ルドルフ

(関連作品)

メリーさんと益田くん


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(役表)

A♂:

B♂:

C♀:

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A:ただいまー。


B:おー、おかえりぃ。


C:おかえり。


A:あーもう、さっむ……

  コタツコタツ!


B:いててててっ。


C:ちょ、ちょっと!

  無理やり入ってこないでよ、ただでさえ狭いんだから。


A:うっせ!

  こちとらクソ寒い中で働いて帰ってきてんだから、労われ。


B:あー、はいはい、オツカレサマー。


C:お疲れ様でしたー。


A:うわー、殴りてえ。


C:なんでもいいけど、あんまり暴れないでったら。


B:そうだぞー、俺らは俺らで忙しいんだからー。


A:忙しいって……

  お前ら、それ何してんだよ。


B:クロスワード。


C:間違い探し。


A:めちゃくちゃ暇そうじゃねえかよ!


B:だぁって、テレビもつまんねえしよー。

  漫画も読み飽きたしー。


C:新聞のテレビ欄見ても、バラエティの特番ばっかだもんねー。


A:仕方ねえだろ、クリスマスシーズンなんだから。


B:そりゃそうだけどさあ。


C:……あー、もー……

  あと2つがどうしても分かんないー!


B:そんな難しいかぁ、それ?

  俺、結構すぐ全部わかったけどなあ。


C:嘘……

  なにそれ、すごい悔しいんだけど。


A:間違い探しってさあ。

  探し始める前に、まず「この辺が違うんじゃないのか」っていう、思い込みみたいなのが生まれて、

  無駄に時間かかったりすることって無いか?


B:そうかあ?

  俺はそんなことないけどなあ。


C:……なんとなく分かるかも知れない、それ。


A:だろ?

  なんか、言葉では言いにくいけど、本能的にそうしちゃうんだよな。

  だから、


C:あ、あった。


A:早いな。

  言わせろよ、最後までよ。


C:これでー……あれ、あといくつなんだっけ……

  1、2、3、4……

  あれ?


A:なんで両方の絵に丸付けたんだよ、そりゃ分かんなくなるだろ。


B:え、丸つけちゃったの?


C:え、うん。

  分かんなくなるかなーと思って、丸つけちゃったけど……


B:じゃあもうそれ二度と出来ないじゃんよー!

  あーあー、また一つ暇潰しの道具を失ったー!!


C:ご、ごめん。

  あ、でも大丈夫。

  間違ってると思って丸つけたら、やっぱり間違ってなかったっていうのもあるから。


B:それの何をもって大丈夫と言えるんだよー!

  もはやただのぐちゃぐちゃな状態じゃねーかよー!!

  確信を得てから丸つけろよー!!


A:そうだな、確かに。

  しかも、なんで油性の太いほうでやったんだよ。


C:あーもー、うるさいなぁ!

  あんまり人のミスをグダグダ言わないでよ、男でしょ!


A:いや、男とか女とか関係無いと思うけど。


B:なー、それよりさあ。

  12月24日って、何の日だっけ。


C:え、クリスマスでしょ?


B:うん、そうだよな?

  そのはずなんだけどさあ、文字数が合わねえんだよなぁ。


A:どれ?


B:ほら、これ。

  「12月24日」としか書かれてないんだけど、7文字あるんだよ。

  「クリスマス」じゃ、文字数合わないだろ。


C:7文字ねえ……

  あ、そうだ。


B:お、なんかあるか?


C:毎月24日が、削り節の日だよ、確か。


B:おー、そうかそうか。

  じゃあ、「けずりぶしのひ」で7文字だから、これで合ってるかなー。

  って、そんなわけねえだろ!!


C:なんで違うって言い切れんのよ!


B:そんなマイナーな日聞いたことねえよ!

  しかもそれ、毎月だろ?

  12月って指定されてきてるんだから、絶対違うだろ。


C:そうかなあ。


A:12月24日で7文字なら、「クリスマスイヴ」だろ。


B:え?

  12月24日って、クリスマスの日じゃねえの?


A:クリスマスは、12月25日。

  12月24日は、クリスマスイヴ。


B:へぇー。


C:へぇーって、あんた知らなかったの?

  常識よ?


A:お前も知らなかっただろ。


C:はい、すいません。


B:えーっと、じゃあ横の6番は、

  く、り、す、ま、す、い、ぶ……と。


A:おい、ちょっと待て。


B:ん?


A:クリスマスイヴ。

  「ヴ」。


C:イブ?


A:イヴ。


B:いや、流石にそこまでこだわらなくても。


A:なんでだよ。

  英語の綴りから考えても、発音は「イヴ」だろ。

  「クリスマスイブ」は、なんか違和感しか感じなくて許せないんだよ。


B:あー、わかったわかった、「クリスマスイヴ」な。

  じゃー次。

  縦の7番、漢字で……なんだこれ?

  えー……きん、か?


C:かね……かねのか?


A:あ?

  それ、カナブン(金蚊)だぞ。


C:知ってたよ。


A:嘘こけ。


B:あー、これそうやって読むのか。

  じゃあ縦の7番はカ、ナ、ブ……

  おい。


A:なに?


B:これ。

  さっきの、「クリスマスイヴ」と交差してんだけどさ。

  お前が頑なに「ヴ」とか言うから、「カナブン」が「カナヴン」になっちまったんだけど。


A:かっこいいじゃん。


B:かっこいい……?


A:別にいいだろ、そこが答えってわけじゃないんだから。


B:そうだけどさあ……

  まあ、いいか。

  じゃあ答えが……えーと、……と、な、……かい。

  「トナカイ」か。

  クリスマスっぽいっちゃあ、クリスマスっぽいけどなあ。


C:あれ?

  でもそれ、ヒントに、「ソリを引く動物といえば?」って書いてなかった?


B:書いてあるね。


C:私、てっきりシベリアンハスキーかと思ってた。


A:それは犬ゾリの犬だろ。


C:ソリじゃん。


A:それ、クリスマスの増刊号だろ?

  クリスマスと関係無い単語は持ってこないだろ、普通に考えて。

  それに、シベリアンハスキーじゃ長えよ。


C:そーかな……

  でも、「ハスキー」だったら4文字だし、惜しくない?


A:惜しくねえ。

  ……あ、そうだ。


C:ん?


A:トナカイと言えばさぁ、今日バイト先で、信じらんねえこと聞いてさ。


B:なに。


A:サンタクロースとトナカイを、同じ扱いしてる奴がいたんだよ。


C:どういうこと?


A:サンタクロースはさ、言うなれば、イメージの中での存在だろ?

  実在はしてないけど、おとぎ話とか、子どもの夢の中に出てくる、みたいな。


B:そうだな。

  ……え、なに。

  トナカイもそれと同列で、実在はしないって思われてたってこと?


A:そう。


C:うわぁ……それは流石にひどいね。


A:全くよー……

  常識が無いとか、そういうレベルの問題じゃねーよ。

  未だにトナカイの鼻は、赤くて光るもんだとか思われてそうでさ。


B:意外だなあ。


A:だろ?


B:お前、俺ら以外と会話できたんだな。


A:唐突に失礼だなお前。

  そりゃあ、バイトだってしてんだから当たり前だろーが。


C:それに、夢だったんだもんねー、コンビニでバイトするのが。


A:そうそう、一回やってみたかったんだよー。

  別にコンビニじゃなくても良かったけど、やっぱり一番、敷居低いしな。

  その割に、覚えることは異様に多いけど。


B:そのへん割に合わないよなー、やったこと無いけど。

  にしても、ちっこい夢だなぁおい。


A:うるせーな。

  そういうお前はどうなんだよ、何かやりたかったこととか無いのか?

  今日が最後の日なんだろ?

  俺らが、人間になっていられるのも。


C:そうだね。

  0時になったら魔法が解けて、元に戻っちゃうよ。


A:ああ、それは最初に聞いたよ。

  それにしても、なんでそんな、シンデレラみたいな仕様なんだよ。

  魔法って、みんなそういう感じなのか?


C:ロマンがあるでしょ。


A:それはロマンとは言わん。


B:俺はなー……

  実際、こうやって人間として過ごしてみるとさあ。

  他の人間って、みーんな四六時中働いたり、学校行ったりしててさ、すげえ忙しそうじゃん。


A:それは俺らだって一緒だったろ、この時期が特別忙しいってだけで。


B:まあそうだけどさ。

  だからこそ、こうやって一日中家でごろごろしてるっていうのも、実はすげえ貴重なことなんじゃないかって。

  今は当たり前のようにこうしてるけど、いつもいつもこうしてられる訳もないし。

  だから、俺はギリギリまで、こうしてるって決めたんだ。

  こうやってコタツに入ってぬくぬくしながら、クロスワードやったり、間違い探ししたりするのだって、

  人間にならなきゃ出来なかったことだろ?


C:そうだね。

  なんか、君らしいよ。


B:だろ?


A:いや、綺麗にまとめようとしたんだろうけど、つまるところ、外出たくないんだろ?


B:うん、寒いもん。


A:だろうと思ったよ。

  ……で、魔法使いさんよ、今何時?


C:23時ちょうど。


B:あーあ。

  あと1時間で、この家ともお別れかぁ。


A:俺らの家じゃないけどな。


B:魔法使いさんが魔法で、家主追い出してくれたもんなー。


A:完全な不法侵入だよな。

  俺らが言えた口じゃないけど、聖夜に不当に追い出される家主が不憫すぎるわ。


C:結果としてのんびり出来たんだからいいでしょ。

  それに、魔法が解けたら、家主さんもちゃんと帰すって。


A:……さてと。

  そんじゃ、そろそろ帰りますかね、サンタさんのとこに。

  ギリギリまでここにいて、元に戻っちまってから家から出たら、騒動になるだろ。


B:そうだなあ。

  あーあ、今年は一晩でどんだけ回ることになるんだかなー。

  俺らの管轄って日本だろ?

  何世帯くらいあるんだっけ。


A:ざっと、5000万世帯くらいだな。


B:うわあー、聞くんじゃなかったー。

  帰りたくねえー。


A:いいから働け、甲斐性なし。

  ほら行くぞ。

  俺らには、俺らにしか出来ない仕事があるんだから。


B:へーい。

  じゃーな、魔法使いさん。

  お世話になりました。


C:はーい、じゃあねー。

  ……いやー、トナカイって、ほんとにいたんだなぁ。


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