セミナー

2020年 7月~11月

7月から11月にかけて、招待講師によるウェブセミナーを開催します。ツールはzoomまたはcisco webexを利用します。

対象は大学院生を想定していますが、どなたでもご参加いただけます。学部生や異分野の参加者も歓迎します。参加無料です。

定員500名。

<お願い>

・発言するとき以外は、ミュートの設定にご協力ください。荒らし等に対しては、ホストより退室処理を行う場合があります。

・講師に聴講者の顔が見えるよう、よろしければカメラをオンにしてください。

・双方向的な交流のあるセミナーができるよう、講演中でも質問を口頭あるいはチャットで行えるようにします。また、いろいろ質疑応答ができる時間用意します。積極的にご参加ください。

・講義の再配信は行わない予定です。また、録画は固くお断りします。

これまでのセミナー

第7回 講師:中川 大也(東京大学)

11月10日(火)13:00-17:00

題目:周期駆動量子系における非平衡物質相:Floquetエンジニアリング、トポロジカル相、時間結晶

概要:↓

非平衡な量子多体系は、固体物性のレーザーによる超高速制御・冷却原子気体などの大規模量子シミュレーター・量子情報処理などの様々な応用へと結びつく重要な対象であるが、一般に理解することは容易でない。そのような非平衡量子系の中でも、ハミルトニアンが時間に関して周期的に依存した周期駆動系というクラスに関しては系統的な理解が可能であることが認識され、ここ10年ほどの間に爆発的に研究が進展した。これは系に内在する離散的な時間並進対称性の恩恵であり、数学的にはFloquet理論というもので表される。この離散時間並進対称性に基づいたフレームワークにより、「非平衡状態における物質相」といういくらか漠然とした概念に対しても、明確な理論的基礎の下で議論できるようになってきた。

本セミナーでは、このような周期駆動量子系の近年の発展の中から、基礎的な話題を中心にお話ししたい。トピックは大きく分けて3つである:まず、時間周期的な外場によって量子相を制御する「Floquetエンジニアリング」の基礎について説明する。次に、時間発展演算子のトポロジーを利用した、平衡系には存在しない非平衡系特有のトポロジカル相について、講演者自身が得た結果も紹介しつつ解説する。最後に、離散的な時間並進対称性が自発的に破れた相である「(離散)時間結晶」について述べる。特に、時間結晶については混乱も多いため、Floquet理論の立場から設定をできる限り明確にして、何が問題であるのか・その解決法はどのように理解されるのかを説明したい。

第6回 講師:田島 裕康(電気通信大学)

9月28日(月)13:00-17:00

題目:対称性のリソース理論:保存則の元での測定・操作の原理的限界

概要↓

我々が実行できる操作は、物理法則によってさまざまな制限を受ける。

そうした制限の中でも古くから研究されてきた制限の中に、「保存則が量子的な操作・測定にどのような制限をもたらすか?」というものがある。この問題は測定に関してはWignerが1952年に、操作に関してはOzawaが2002年に始めて提唱した。

現在、こうした問題がリソース理論の視点からrefinementされ、より一般的な「精度とリソースの関係」としてまとめられつつある。こうした理解のもとで、物理量の測定や量子計算(ユニタリー演算)のように一見異なる多くの種類の操作の実行コスト(必要なリソースの量)が、同一形式の漸近等式で記述できることが分かってきた。

この集中ゼミでは、量子情報理論の基本事項・保存則のもとでの測定・操作に関する研究の歴史を概観した後、リソース理論における最新の知見、量子情報理論の各種最新の話題との関連までを一通りまとめる。

第5回 講師:鳥谷部 祥一(東北大学)

9月23日(水)13:00-14:30

題目:キネティックな非平衡制御が生み出すエラー抑制 ー 生体分子機械とPCR ー

概要↓

 エラー制御,すなわち,「準安定状態へのトラップを避け,安定状態へと導く制御技術」は,多様な分野における中心的課題である.たとえば,PCRの擬陽(陰)性,HDDの書き込み失敗,結晶欠陥,たんぱく質のミスフォールディングによる病気など,エラーは多岐に渡る問題を引き起こす.

 エラーを抑えるための標準的な方法は,安定状態と準安定状態の安定性の差に頼るエナジェティックなエラー制御である.しかし,この制御法では,エラーを抑えるためにはゆっくりと反応を進める必要があり,エラー率と速度の間にトレードオフがある.また,エラー率の抑制は熱力学的限界があり,大きくエラーを抑えることができない.一方,安定性ではなく緩和速度の差に注目したキネティックなエラー制御は,速いほどエラーを抑えられ,上記のトレードオフを超えることができる.また,エラー率は熱力学限界を超えて抑えることが可能となる.

 本セミナーでは,PCRなどにおけるハイブリダイゼーションエラーを抑制するキネティックな制御法,および,生体分子機械であるF1モーターがキネティックなエラー制御機構についてお話したい.

第4回 講師:池田 昌司(東京大学)

9月2日(水)13:00-16:00

9月3日(木)13:00-16:00

9月4日(金)13:00-16:00

題目:ガラス系の物理学

概要↓

 私達の身の回りにある固体(hard/soft)には,乱れた構造を持つものが多い.窓ガラスなどの無機ガラスや金属ガラスなどはhard固体からの例であり,歯磨き粉などのペーストや粉体などはsoft固体からの例である.この種の固体をひとまとめに,ガラス系と呼ぶ.近年では,細胞質内のタンパク質の混み合いや高密度な細胞集団なども,ガラス系の文脈で議論されることが増えてきた.実は,これらの多様なガラス系は,その弾性や振動にいくつかの「普遍的性質」を持っている.非アフィン的な変形,乱れたソフトモードの存在,微小な外力に対する非線形な応答などである.つまり,「ガラスはとても脆い」のである.年,ジャミング転移と呼ばれるガラス系に特有の臨界現象の研究が進展したことにより,このガラス系の普遍的性質の理解が深まってきた.本講義では,この近年の進展について立ち入った議論を行う.具体的な講義プランは以下の通りである.

  1. イントロダクション(連続体力学のおさらい,液体・固体・ガラスとは,ガラス系の普遍的な性質)

  2. ジャミング転移とは何か

  3. ジャミング転移の平均場理論(乱れたバネネットワーク系の有効媒質理論)

  4. ガラス系のマージナルな安定性

第3回 講師:冨樫 祐一(広島大学/理化学研究所)

8月29日(土)13:00-16:00

題目:生化学反応の数理~分子の状態・形・数の問題

概要↓

 生物の活動の多くは化学反応によって支えられている。それらを反応系・反応拡散系として数理モデル化した研究もまた数多い。生物の形態形成を自発的な空間パターン形成として説明しようとしたチューリングの研究から70年近く、計算機と定量的な実験技術の進歩に伴って今も発展を続けている。

 これらの研究では、多くの場合、化学成分の濃度を変数とした微分方程式(反応速度方程式・反応拡散方程式)が用いられる。この古典的な枠組みでは、分子の状態・個性や、形状・排除体積といった特性は捨象され、また分子は無数にあるものとして連続濃度で表現される。これはマクロな系での反応拡散を考える上では概ね正しいように思われる。しかし、細胞1個の内部といったミクロな領域、かつ、高分子で混雑した環境では、分子の状態や形、また数の有限性が顕わになる場面が想定される。それはどのような効果をもたらすだろうか。

 本講演では、生化学反応のモデル化とシミュレーションの手法と実例を紹介した後、主に少数性の問題について、簡単な触媒反応モデルを例に解説する。実際には「状態の問題」「形の問題」「数の問題」は独立でなく、互いに影響しあっている。それが端的に現れる例として、細胞核内のクロマチン構造(DNAがタンパク質と複合体を形成して折り畳まれた構造)に関する最近の研究についても触れたい。

第2回 講師:金澤 輝代士(筑波大学)

8月3日(月)13:00-17:00

題目:ブラウン運動の統計力学の応用:金融市場とアクティブマター

概要↓

 物理系のミクロ動力学を出発点に系のマクロな挙動を理解することが、統計物理学の目的である。その歴史的な例としてブラウン運動を考えてみよう。ブラウン運動は、水分子がブラウン粒子にランダムに衝突を繰り返すことによって引き起こされる。統計物理学ではこのミクロ描像は分子運動論によって定式化されており、ミクロ系のニュートン力学を出発点に、ボルツマン方程式・ランジュバン方程式といったブラウン運動の基礎方程式を体系的に導出することが出来る。

 本手法の成功を鑑みるに、「分子運動論」の数理的な枠組みを拡張し、非物理系のランダム現象の微視的な理解に応用することは自然なアイディアだと考えらえる。実際、ボルツマン方程式を数学的に導出するための計算テクニック(BBGKY階層構造方程式)は、本質的に物理系特有の計算テクニックは関わっておらず、非物理系にも数学的に拡張・応用することができる可能性がある。そこで本研究では、「分子運動論」の枠組みを非物理系、特に金融系・アクティブマター系に応用した、「広い意味での統計物理学」の研究結果を報告する。

 まず前半では、金融市場への応用研究[1, 2]を報告する。金融市場での為替レートはブラウン運動と類似した挙動を示す。この金融市場のブラウン運動を、トレーダーのミクロ確率モデルを出発点に、「分子運動論」的な縮約方法を用いて理論解析を行う。具体的にはまず、金融市場のデータ解析を通じて個々の市場トレーダーの行動法則を解明することで、金融市場のミクロモデルを推定する。データ解析から帰納されたミクロモデルを出発点に、分子運動論の数理を用いることでマクロ系に向けて系を理論的に縮約する。この理論を通じて、金融市場のマクロな統計則を理解することを試みる。

 次に後半では、アクティブマター系への応用研究[3]を報告する。アクティブマター系では生物のアクティビティに由来して物質の拡散現象が著しく促進され、異常拡散が観測される。この異常拡散を、アクティブマターのミクロ動力学から、「分子運動論」的な縮約計算を通じてミクロから理解した研究結果を報告する。特に、縮約の結果としてレヴィ・フライトと呼ばれる異常拡散の数理モデルが表れることを理論的に示すことができた。レヴィ・フライトは幅広い複雑系をモデル化することができる数理モデルであるが、本研究はこのモデルに対して、統計物理学の観点から初めてミクロ的なサポートを与える具体的な構成例を提示したことになる。

[1] K. Kanazawa, T. Sueshige, H. Takayasu, and M. Takayasu, Phys. Rev. Lett. 120, 138301 (2018).

[2] K. Kanazawa, T. Sueshige, H. Takayasu, and M. Takayasu, Phys. Rev. E 98, 052317 (2018).

[3] K. Kanazawa, T.G. Sano, A. Cairoli, and A. Baule, Nature 579, 364 (2020).

第1回 講師:西森 拓(明治大学)

7月29日(水)13:00-15:00

題目:群れの組織動力学 ---アリの採餌実験とモデルによる考察---

概要↓

アリはハチと共通の祖先から進化し、現在地球上のほとんどの地域で繁栄を謳歌しています。私たちの研究室ではアリのコロニー(巣を共有する集団)が特定のリーダー無しで複雑な協調行動---分業制や時間交代制---を行って生産性を上げていることに着目し、その基本メカニズムを探るために、実験や数理モデルなどを組み合わせて研究を行ってきました。一例として、コロニー内の全てのアリにRFIDチップ(いわば、すごく小さいICOCA/SUICAカード)を貼り付け個体認識しながら、集団内での役割分担の移り変わりを長時間にわたって自動計測しています。そこから分かってきたのは、従来広く信じられてきたコロニー内での分業発生機構の仮説(=各仕事に関してアリ間に勤労度の序列がある)が正しくないかも知れないということです。セミナーでは、アリの様々な面白い行動や分業制について紹介した後、最新の実験データをもとに従来の分業発生の仮説を否定的な方向から検証し、採餌に関する「役割分担表」が時間に応じて大きく変化することを示していきます。

Ants have evolved to the present forms from the same ancestor with bees, through which evolution process, they have simplified their own structure and the behavior of each. In the on-going study, we introduce a new experimental method to analyze the statistical behavior of colonies of ants using very-tiny RFID tags attached to the bodies of all ants to recognize each. By analyzing the obtained “big-data of ant society” after more than three-months continuous measurement, we found various kinds of statistical structure of the ant society in which sophisticated task allocation among ants and its dynamical reorganization took place.

Reference

O. Yamanaka, M. Shiraishi, A. Awazu, H. Nishimori: Verification of mathematical models of response threshold through statistical characterisation of the foraging activity in ant societies, Scientific Reports 9, (2019) 8845.

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