迷走と願望
『キバナは素晴らしかった!俺はようやく、俺の最高のライバルに出会えた気がします』
ダンデは頬を上気させて、今まで見たこともないくらいの興奮状態でインタビューに答えていた。瞳は爛々と輝いて、攻撃的な色味に見える。まるでバトルがまだ続いてるみたいだ。
『彼がダイマックスバンドを手に入れる日が待ち遠しいです』
さも当然のようにダンデはそう言って笑った。その言葉に、オレさまの心臓がきゅっと縮こまる。
『ダンデ選手は、キバナ選手に願い星が降るとお考えですか?』
『もちろん』
ダンデは心の底からオレさまに願い星が降ると信じ切っていた。インタビュアーを真っ直ぐに見据えて、ゆっくりと言葉を切りながら言い聞かせるように続ける。大人が子供を諭すような口調だった。
『あれほどのトレーナーに星が降らないと言うなら、それこそ』
(『彼の努力と願いに対する、最悪の侮辱だ』)
心の中でダンデの言葉を引き継いだ。あの日から何度もリピートした映像を切って、オレさまは深く溜息を吐いた。スマホロトムをパーカーのポケットに突っ込む。控室から遠くにあるドリンクコーナーは薄暗くて人気がなくて、少しの時間だけへこむには丁度良かった。観客の歓声すらも遠い。此処ならワンドリンクを飲み切るまで、心置きなく気分を沈めていれる。コールドのミックスオレは生ぬるくなってベンチに放置されていた。
ダンデは、オレさまが何も言わないうちからオレさまを公式にライバルと呼んだ。そして無類の信頼を寄せてくれている。けれど、実際にその発言に自分が見合ってると思われているか――――ダンデに釣り合っているかと言うと、それはまた違う話になる。無敗のチャンプのライバルに相応しいリーグ成績を残しているかと問われると、まだ少し自信がない。どうしてもポケモンバトルには相性も時の運もある。氷タイプの使い手、メロンさんには勝てないし、ネズの読みがバチバチに当たっているとネズにも負けたりする。こればかりはオレさまのせいじゃない、と思いたい。それでもトップジムリーダーをキープしてるんだから、そちらの方を褒めて欲しいくらいだ。でも、ダンデは相性も何も関係なしに勝ち続けているんだから、っていう声があるのも知ってる。じりじりと身を焦がすような焦りがある。どうにかしないと。ダンデに一度くらいは勝たなくちゃ。思ったよりも、いや思った以上にダンデとプライベートで会えていないのもオレさまの焦りに拍車をかけた。
上手くいかない。なにもかも。足掻いても足掻いても成果が出ない。思い描いていた絵図に近付けない。願い星はまだオレさまのところに降らない。それはつまり、オレさまの覚悟が生半可なんじゃないかって、自分自身に問いかけ続けなくちゃいけない。深々とまた溜息が出る。まだミックスオレを飲み切る気にはなれなかった。
「キバナ様!こんなところにいらしたんですか」
ジムトレーナーのリョータが、小走りに近付いてきた。オレさまは慌ててミックスオレを飲む。ぬるくなったせいか甘さが過剰に感じられて、口の中がべたべたした。美味しくない。思わず口を離して、ウエ、と舌を出してしまった。ママが見たらお行儀が悪いって言われそうだけど、リョータは何も言わずにオレさまの前に立った。
「さあ、そろそろ行きますよ。いい加減、業務を覚えて頂かないと」
「……はあい」
オレさまが渋々返事をすると、リョータは直立不動でオレさまを見下ろした。なんだ、と思って見上げると、リョータは淡々と眼鏡の位置を直す。どうやら飲み切るのを待ってくれるつもりらしい。あまり味を感じない量をちびちび飲むようにして、何となく世間話みたいなことを間を取り持つために振ってみる。
「今日は何教えてくれんの?」
「今日はナックルの歴史のお勉強です」
お勉強、と言われてうんざりした。ジムリーダーになってから、色んな制度や税金の話、資金の運用やら何やらを散々勉強してきた。これ以上詰め込んだらバトルに使う容量がなくなるってくらい、たくさん勉強をした。
「学校で授業受けてた方が楽だったな」
「そうおっしゃらず。お勉強と言っても、今日のは宝物庫の見回りくらいの話ですから」
リョータが苦笑しているけれど、信じる気になれない。今までだって「簡単なところから始めるから」とか「ゆっくりやっていくから」とか何とか、始めは耳障りの良いことを言っておいて最終的にはぎゅうぎゅうに詰め込んでいったじゃないか。オレさまが低く「ウー」と唸って見せると、リョータは笑った。
「さあ、行きましょう。今日は終わるまで業務終了できませんからね」
リョータの声音は柔らかいけれど、絶対に譲らない時のそれだった。オレさまは仕方なく、残ったミックスオレをぐいっと飲み干して、缶をゴミ箱に放り込んだ。さっさと見てさっさと終わらせよう。その時はそう思っていた。
宝物庫は予想よりもずっと広くて、あちこちに変なものがあった。宝物庫って言うくらいだから、もっと金銀財宝とか大きな宝石の付いた王冠とかが保管されているのかと思ったけど、オレさまからしてみればガラクタばかりだった。だって、槍だの弓だの、そういう武具ばかり。馬具ならまだしも、武器なんて使ったところで意味がないし。人間の作る武器より強いポケモンなんてざらにいる。こんな役立たせようもないもの保管しといてもなあ、って思う。オレさまはケースに収められているそれらを流し見していた。リョータは横に付いて、これはナントカ王朝の三代目の王が採用したスパイク産の鏃で、とか解説してくれたけど、全然興味が湧かない。他にも食器の破片だとか、曲がったスプーンとか。なんでそんなもの大事にとっておいたんだろう。スタジアムの隅っこでミックスオレ飲んでた時は溜息ばかりだったけど、今は欠伸しか出てこない。足が棒になるくらい歩いて、ようやく宝物庫のバックヤードの三割を見終わった。
「で、これで最後?」
「ええ、今日のところは。よく頑張られましたね」
大きな扉の前で立ち止まってオレさまが聞くと、リョータはにっこりと笑った。今日のところ、って言葉が引っかかるけど、今は何も言わないでおく。まだまだ見るべきものがあるんだろうけど、今は考えたくない。
「どうでした?」
「つまんなかった」
オレさまが唇を突き出して正直に言うと、リョータはくすくす笑った。今日のメインディッシュはバックヤードではなく、上の階に保存されているらしい。まあ、あるものなんて精々が城主の鎧か、古い旗かってところだろう。オレさまは全然興味のないものを延々と見させられて、すっかりへそを曲げていた。
「どうせなら、英雄の剣のレプリカとかが見たかったぜ」
「ははは。じゃあ、これも気に入るかもしれませんよ」
リョータは大きな木の扉を体ごとぶつかっていって開け、そしてオレさまに早く中に入るようにと手で招いた。オレさまは扉とリョータの間に滑り込んで、中に入った。中は薄暗くて、あまりよく見えない。かつん、と高い靴音が反響する。それでこの部屋が石造りの床がそのままなんだと分かった。バックヤードは極度の湿気や乾燥を防ぐために、壁や床は板張りになっていたのに。
「どこにあるんだ?」
「待ってください。今明り取りを……」
ごうん、と不思議な音がして、オレさまは振り返った。見ると、リョータが扉のすぐ横にあるハンドルを回している。一周回すごとに、部屋の中が明るくなる。ごうん、ごうんと唸るような音を立てながら、天窓がゆっくりと開いていく。最後にがしゃん、と大きな音がして、ハンドルは回らなくなった。リョータがホッと息を吐く。天窓から差し込む光が、部屋の奥に保管されていたものを照らした。
それは、四枚のタペストリーだった。
一目で随分古いものだと分かった。タッチが教科書に載っていた中世の王族の肖像画よりももっと古い。千年くらい前のものなんじゃないかと思う。少し日に焼けて色褪せてはいるけれど、しっかりと色が残ってる。赤色なんかは鮮烈に残っている。オレさまは、それを見た瞬間に雷で撃たれたみたいに動けなくなった。目が離せない。オレさまは、タペストリーの四枚目に釘付けになった。
そこに描かれているのは平和な大地だった。鳥が飛んで、獣が地に満ちて、そしてそこに二人の若者が立っている。二人は同じ大きさで、お互いを見つめている。後ろに描かれているのはナックル城だろうか。スタジアムの天辺付近の造りとよく似ている。二人とも王冠を被り、手を伸ばしている。最初に思ったのは、羨ましい、だった。それから、どうして。
「出典は分かりませんが、御伽噺をタペストリーに縫い留めたものと思われます。左から順に―――――、キバナ様?」
解説しようとしていたリョータが、オレさまの顔を見て不審そうに顔を歪めた。それから、酷く焦ったように目が動く。そこで初めて、自分の頬と目が異様に熱いこと、それから睫毛が濡れていることに気が付いた。知らないうちに、泣いていたらしい。
「ご、ごめん。なんか……、急に」
オレさまが慌てて涙を拭うとリョータはますます焦ったようで、手を上げたり、下ろしたりし始めた。そりゃ困るよな、と冷静に思う自分がいる。迷惑だと分かってる。年下の子に脈絡なく泣かれたら、オレさまだって困るだろう。止めなきゃ、と思うのに、瞬きのたびに大粒の涙が零れた。
胸が喜びに震える。オレさまが求めていた水平な関係が、ここにあった。学校の友達とはこうなれなかった。パートナーたちでは満足できなかった。独りよがりの願望なのかもしれないと、諦めかけていた。でも、そうじゃなかった。昔の人も、同じ思いを持つ人がいたんだ。じゃなかったら、こんなに古いものがどうして今まで残されているんだ。その事実に安堵と、そしてどうしようもない喜びがあった。オレさまは独りじゃない。こんなに美しく、オレさまの夢を昔の人は残してくれていたんだ。
「オレさま、こういうふうになりたい………」
言葉が勝手にぽろりと零れた。こうなれたら、どんなに良いだろう。分かち合える誰かと一緒にいられたら、どんなに素晴らしいだろう。そうなれるなら、オレさまは何にだってなるのに。どんなことも惜しまないのに。
脳裏にダンデの姿が閃いた。あの、バトルの最中に見せる顔。そして、バトルが終わった瞬間の失望した顔。
分かるよ。
満たされないときの、あのどうしようもない空っぽな気持ち。オレさまはそれが分かったから、ここまで来た。オレさまはダンデとこうなりたい。このタペストリーみたいになりたい。どんなに無謀な願いでも、そうなれる目があるならオレさまは諦めない。
そう思った瞬間、天窓の外が急に明るくきらりと光った。え、と思って顔を上げるとすぐに、ドン、と地面に衝撃が走る。何かが落ちた。それも、かなり近い。
「キバナ様、外へ!」
リョータがオレさまの腕を掴んで、扉に突進していく。オレさまは唖然としてされるがままになっていた。
外に出ると、近くを歩いていた人の困惑している声で満ちていた。「あれ」「なに?」「宝物庫が!」ひょいっと下を覗くと、皆がオレさまの方に向かって指をさしている。なんだ、と思って振り返ると、宝物庫の頂上近くの石が大きく抉れていた。抉れたところから、しゅうしゅうと煙が立ち上っている。何かがあそこに落ちたのか。でも、なにが?
「……なんだ、これ」
オレさまが呟くのを聞いたリョータは、すぐに緊張した面持ちで頷いた。
「少々お待ちください」
リョータはボールからペリッパーを呼び出すと、抉れた箇所を検分してくるように指示を出した。だが、肝心のペリッパーはどうしてかそこに近付くのを嫌がり、避けようとしている。それを見て、オレさまは顔を顰めた。あんまりポケモンが嫌がっていることを強要したくない。危険なことを知っているんだ。彼らは賢い。人間よりもずっと、危険に敏感だ。
「いいよ、オレさまが行く」
オレさまは宣言して、上を見た。まだ煙が細く出続けている。そんなに熱を持ったものなんだろうか。オレさまはフライゴンをボールから出すと、その背中に飛び乗った。そしてゆっくりと上昇するように指示をする。フライゴンは少し嫌な顔をしながらも、大人しく上へと向かった。オレさまは屋根に飛び移ると、煙の方に慎重に近寄って行った。念のために煙を吸わないように、身を屈めて、呼吸を浅く忍ばせる。フライゴンが心配そうにオレさまを見ていた。
煙の元には、拳大の石が埋まっていた。石はところどころ割れていて、その石の隙間から紫紺の光が漏れ溢れていた。オレさまはひゅっと息をのむ。まさか。そんな。
オレさまは恐る恐る手を伸ばして、そしてその石を掴んだ。その瞬間、石は目が潰れるほどの閃光を放ったあと、光らなくなった。オレさまはパーカーを脱いで、その石を大事に包んだ。そしてまたフライゴンにお願いしてリョータの傍に下ろしてもらった。
リョータはオレさまが戻ってくると、安心したように目を和ませた。オレさまは黙ってパーカーを解いて、石を見せる。リョータはひとつ頷いて、オレさまに跪いた。リョータもきっと、分かってたんだ。
「おめでとうございます、願い星です。キバナ様は、ご自分の心から望むことを此処で見つけられたんですね」
「うん……」
オレさまの返事が固いのに、リョータが首を傾げた。きっと、願い星を手に入れたら大はしゃぎして喜ぶだろうって思ってたんだろうな。オレさまはそれよりも、大きな責任を背負ったんだって、柄にもなく気負っていた。オレさまの本当の望みであり、目標はここにあったんだって思い知った。だからこそ願い星は降ってきた。そうやってオレさまの大願は証明された。だったら、もうオレさまに出来ることはひとつだけだ。ただ、走るしかない。
「オレさま、ダイマックス出来るようになるんだな」
「もちろんです。チャンピオンも、そう確信していらっしゃいましたよ」
オレさまが確認するように問うと、リョータは当然だと返してくれた。そうか。そうだよな。
オレさまは強くならなくちゃいけない。ダンデと対等になるために。無敗と呼ばれる男と並び立つために、あらゆる犠牲をはらわなくちゃいけない。
オレさまはきゅっと唇を引き結んで、もう一度宝物庫の方を振り返った。宝物庫の石壁は、冷たく太陽の光を弾いて鈍く光っていた。
ダンデに相応しくなろう。誰よりも、何よりも。
オレさまは十歳で、自分の人生のすべてを決めた。
◇◆◇
いつか至る、星の頂点
「これよりガラルスタートーナメントの開催を宣言する!」
オレさまは呆れていた。確かに、ダンデと一緒に王冠を被れたらなあ、みたいなことは言った。二人で頂点に立ちたいって。だからって、こんなさ。嘘だろ。そんな、オレさまの夢をとんちみたいな方法で解決しようとするなよ。ばっちりと決まったリザードンポーズを見ながら、オレさまは何だか胸の内がスッと晴れていくような気がした。呆れてるよ。呆れてるけどさ、でもやっぱり嬉しいのも本当だ。
ダンデがオレさまの方を見て、にかっと笑った。オレさまはそれに思わず笑った。馬鹿だな。本当に馬鹿。でも、ダンデのそういう馬鹿さは嫌いじゃないし、予想外のことをしてワクワクさせられるのも本当だ。
ダンデのスピーチが終わって、選手たちは皆次々とピッチを後にしていく。オレさまも戻らくちゃ、と思って足を踏み出した瞬間、腕を掴まれた。振り向くと、ダンデがいた。
「キバナは俺と組むだろ?」
さも当然、と言わんばかりの表情に思わず吹き出す。傲慢がすぎるだろ。オレさまにはここできっぱりと嫌だと言う権利だってある。でも、それでもこの男はオレさまがダンデと組むのが自然の摂理だって本気で思っていそうな顔で声を掛けてくるんだもんな。参るよ。
衆目もある。場内はざわめきで満ちている一方で、戸惑った様子はない。オレさまとダンデが組むのが当然って思ってるのかな。まあ、この面子ならそうかも。ここですげなく腕を振り払ったら、観客はがっかりするだろう。オレさまだってダンデを追いかけて10年くらい、ずっとオーディエンスの求めるパフォーマンスをしてきた。これから最高のバトルが始まるって言うワクワクを、こんなところで台無しには出来ないよな。オレさまもにかっと笑って見せる。
「素直にオレさま以外の奴とは組めるほど仲良くないって言えよ」
「間違ってないが、少しだけ言い方を考えてくれ。俺は、君以外と組む気はないぜ」
じっと下から熱っぽく見つめられて、背筋がぞくっと粟立った。
なんだ?なんか、いつもとちょっと違うような気がする。どうにも視線が粘っこくて、それでいて険があるような気がする。怒らせたのか?でもそういう感じじゃないような気がするんだけどな。オレさまは困惑を表に出さないように笑顔を張り付けて、歯を剥き出して挑発した。バトルの時みたいに。
「熱烈じゃん」
オレさまが茶化すとダンデは少し怒ったように眉を寄せたが、すぐにパッと皺を緩ませた。
「君の夢を俺も見たくなった」
そう言って、ダンデは笑った。さっきまでの粘っこい視線が嘘みたいに、からんと乾いた笑い方だった。少年っぽいって言い換えても良い。髭がなかったら、十分ティーンで通用しそうだ。ダンデは腕を掴んでいた手をずらして、オレさまの手を握り込む。
「二人で頂点を見に行こう。そうしたらきっと、俺たちはどこまでも強くなれる!」
ダンデはオレさまの手を握って、まっすぐにオレさまの目を射抜くように見つめた。その瞳は吸い込まれそうなくらいに透き通っている。未来への展望に胸をときめかせる少年そのものだ。菫色の髪が風で大きく靡いて、観客がわっと歓声を上げる。10年もスタジアムに立っていたら何度も見れた光景だ。でも、こんなに近くでこんなにも輝いているダンデを見るのは初めてだった。ハッとして、目が逸らせなくなる。じわ、と目尻に熱が籠った。
「待……っ」
オレさまは慌てて手を振り払って、ダンデを静止させるために手を突き出した。そして真上を向いて、瞬きを我慢する。それでも雲の形すら判然としないほど、オレさまの視界は歪んでいた。一回瞬きをしてしまったら、絶対止まらなくなる。
歓声が困惑のどよめきに変わる。しまった、と思ったけどまあ仕方ない。
「悪い。アー、違う。そうじゃないんだよ。ちょっと待ってな」
大きく何度か深呼吸を繰り返して、それからダンデをもう一度見た。ダンデは何故かにやにやと得意げな顔をして腕を組んでいた。なんだそのドヤ顔。
「俺のスピーチが響いたか?」
「違う。全然違うから」
ふーん、とか何とか言いながら、ダンデは「俺には分かってるんだぜ!」みたいな顔をやめなかった。ムカつく。肩をどついてみたけど、ダンデはびくともしなかった。分厚い胸板してるな。知ってたけど。
「じゃあ、どういう?」
ダンデが挑発的に顎を上げて、笑って見せた。オレさまはダンデの煽りを無視して、ダンデの手を無理やり引っ張り出すとしっかり握る。そしてそのままクルッと観客の方に体を向けて、見せ付けるように高々と繋いだ手を上げた。観客から安堵の溜息と、それから歓声が再び降り注ぐ。
ダンデはまだ何か言いたそうにしていたけど、結局は観客へのサービスを優先した。ダンデも客席に向かって手を振り、声援に応える。10年スタジアムでライバルやってた奴らがタッグバトルやるって言うのは、そりゃ見応えあるよな。対峙していた時じゃ分からなかったけど、オレさまもこの10年で少しはダンデに追いついていたんだろうか。会場の雰囲気が少し落ち着いたら手を離そうと思ってたけど、四方に手を振り終わってもまだ観客たちの歓声は止まなかった。仕方なく、オレさまが程々のところで手を解く。ダンデは残念そうな顔で、俺の方をちらっと見てきた。それでようやく、客も静かになってきた。
「……はい、おしまい。お前とタッグは組む。でも、お前に勝つのは諦めねえから」
オレさまがそう宣言すると、ダンデは笑わずに頷いた。これも当たり前ってか。付き合いが長いとそういうところ嫌になるな。
「二人で頂点に至りたいって言うのは?」
「それはそれ。これはこれ。分かるだろ?」
「まあな」
「……」
「…………」
ダンデはキリっとした顔をして見せた。オレさまもそれに合わせて、口元を引き締める。でも、それもすぐに駄目になった。二人で同時に吹き出して、肩を叩き合う。それこそ、少年時代からそんなでしたよ、みたいな感じ出しながらさ。こんなこと、ダンデとするのなんて初めてだったけど。
10年前、出会った頃からこういう関係でいられたら、オレさまとダンデはもっと違う関係になっていたんだろうか。想像してみようとしたけれど、難しかった。だって、どうやったってこれまでのことは変えられない。だったら、これからを変えるしかないんだ。
「作戦会議しようぜ!」
「おう!」
元気な返事のわりにのっけから逆方向へ行こうとするダンデの首根っこを掴んで、控室に向かう。ワクワクする。どうやったって、どんなになったって、オレさまたちはこれから一緒に頂点を目指していく。強くなっていく。今よりももっと、オレさまはダンデと言う男に相応しくなって見せる。そうしたら。
そうしたら、きっと誰もがオレさまたちを羨望の対象として語るだろう。競い合い、磨き合い、それでも対等である二人として語ってくれる。トレーナーとして、人としてこれほど恵まれたことはない。贅沢な望みだ。でも、オレさまはそれを諦めないし、遠くない未来には手に入るかもしれない。そういうふうに、語られる存在になりたい。
それで、オレさまたちがシュートスタジアムに立たなくなった後も、誰かに語って欲しい。『ダンデとキバナっていう、最高のライバルが昔のガラルにはいたんだよ』って。