ヨモギホンヤドカリ

Pagurus nigrofascia Komai, 1996

レア度:いつでも見られる

形態:体は緑褐色で、はさみ脚と歩脚に黒い斑点が散在する。全体にケアシホンヤドカリに似るが、ヨモギは歩脚の先端に黒い縞が入って先端が淡くオレンジ色になるのに対して、ケアシはつま先まで緑褐色である。また、第2触角はケアシよりも赤みが弱く、朱色に近い。はさみ脚と歩脚には、密に長毛が生えるが、個体差があるように思う。比較的最近になって新種記載されたが、当講座の大先輩の手によるものであり、茂辺地の標本がホロタイプ、葛登支の標本はパラタイプに指定されている(Komai, 1996)。

生息域:七重浜では堤防沿いの転石地帯に多く生息する。七重浜でヤドカリを見つけると大抵本種である。函館湾葛登支では夏の休眠期には、平磯の小石をひっくり返すと大量に見つかることがある。水温が下がる時期は、満遍なく活動している印象。

生態:冬に活発に活動する。雌は4~5月に産卵する。水温の高い夏季は石の下などで夏眠するため、孵化は翌年の初春(2月頃まで)になる(Goshima et al., 1996)。

その他:環境省のレッドリストで、準絶滅危惧種に指定されている。護岸工事などによる生息環境の悪化により、生息数が減少しているらしい。

2021年5月8日 りった水槽内で撮影
2019年4月@葛登支 木戸ガードペア 
2015年5月@葛登支 井戸端会議中 りった
2020年7月@葛登支 大友
2020年7月@葛登支 大友石の下で集まって夏眠する
2015年5月@葛登支 りった 井戸端会議遠景
2015年5月@葛登支 りった ヒライソガニの死骸に集まる

メスは結構重い

それでもメスをガードする

いつか報われるといいね

2015年7月@葛登支 りった ナイスアンテナ!
2016年3月31日@葛登支 りった岸側の水のないところにいた
2016年4月12日@葛登支 りったガードペア
2016年4月12日@葛登支 りったガードペア
2016年4月25日@葛登支 りったガードペア?と脱皮殻とカサガイの仲間
2016年4月25日@葛登支 りったちょっとややこしいですが、ヒメエゾボラが捕食するクボガイの仲間に乗っかるヨモギホンヤドカリです
2017年6月22日@葛登支 りった右ハサミを再生中なのか、左右のハサミがほぼ同じ大きさ
2021年2月@葛登支 大友げんきだして…
2021年2月@葛登支 大友わびさびを感じさせる色合い

ヨモギホンヤドカリのガッツン行動(繁殖期にオスがメスに貝殻をぶつける行動

ヨモギホンヤドカリの貝殻闘争(相手の貝殻を奪おうとする行動)

本種に関わる研究業績

  1. Kido, Y. and S. Wada 2020. Males display "inverse rapping" as a mating behavior to receptive females in the hermit crab Pagurus nigrofascia. Plankton & Benthos Research 15 (in press).

  2. 木戸結菜・伊與田朋未・石原(安田)千晶・和田 哲, 2019. ヨモギホンヤドカリの性的対立:オスによる交尾前ガードの試みに対するメスの拒絶行動. Cancer 28: 7-15.

  3. 小島早智・石原(安田)千晶・和田 哲, 2016. ヨモギホンヤドカリの交尾前ガードペアにみられる同類交配と闘争経験に基づいたオスの配偶者選択. Cancer 25: 17-24.

  4. Yasuda, C. I., K. Matsuo and S. Wada, 2015. Previous mating experience increases fighting success during male-male contests in the hermit crab Pagurus nigrofascia. Behavioral Ecology and Sociobiology 69: 1287-1292.

  5. Suzuki, Y., C. Yasuda, F. Takeshita and S. Wada, 2012. Male mate choice and male-male competition in the hermit crab Pagurus nigrofascia: importance of female quality. Marine Biology 159: 1991-1996.

  6. Yasuda, C., Y. Suzuki, and S. Wada, 2011. Function of the major cheliped in male-male competition of the hermit crab Pagurus nigrofascia. Marine Biology 158: 2327-2334.

  7. 吉井健二・竹下文雄・和田 哲, 2009. ヨモギホンヤドカリにおける繁殖と成長: オスの成長にとって交尾前ガード行動はコストとなるか? (Reproduction and growth in the hermit crab Pagurus nigrofascia: Do males incur costs for growth in precopulatory guarding?). 日本ベントス学会誌 64: 25-31.

  8. Goshima, S., S. Wada, and H. Ohmori, 1996. Reproductive biology of the hermit crab Pagurus nigrofascia (Anomura: Paguridae). Crustacean Research 25: 86-92.

引用文献:

  1. Komai T. (2016). Pagurus nigrofascia, a new species of hermit crab (Decapoda: Anomura: Paguridae) from Japan. Crustacean Research 25, pp. 59-72.