ニオイの正体

「生乾き」,「足」,「加齢」

生乾き臭

梅雨の季節になると,洗濯物を部屋干しせざるをえない.そうなると洗濯物の生乾き臭が気になる.その原因や対策法について,以前,NHKで話題にしていたが,化合物の構造までは記憶していなかった.最近,別の番組で再度とり上げていたので,改めて調べてみると,その正体は4-メチル-3-ヘキセン酸(4-Methyl-3-hexenoic Acid:4M3H)であることが10年前に明らかにされていることが分かった.

嗅覚閾値: 0.01ppm

沸点: 118 ºC (12 Torr)

臭いの正体を明らかにしたのは,洗剤メーカーの花王株式会社安全性評価研究所である.さらに,⽣乾き臭を有する⾐類から抽出した微⽣物を分離,培養することにより,モラクセラ オスロエンシス(Moraxella osloensis)菌が4M3Hを産生する微⽣物であることを明らかにした,菌の同定は愛知学院大学薬学部 河村好章教授の指導のもとで行なわれ.なお,本研究の詳細学会発表(2011)や投稿論文 (2012-2016)として公表され,その成果は新しい衣料洗浄技術の開発に応用されている.

さらに,2016年には,汗をかいた後の⾐類の匂い(着⽤汗臭)の原因物質として,4M3Hに加えて,マイクロコッカス属により⽣成される脂肪酸,イソ酪酸,イソ吉草酸,2-メチル酪酸,4-メチルペンタン酸,4-メチル-3-ペンテン酸,4-メチルヘキサン酸等の存在を明らかにした.

4M3Hの嗅覚閾値は0.01ppmであり,異性体の関係にある5-メチル-2-ヘキセン酸(1ppm),5-メチル-4-ヘキセン酸(0.5ppm)に⽐べ,かなり低い濃度で匂いを感じ取ることができる.

 臭覚閾値

4M3Hに関する研究成果を調べている過程で,「プラズマクラスターによる洗濯物の生乾き臭の原因であるモラクセラ菌の除菌効果を検証」というタイトルの記事が目についプラズマクラスターは家電メーカーのシャープが開発したプラズマ放電により活性酸素を発生させプラスとマイナスのプラズマクラスターイオンを作り空気中に放出する技術 である.

菌除去率の図を見た感じではかなりの効果が期待できるようである.詳細は参考資料を見てほしい.

足のニオイ

ロート製薬株式会社(本社:大阪市)は成人男女の「足のニオイ」成分の解析を行い,「足のニオイ」の原因物質として「イソ吉草酸アルデヒド (Isovaleraldehyde)」を新規に同定したさらに,のニオイを抑える素材として,二種類の植物エキス(エイジツエキス、セージエキス,原因物質の発生を防ぐ)および種類のパウダー(ナイロン末,原因物質吸着する)有用であることを明らかにした.本研究結果は日本味と匂学会第49回大会(2015年9月24日~26日岐阜市)で発表され,当社のデオドラント製品に応用されたとのことである.

イソ吉草酸アルデヒド

沸点 91–93 °C

異性体である吉草酸アルデヒドの性状

甘酸っぱい焦げた刺激臭を持つ.果物や酒の香り成分でもあり食品添加物香料)として利用されている

沸点 103 °C

直鎖状アルデヒドの方が沸点が10度程高い.この差も悪臭の拡がりに影響しているものと思われる.

加齢臭

高齢者の体臭のひとつが 2-ノネナール(2-Nonenal, 下記の構造)であることが,資生堂リサーチセンターによって明らかにされ,1999年日本油化学会で発表された. 炭素数9個の直鎖状共役アルデヒドである.詳細は参考資料を見てほしい.

個人的な興味から,ニオイ原因物質の化学構造を紹介したが,意外とシンプルであることをご理解いただけただろうか.構造が明らかになると対策法の理論設計が可能となり,新規高機能なデオドラント剤が実現するのも近いと思われる.

4-メチル-3-ヘキセン酸とその異性体,5-メチル-2-ヘキセン酸,5-メチル-4-ヘキセン酸の沸点,118 ºC (12 Torr) 82°C/1mmHg 237.28°C.

(2020.6.20)

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