エゾタマガイ

Cryptonatica janthostomoides (Kuroda & Habe, 1949)

レア度:いつでも見られる

形態:殻径4–5cm程度になる巻貝。和名の通り、球形で滑らかな貝殻をもつ。ツメタガイと違って、開口面が回転軸とほぼ平行に位置する。殻は分厚く堅いが、開口部の縁が欠けやすい。貝殻は濃淡のある褐色で、周縁に不鮮明ながら2本の白色帯がある。臍孔はC字型に隙間を作っているが、ほとんど塞がっていることもある。臍盤を含め、臍孔周辺は白い。蓋は石灰質で堅く、外縁部に沿って2本の溝がある。チシマタマガイ C. janthostoma (Deshayes, 1839) とはこの溝の有無によってのみ区別されているが (黒田・波部 1949)、溝がほとんど消えかかっていたり、1本しかなかったりする場合があるので、両者は連続する型と位置づけられるべきかもしれない (土田 1998)。七重浜では、今のところ溝のある個体のみを確認している。

生息域:北海道南部以南から種子島、黄海に分布し、水深10–50mの砂泥底に生息する。七重浜では、貝殻が頻繁に打ち上げられ、ツメタガイと共によく目につく。

生態:砂性がある。肉食性で、二枚貝の貝殻に歯舌で穴をあけて軟体部を摂食する (浜田 1961)。穿孔プロセスの序盤には、穿孔盤という器官からゼラチン状の物質を分泌するため、これが貝殻を軟化させる等、なんらかの形で掘削を補助していると考えられている (浜田 1961)。アサリを捕食する際の穿孔位置をツメタガイと比較した場合、本種のほうが殻頂から離れた位置を攻撃する傾向があるらしい (小菅 1967)。繫殖生態はよく分かっていないが、北海道有珠湾では4月に卵塊が採集されている (網尾 1955)。七重浜では、3月にも漂着が確認されている。したがって、同所性のツメタガイよりも早い時期に繫殖している可能性がある。卵嚢は、14~17個のまとまりで卵塊中に計7~9万粒ほど敷き詰められており、1個あたり1仔がプランクトンとして生まれる (網尾 1955)。

その他:砂茶碗なるものは本科の卵塊。卵塊の下縁にフリルがなく、ツメタガイの卵塊と区別できる (網尾 1955)。

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引用文献:

  1. 黒田徳米・波部忠重. 1949. エゾタマガヒ及びそれと混同せられてるた種に就いて. 貝類學雜誌, 15: 69–72.

  2. 網尾勝. 1955. 邦産玉貝科 7 種の卵塊及びその孵化幼生に就いて. 農林省水産講習所研究報告, 5: 137–158.

  3. 浜田颯子. 1961. エゾタマガイ Tectonatica janthostomoides Kuroda & Habe の穿孔について. 貝類学雑誌, 21: 212–217.

  4. 小菅貞男. 1967. ツメタガイとエゾタマガイの穴のあけかた. ちりぼたん, 4: 123–124.

  5. 土田英治. 1998. 根室湾から採集された上部浅海系の貝類の特性. 北海道区水産研究所研究報告, 62: 83–105.