相談センター年報)が開発したタブレットパソコン画面に出てくる女性の表情が「うれしい」「かなしい」「こわい」「びっくり」のどれに当てはまるかを評定し選択する課題を使用した。SEM(構造方程式モデリング)を使用して,養育体験と5-HTTLPR遺伝子が脳活動に直接または間接的に関係しているかモデルを作成し評価した。主な結果は,親からの養育体験は,5HTTLPR多型とあいまいな表情を識別している時の脳活動との仲介役となっていることがわかった。更に,5HTTLPRのLアレルを有する群において,両親から拒絶感が高い群が拒絶感の低い群より表情識別時の右前頭葉の活動が低く出た。本研究は,今後子どもを対象にした研究を進めることが期待される。