七番目の鬼灯さん

(関連作品)

ロクデナシビデオ


(登場人物)

・木春田(きはるだ):♂

ミステリー研究同好会会長。3年。

ノリと勢いでどうにかするタイプ。


・榎井(えのい):♂

ミステリー研究同好会副会長。3年。

生真面目だが面白そうなことには首を突っ込むタイプ。


・楸(ひさぎ):♀

ミステリー研究同好会メンバー。1年。

見知った仲の人としか話せない内気で人見知りなタイプ。


・柊木(ひいらぎ):♂

ミステリー研究同好会メンバー。2年。

幽霊部員だが怪談会にだけは顔を出す自由奔放なタイプ。


・佐倉(さくら):♀

ミステリー研究同好会に興味がある一般生徒。2年。

特徴の無い事が特徴。どこにでもいるタイプ。


・鬼灯(ほおずき):♀

ミステリー研究同好会に興味がある(らしい)一般生徒。3年。

語り部的立ち位置。ミステリアスなタイプ。


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(役表)

木春田:

榎井:

楸:

柊木:

佐倉:

鬼灯:

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鬼灯:ようこそ、皆様方。

   世にも不思議なお話の舞台へ、今宵もようこそいらっしゃいました。

   私の名前は、鬼灯と申します。

   取り敢えず今は、私の事は、名前だけ覚えておいていただければ……ふふっ。

   ……さて、貴方がたは、「七不思議」、という物をご存知ですか?

   怪談話の定番、とでも言うべきか、とある地に伝えられる、七つある怪奇を、全て知ってしまうと……

   ……ああ、それを今、私が言ってしまうのは、よくありませんね。

   これは失礼致しました。

   まあ、とにもかくにも。

   今回は、そんな「七不思議」に関するお話。

   舞台は、とある高等学校。

   5人の物好きと、私、合わせて6人が、一つの空間に集まったところから始まります。

   ……え?

   なんでお前が、その場にいるのか、って?

   まあまあ、いいじゃありませんか、そんなこと。

   野暮ったいお人ですね。ふふふっ……

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


木春田:と、いうわけで。

    「第一回・ミステリー研究同好会主催トリカタ学園七不思議怪談会」、

    開催させていただきまぁ~す。


柊木:いぇ~い。


榎井:長い。

   そしてなんで、そんな声低くして言うんだよ。


木春田:雰囲気出るかなぁ~って思ってぇ~。


榎井:なんだそれ。


楸:そんなことしなくても、十分このセットだけで雰囲気出てる……と思います……


柊木:なんだよぉ~、楸ちゃぁ~ん。

   場の雰囲気だけじゃなくてぇ~、参加者の気分っていうのも大事だろぉ~?


楸:え、ぇえ!?


木春田:そうだぁ~柊木君、いいこと言ったぁ~。


柊木:でしょぉ~。


木春田:だからぁ~、楸くぅ~ん。


楸:は、はい?


木春田:試しにぃ~、「うらめしや」って言ってごらぁ~ん。


楸:え、えっと……

  う、うらめしやぁ~……


柊木:……かわいい。


木春田:……かわいいな。


楸:ええ!?


榎井:ハァ……

   あのさ、そろそろ茶番やめないか。

   僕達だけじゃなくて、今回は一般生徒の参加もあるんだからさ。

   ……すみませんね、こんな、よくわからない集団で。


佐倉:え、あ、いえ……皆さん、愉快な方で。


榎井:そうかなあ。


木春田:ほーら。

    この人は、俺達の魅力を分かってくれてるんだよ!


柊木:そうだそうだー!

   ほら楸ちゃんも言ってやりなよ!


楸:そ、そうだそうだー。


榎井:部長はともかく、幽霊部員の柊木君まで調子づくなよ。

   完全に言わされた社交辞令だろ、今のは。

   それと楸さん、流されちゃ駄目。


楸:す、すみません。


柊木:く、くそう……

   なんとなく空気でいけると思ったのに……


榎井:身の程を知れ。


柊木:酷くね!?


鬼灯:……ふふっ。


榎井:ん、なにか?


鬼灯:いえ、別に。


木春田:……さて!

    じゃあ、話が少しばかり脱線してしまったが、


榎井:誰のせいだよ。


木春田:うるせえ! おだまり!


榎井:はいはい。


木春田:予め告知しておいた前情報で、今回の企画がだいたいどういうものかはわかっているとは思うが。

    「トリカタ学園七不思議怪談会」という名の通り、この学園に伝わる七つの不思議を解き明かし、

    その真相に迫ろうではないか! という企画だ。

    元々我々も、それなりに調査はしているんだが、いかんせん、調べ始めたのも最近だし、

    まだ全部は知れてないから、もしかしたら、外部からの人間が、残りの物を知ってるんじゃないか……

    なんていう、若干他力本願な期待も込めて開催している。

    参加条件は、たった2つ。

    「この学園の生徒であること」と、「七不思議を一つ以上知っていること」。


榎井:ああ、それぞれに七不思議について調べさせといて、情報の共有をしなかったのは

   これがやりたかったからってこと?


木春田:そういうこと。

    ぶっちゃけ、楸ちゃんに教えられるまで、俺はその存在も知らなかったしな。


佐倉:確かに、七不思議って言う割には、学内での知名度は、そんなに高くないですもんね。


楸:でもあの、学内でしか告知しないんだから、参加条件のひとつめは要らない気がするんですけど……


柊木:そりゃ、確かにそうだ。

   なんでこんな条件つけたんすか?


榎井:万が一にでも、物好きな教師が参加してきたら、いろいろ面倒そうだとか木春田が言って、

   急遽付け加えることになったんだっけ、確か。


木春田:そうだったっけ?


榎井:本人が忘れてどうするんだよ。


木春田:まあ、それはそれとしてだ。

    そういう条件で、駄目元で参加を募ってみたらあらびっくり、

    2人も参加希望者が来てくれたわけだ。

    えーっと……あれ、名前なんだったっけ。


楸:2年の佐倉さんと、3年の鬼灯さんです。

  ……よね?


佐倉:あ、はい。


柊木:2人は知り合い?


鬼灯:まあね。


佐倉:実は私も、そういうミステリーとかに興味があって、

   ずっとここにも入ってみたいなって思ってたんです。

   でも、なかなか一人で言い出す勇気が出なくって……

   そんな時に、鬼灯先輩に誘われたんです。


木春田:ほうほうほう、それはいいことだ!

    これを機に、是非とも仲良くしてくれ!


佐倉:はい。


鬼灯:ええ、こちらこそ。


(間)


木春田:よし、じゃあお互いの挨拶も簡単にだが済んだことだし、さっそく始めていこうと思うんだが。

    そもそも、この学園の七不思議がどういうものなのか、という事から確認しようと思う。

    よろしく頼む。


榎井:はいはい。

   (咳払い)

   このトリカタ学園には、明るみにはされていないが、不幸な事件が何件か起こっている。

   事故なのか自殺なのか、それすらも分からない物もあり、真相は未だに全て謎のまま。


楸:問題なのは、それらの犠牲者である者達の霊が、現在もそこに留まり続けているということ。

  現に、この学園で密かに囁かれている怪奇現象はその現場、もしくはその付近で必ず起きている。

  これらが彼らによって引き起こされているということは、想像に難くない。


柊木:しかし、彼らには決して興味を持ってもいけないし、近付く事も、断じてしてはならない。

   もしもこれを破れば、きっとあなたは、同じモノに成り果ててしまうだろう……


木春田:……とまあ、ここまでが、今回のパンフレットに書いた内容な訳だが。


榎井:作った側が言うのもあれだけど、悪趣味過ぎるよね。

   そりゃあ、好きでもないと絶対人なんて来ないよ、こんなパンフの集会。


楸:……確かに……


佐倉:あ、あの。


榎井:ん?


佐倉:私、七不思議については少ししか知らなくて、ほとんど鬼灯さんからの又聞きなんですけど……

   普通、七不思議って、全部知っちゃったら不幸が訪れる、とかあるじゃないですか。


柊木:あー、あるねえ。


佐倉:この学園の七不思議にも、そういうのってあるんですか?


木春田:ああ、それは……


鬼灯:あるわよ。


佐倉:え?


鬼灯:「この学園に伝わる不思議を全て知ってしまった者は、異次元へと連れていかれる」、らしいわよ。

   ま、本当かどうかは知らないけれど……ね。


佐倉:は、はぁ……そうなんですか。

   あの、ちなみに連れて行かれるっていうのは、誰に……?


鬼灯:さあ、そこまでは知らないわ。

   でも、そういうところにもまた、興味を唆られる……でしょ?


佐倉:……そうですね。

   正直、それを聞いて、ますます好奇心が湧きました。


柊木:お、いいねー、将来有望じゃん。


木春田:(M)

    ……そんな言い伝えあったかな……特にそういうのは無かったような……

     まあ、俺が知らなかっただけか……


木春田:よし、じゃあ今度こそ始めるぞ。

    方法としては、俺から時計周りで、順番にひとつずつ、自分が知っている不思議の一つを話していく。

    つまり、俺、榎井、楸ちゃん、柊木、佐倉さん、鬼灯さんの順だな。

    で、7番目にもう一回俺になるから、それで締めって事だ。

    なにか質問は?


榎井:特になし。


楸:大丈夫です。


柊木:特になーし。


佐倉:分かりました。


鬼灯:同じく、特になし。


木春田:よし、それじゃ、前置きがかなり長くなってしまったが。

    「第一回・ミステリー研究同好会主催トリカタ学園七不思議怪談会」、開始だ!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


柊木:それじゃ、さっそく部長からどうぞ。


木春田:おう。

    そんじゃあまあ、俺が一番最初に知ったやつにするかな。

    諸君は、「第3視聴覚室」の存在を知ってるか?


佐倉:第3視聴覚室?

   視聴覚室って、第2までじゃ?


木春田:それが違うんだな。

    この学園の別館3階に、一番日当たりの悪いところに、鍵も開かないし、プレートにも何も書いてない、

    誰かが使ってるわけでもない、そんな忘れられた教室があるんだ。

    別館自体が古いし、あまり使う機会も無いだろうから、知らなくても無理もない。


柊木:あ、でも確かに、俺見たことあるかも。

   それで、そこがどうかしたんです?


木春田:元々、この学園の別館は、ほとんどの教室が空きだったんだよ。

    というのも、開校当時は、あまり生徒数も多くなかった。

    でも、校舎は無駄に立派だし広いしで、使い道のない教室がかなりあったんだな。

    その中でも、視聴覚室ってのは、普通の教室よりも広いからな、物置に打ってつけだったわけだ。


榎井:うんうん。


木春田:で、ある時だ。

    とある教員が、授業で使うプロジェクターのテストをしていた。

    動作に特に問題は無し、切り上げて電気を点けようとしたが、一箇所だけ電気が点かない。

    ちょうどそこに予備の電球も置いてあったから、ついでに取り替えてしまおうと思ったわけだ。

    ……だが、誤って足を滑らせて、脚立から転落。

    しかも不運なことに、打ちどころが悪く、頭部を大きく切ってしまった。

    すぐに病院に運ばれていれば助かったかも知れないが、

    残念ながらその異変に誰ひとりとして気付くことはなく、そのままその教員は帰らぬ人となった。

    それ以来だ。

    深夜、第3視聴覚室で、一人でプロジェクターを作動させると、

    誰が撮ったわけでもないはずの、その教員の最期の一部始終が、勝手に映し出されるらしい。

    そして、映像の最後に、血染めの手をこっちに伸ばして、

    「助けてくれ!!!」

    ……と、叫ぶんだそうだ。


楸:……不気味だけど、悲しい話ですね……


鬼灯:即死じゃなかった分、霊の恨みとかも強そうよね。


佐倉:鬼灯さん……怖いこと言わないでくださいよ。


鬼灯:あら、失敬。


木春田:と、これが、「血染めのプロジェクター」っていう話だな。

    じゃあ次、榎井。


榎井:あ、うん分かった。

   えーっと、じゃあ同じく別館にまつわる話なんだけど。

   みんな、別館の東側の階段が、階問わず立ち入り禁止になってるのは知ってるよね。


柊木:え、あれも七不思議と関係あるんすか。


木春田:柊木、お前別館の話に食いつきいいな。


榎井:まあね。

   今じゃほとんどの学校でそうされてるように、

   この学園も、本館・別館共に、屋上への階段は封鎖されてる。

   でも普通は、屋上に続く階段、この学園の場合なら、3階から屋上への階段だけが封鎖になるよね。

   別館は、屋上へ続く階段が東側の階段なんだけど、それならなぜ、ここだけは全階封鎖されてるのか。


佐倉:あ、それ聞いたことあるかも。

   確か、とあるカップルが発端になったとか……


楸:カップル?


榎井:そう。

   学年まではちょっと分からないんだけど、とあるカップルがいたんだ。

   彼女の方は成績も優秀で、進学も安定していたんだけど、

   彼氏の方は、どうしても成績が芳しくなかった。

   どれだけ努力をしてもなぜか上手くいかず、精神的にも追い込まれて、

   ついには自殺まで考えるようになった。

   彼女はそれを必死で説得して、何度となく止めていたみたいなんだけど、

   限界が来た彼氏は、職員室から屋上への鍵をこっそり盗み、

   彼女の最後までの制止も虚しく、飛び降り自殺をしてしまったんだって。


木春田:それで、彼氏の幽霊がうろつくようになった、とかか?


柊木:あー、ありそうな話。


榎井:違うよ。

   問題になったのは、彼女のほう。


楸:彼女さんが、どうして?


榎井:彼女は結局、彼氏の自殺を止めることは出来なかった。

   心の空白を、自分では埋めることが出来なかった。

   何の力にもなれなかった……と、自分を責め続け、抜け殻のようになってしまい、

   成績も嘘のように、最低レベルまで落ち込んでしまった。

   そして遂には、授業に出ることも無くなって、ひたすらふらふらと、徘徊するようになったんだよ。

   最期に、彼氏と同じ場所から飛び降り自殺をするまでずっと、毎日のように。

   例の、東階段をね。


柊木:ああ……そういうことか。


榎井:そして、彼女は死んでからも尚、その霊が東階段を徘徊し続けている。

   もし彼女に出逢ってしまったら、その姿に導かれるように、飛び降り自殺をしてしまうんだ。

   奇しくもその元凶である彼女に、死に物狂いで制止されながらも、ね。

   ……以上、これが「東階段の悲哀」っていう話。


鬼灯:ちなみに、その霊につられて実際に飛び降りた人は?


榎井:僕が調べた限りでは、いないよ。

   あくまでもこれは噂だし、鍵も、昔より厳重になってるから。


鬼灯:……そう、それは残念。


榎井:え?


鬼灯:いいえ、なんでもないわ。


楸:それじゃ、次は私……ですよね。

  えっと……それじゃあ、恋愛繋がり、かどうかは微妙なんですけど、そういうので。


木春田:ほう。


楸:この学校には、どの学年のどのクラスも使用していない下駄箱があるんです。

  本館の南側、裏門の方に通じてる所です。

  さっきの、榎井先輩が話した別館の東階段みたいに、封鎖されてるわけではないけど、

  ほとんど立ち入り禁止区域に近い扱いなんだそうです。


鬼灯:ああ、あれね。


佐倉:知ってるんですか?


鬼灯:まあね。


楸:とある女子生徒が、学年が一つ上の男子生徒に恋をしてました。

  でも、その男子生徒は、スポーツ万能な上に成績も良くて、顔立ちもよかった。

  それでいて、気取ることも威張ることも無く、絵に描いたような完璧な人間。

  普段から競争率が高くて、そう簡単には近づくことすら、難しいような生徒だったそうです。


柊木:いつの時代もいるんすねえ、そういうやつ。

   嫉妬心をエネルギーにしてぶっ飛ばしたい。


木春田:激しく同感だ。


榎井:うるさいよ、バカ2人。


楸:それである時、彼女は、直接話が出来ないなら、せめて手紙で……と思い立ち、

  男子生徒の下駄箱に、こっそり入れておきました。

  その頃は、その下駄箱は普通に使用されていて、

  手紙を下駄箱に入れる、なんて習慣も馴染みの無い時でしたから、

  不思議なくらい簡単に実行できたんです。

  こうして、彼女は自分の想いを、彼に確実に伝える方法を得ました。

  実際に彼が、手紙を読んでいるかどうかまでは、確かめる勇気は無かったけれど、

  何も出来ない今までよりも遥かにマシで、何より、手紙は毎回ちゃんと無くなっていたし、

  取り巻きの女の子達の間で、噂になっているという事も無かった。

  そういう状況から、誰にも見付からないようにこっそり読んでくれているんだ。

  そう思うことが出来たんです。


木春田:甘酸っぱい話じゃないか。


楸:……違うんです。


木春田:ん?


楸:物事は……そんなに綺麗には進んでいなかったんですよ。

  その男子生徒は、表向きこそ完璧な生徒でしたが、裏ではとてつもなく、性根の悪い人間だったんです。

  彼は彼女からの手紙を、彼女の知らないところで大っぴらに公開し、

  その内容だけでなく、彼女自身の事も、これでもかというくらい貶して、楽しんでいたんです。

  取り巻きの女子生徒にも口裏を合わせてもらい、自分だけが安全な場所から見下ろしながら、

  見えない集団暴力を働かせていた。


榎井:……醜い話だ。


佐倉:酷い……他人の好意を踏み躙るなんて……


楸:そして、彼女がその真意を知り、絶望の淵に追いやられて姿を消すまでにも、そう時間は掛からず、

  彼も、女生徒達も、邪魔者がいなくなった、という程度にしか考えていなかった。

  ……でも、しばらく経った後、彼女は再び手紙を入れ始めました。

  ただし、その手紙に込められた感情は、愛だけでなく、底の知れない憎悪。

  およそまともな人間が書いたとは思えない手紙と一緒に、髪の毛、皮膚、血液、爪……

  彼女の一部を添えて、毎日毎日何通も、何十通と届け始め、

  男子生徒を精神的に徹底的に追い詰めて、最後には、自殺にまで追い込んでしまったそうです。

  ……そして、その男子生徒がいなくなった今でも、その下駄箱には彼女からの手紙は残っているらしく、

  その手紙を運悪く見つけてしまった者には、彼女の呪いが付き纏い、

  下駄箱だけでなく、家のポスト、机の中などの至る所に、彼女の体の一部が入ってくるそうです。

  紙一面に「スキ」の2文字がぐちゃぐちゃに書き潰された、血塗れの手紙と一緒に。

  そして、その呪いの果てにどうなってしまうのかは、まだ誰も知りません。


柊木:……地味に、実害高いのがタチ悪いな。


楸:この話は、「愛憎と呪いと下駄箱」という名前で、七不思議に数えられているそうです。


榎井:いつの世も、一番怖いのは人間だってことだね。


鬼灯:そうね。

   この話の場合は、一概にどちらが悪い、と断言できないところが、面白いと思っていたりするけど。


木春田:確かになあ。

    見方を変えてみれば……ってやつだ。


鬼灯:そうそう。

   ……じゃあ、これでちょうど半分ね。


榎井:半分?


佐倉:今のが7つのうち3つ目だから、半分ってわけじゃないんじゃ?


鬼灯:……ああ、そうね。

   そうだったわ、ごめんなさいね。


木春田:?

    そんじゃ、次は柊木、頼む。


柊木:はいはーい。

   楸ちゃんのがドロドロの重々だったから、俺はシンプルなのにしようかなー。

   えーっと、みんなは美術室って使ったことあるっすよね。


佐倉:え、はい。


木春田:まあ、授業でもよく使うからな。

    美術部と兼部してる楸ちゃんとかは、馴染み深いんじゃないか?


楸:そ、そうですね。


柊木:うん、だよね。

   でだ、その隣が美術準備室になってんだけど、そこに石膏像があるのは知ってるっすか?


佐倉:あの、顔の形した、彫刻みたいなやつですか?


鬼灯:首像ね。


柊木:そうそう、それそれ。

   あれなんだけど、たいていは偉人というか、古代ヨーロッパの人物をモデルにしてるんだよね。

   アグリッパとか、ラボルトとか、メディチとか。

   デッサンの授業で使うやつも、だいたいそのへんなんじゃないかな。

   で、普段はその首像は全部美術準備室に保管されてるんだけど、

   ある時、生徒の一人が異変に気付いた。

   「……おかしい、どう考えても、首像の数が多すぎる」って。

   明らかに、必要数以上の数の首像が、その美術準備室に保管されてたんだ。

   それこそ、十、二十、下手したらそれ以上の数が、所狭しと、ね。

   しかも更におかしいことに、その首像は、明らかにモデルが日本人なんだよ。

   作られたのもごく最近で、さっき言った代表的な物とは違う、どう見ても異質な代物だった。

   生徒は不審に思い、調べていくうちに、その真実にたどり着いたわけだけど……

   ……さあ、この首像、一体何だと思う?


木春田:うーん……ん?


楸:……ぇ、ま、まさか……


柊木:そう、そのまさか。

   その首像は、人の生首を、石膏で塗り固めただけの物だったんだよ。

   そして、それを知ったその生徒もまた、何者かの手によって首を切り落とされ、同じものにされてしまった。

   それ以来、深夜になると、美術室にはいくつものすすり泣く声と、呻き声が響き渡り、

   その隣の真っ暗な美術準備室には、部屋いっぱいの生首が転がってるそうだ……と。

   以上、「嘆きの首像」でしたー。


楸:……私、しばらく美術部行けないかもしれないです……


柊木:あははは、ごめんごめん。

   まあ普段は美術準備室は鍵が掛かってるし、そうそう入る機会も無いでしょ。

   ……それが逆に、不気味だったりもするけど。


楸:いーやーでーすー!


柊木:あはははは。


木春田:ここの部員の割に、結構な怖がりだからなー、楸ちゃんは。

    さて、次は佐倉さん、だっけ?

    今まで出た話以外で、知ってるものがあれば話してくれ。


佐倉:あ、はい。

   じゃあえっと……「タラナイさん」っていうおまじないなんですけど。


柊木:おまじない?


佐倉:はい。

   携帯電話を使って行うおまじないなんですけどね。

   4人で携帯電話を持って向かい合い、「タラナイさん、足らないものは何ですか」と全員で3回唱えてから、

   全員で同じ番号に、同時にかけるんです。

   もちろん、実在しない番号ですから、本来なら繋がるはずもないんですけど、

   その条件でやった場合だけ、誰ひとり話し中にならずに、全員の電話が、そこに同時に繋がるんです。


榎井:その相手が、「タラナイさん」ってわけだ。


佐倉:ええ。

   それで、順番は完全にランダムなんですけど、一人ずつ電話越しに、

  「〇〇が足りない、どこにあるの?」と尋ねてくるんです。

   それも、目だったり、耳だったり、手足だったり、舌だったり。

   必ず、人体のどこかを。

   それぞれの質問の答え方は決まっていて、4人全員が間違いなく答えられれば、

   願いを一つだけ叶えてくれます。

   でも、もしも一人でも、答えることが出来なかったら……


鬼灯:「目が足りない、どこにあるの?」


柊木:わ、わかりません……


鬼灯:「そう、それじゃあ……あなたたちのをちょうだい」。


楸:ひっ!!


佐倉:……ま、まあそんな感じで、参加者全員の、答えられなかったもの……

   今の例だったら、目を奪われてしまうそうです。

   途中で電話を切ったりしても、同じく、体の一部を取られてしまいます。

   一時期、一部の生徒の間で流行になったりもしてたんですが、

   調べてみたら、これも七不思議の一つだったみたいなので……


木春田:なるほどなあ。

    しかし、柊木と鬼灯さんは、この話知ってたみたいだな。


鬼灯:ええ、まあね。


柊木:実は俺、これとさっきので、どっちを話そうか迷ったんすよー。

   こういうの俺大好きだったから、人が集まればやってみようとも思ったんすけど、

   なかなか乗ってくれる人いなくって……


榎井:なんなら今度やってみようか、人数は足りてるし。


柊木:え、ほんとすか!?


榎井:楸さんがよければ、だけど。


楸:え、あ……はい……やる時はやります……


柊木:心底嫌そうだけど。


楸:知りません。


柊木:ご、ごめんって。

   そんなに怒らなくても……


鬼灯:さて、それじゃ、最後は私でいいのかしら?


木春田:ああ、鬼灯さんで一周だな。


鬼灯:オーケイ。

   ……といっても、そうねえ……

   あと私が知ってるのは……人体模型の話かしら。


佐倉:人体模型?


榎井:理科準備室に置いてあるやつだね。


鬼灯:あれ、実は2体目なのよ。


木春田:2体目?


鬼灯:ええ。

   1体目は、何回か話に出た、別館のどこかに置いてあるのだけれど。

   これは、その1体目にまつわる話。

   その1体目の人体模型は、パーツがそれぞれ取り外しが出来る物なのね。

   プラモデルのパーツみたいに、はめることも外すことも容易だから、おもちゃに近い物だった。

   そんな構造だったからか、悪戯で勝手に取り外して、

   そのままどこかに持ち去ってしまう生徒も、ちょくちょく現れ始めた。

   分解して持ち去ったり、中途半端に手の込んだ悪戯だったから、

   その人体模型のパーツは、少しずつ足らなくなっていったの。


柊木:あー、俺もそんなのあったら、同じことやっちゃいそう。


木春田:俺もー。


榎井:君ら……


鬼灯:……それで、そんな悪戯が横行し始めて1ヶ月が経った頃、学園内で、変死体が出始めたのよ。


楸:変死体……って?


鬼灯:体の一部分だけ、それも内臓の一箇所だけを、的確に抜き取られた死体よ。

   死因は分からないけれど、その死体は全て、例の悪戯の犯人達だった。

   ……ここからは、だいたい想像してる通り。

   人体模型に足らなかったパーツは、死体が出る度に戻っていた。

   つまり、人体模型のパーツのいくつかは、本物の人間のパーツで出来ている……って事ね。

   付け加えて更に悪いことに、犯人が全員殺されたわけでもないし、

   いくつかまだ、足りないパーツがある……

   だから、今でも夜になると、誰もいない別館を人体模型が徘徊していて、

   もしもそれに出会ってしまったら、どこまでも追い掛け回されるらしいわ。

   足らないパーツを補う為に……ね。

   以上、これが……ちょっとタイトルまでは忘れたけど、人体模型の話。


榎井:なるほど。

   ……なんか、6つ出たうちの3つが、別館にある物の話っていうのも凄いね。


柊木:曰く付きまくりって感じっすねえ。


楸:じゃあ、次が最後って事ですよね。


木春田:んー、それなんだがな。


楸:え?


木春田:実は、この学園に伝わってる七不思議の中で、明らかになってるのはこれで全部でな?

    もう一つは、未だに分かってないんだよ。


佐倉:あ、そうなんですか?


木春田:ああ。

    だから、最初に「一人一つずつ言って一周して俺が最後」とか言っちゃったけど、

    今鬼灯さんが言ってくれたやつが最後で、分かってるものは全部なんだ。

    一応俺もいくつか調べたんだが、みんなが言った話以外のものは出てこなかった。

    他に誰か、まだ出てない話を知ってる人は?


榎井:僕は知らないな。


楸:私も……


柊木:俺も知らないっす。

   というか、俺は2つしか知らなかったし。


佐倉:私が知ってる話も、全部出ました。


鬼灯:……私も、知ってるものは全部出たわ。


木春田:うーん、じゃあやっぱりこれで全部か。

    ま、「不思議を全部知ってしまうと異次元に連れてかれる」だっけ?

    そうなるのは勘弁だし、これで十分だろ!


榎井:なんか、中途半端に締まらない気がするけど。


木春田:き、気にすんな!

    さて、というわけで。

    これにて、「第一回・ミステリー研究同好会主催トリカタ学園七不思議怪談会」、

    略して「ドキッ☆夜の学校で怖い話!? みんなのトリカタ学園の謎を追え!~ポロリは無いよ~」

    を終了とさせていただきます!


榎井:え、なに? 今なんて?


柊木:全然略してもいない変な名前が聞こえたんすけど。


木春田:気のせいだ。

    ほら、さっさと帰るぞ。

    無理言って、こんな時間まで部室使わせてもらってんだから。


楸:そ、そうですよね。

  もう9時回っちゃってますし、そろそろ出ないと。


佐倉:はい、お疲れ様です。


鬼灯:……ふふ、うまくいった。


柊木:へ?


鬼灯:いえ、何でもないわよ。

   帰りましょう。


柊木:は、はあ。


木春田:……うわ! なんだこれ!


柊木:どうしたんすか?


木春田:電気全部消されちまってらぁ……

    さすがに長居しすぎたかな。


楸:で、でも、非常灯とか消火栓とか、そういうのすら消えてるのはおかしくないですか?


佐倉:停電でもしちゃったんでしょうか……


榎井:……あれ?


木春田:どうした?


榎井:……携帯、圏外だ。

   さっきまで3本立ってたのに。


柊木:え? そんなまさか……

   ……ほんとだ、俺のも圏外……


木春田:俺のは電池切れちゃってるから確認できないけど……楸ちゃんのは?


楸:け、圏外……です……


佐倉:……私のも同じです。


木春田:……た、ただの偶然だろ、電波の調子が悪いだけだ!

    電気とかもたぶん、用務員さんが俺達が残ってるって知らなくて、消しちゃっただけだろ!

    とにかく、さっさと帰ろうぜ、時間も時間だし!


榎井:………………


楸:………………


柊木:………………


佐倉:………………


鬼灯:…………ふふっ。    

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


鬼灯:……さて、この話は、ここでおしまいです。

   彼らの身に何が起こったのか……それはまあ、ご想像にお任せしましょう。

   ……え?

   結局、七不思議が全部出てないじゃないか、って?

   ふふっ……それじゃあ、ヒントをあげます。

   間違い探し、知ってますよね?

   仮に、間違いの数が合計5個だったとして。

   どんなに探しても、絵の中に間違いは、4つしか無かったら……?

   つまりは、そういう事ですよ、裏がある場合だってあるんですから。

   それじゃあ機会があったら、第2回目の同じ場で、お会いしましょうか。

   ……それじゃあ、私は何者なのか、……ですか?

   まあまあ、いいじゃありませんか、そんなこと。

   野暮ったいお人ですね。

   ふふふっ……


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