情事が終わったあと、ぽんと放り投げられるようにして渡されたのは一通の招待状だった。ドラゴンの封蝋がしてあり、表にはミスタ・ダンデ、そして裏はナックルのキバナと署名されていた。その時点でダンデは思いきり顔を顰めた。ナックルのキバナ。なんて厭な響きだろう。思わず舌打ちをしたくなる。
この時期に渡してくるとなると、招待状の中身はクリスマスの大晩餐会の誘いだろう。ナックル城の主がガラル中の有力者を集めて行う、一年で最も盛大な催し物だ。毎年ニュースにもなる。おかげでダンデはキバナとまともにクリスマスを過ごせた記憶がない。恋人になった今でもだ。またキバナをナックルに取られるのかと腹立たしい気持ちにこそなれど、快く行くと返事が出来る気分にはとてもなれなかった。
チャンピオンの時もこの晩餐会に招待されたが、酷く退屈だった記憶しか残っていない。キバナと席は遠い、見知らぬ人間には絡まれる、バトルは出来ない。ダンデにとっては何も得るもののない時間だった。チャンピオンでなくなってからはそれなりに権力も得たので、この晩餐会は代理を立てて欠席していたのだ。今回も代理を立てて逃げようかと返事をしないうちから胸中で算段を付け始めた。
キバナはそんなダンデを見て笑っていた。機嫌を取るように前髪を掻き上げられ、軽くキスをされる。それでもダンデは機嫌を直す気にはなれなかった。むっつりと口を引き結び、むくれて見せる。
「ヘイ、ハニー。そんな顔するなよ」
キバナはくすくすと笑っているが、それでも首にはあの十字架がもうぶら下がっている。面白くないという思いは今にも爆発しそうだった。
「……相変わらずピロートークが下手な男だな、君は」
苛々と指を爪弾いていると、やんわりと手を取られて止められる。
「おいおい、言ってくれるじゃねえの。一番にお前に渡してやったって言うのに」
「一番?」
その言葉に思わず顔を上げると、自然とキバナと視線がぶつかった。キバナは柔らかに笑ってみせる。そして小さい子供を慰めるようにダンデの髪を撫でつけた。
「そうだ。お前以上の客はいない。来てくれるならダンデが一等大事な客だ。オレさまの一番近くに座って、乾杯のグラスを交わせるぜ」
幼児に言い聞かせるような調子だった。事実、ダンデに言い聞かせていたのだろう。
「どうしたんだ。今まで俺みたいな若造は末席扱いだったろ」
「お前も随分頑張ったからな。古い方たちが是非にお前を上座に座らせろと仰せなんだよ。それで、どうする?」
キバナに促されて、ダンデは少し考えてみる。キバナのすぐ横に座る自分。食堂に会した人々を尻目に、和やかに食事を楽しむ。言ってしまえばあの昼食会のときのような感じだろう。それは――――まあ、悪くはない。壇上に二人きりとまではいかないだろうが、それでも二人揃って会場を見下ろすようにして食事をするというのも良いだろう。そこからの眺めはダンデの顕示欲が満たされる光景に違いない。
「ダンデ。オレさまに招かれてくれるか?」
キバナがジッとダンデの瞳を覗き込んできた。澄みきったブルーの瞳に吸い込まれそうだ。
「スケジュールを合わせておく。君に恥はかかせられないからな」
ダンデが返すと、キバナは腹を抱えて大いに笑った。だがダンデは半分は冗談にしても、半分は本気だった。クリスマスにキバナの横で食事ができるというのだから、リーグ委員長にも経営者にもなった甲斐があったというものだ。