メリーさんと益田くん

(関連作品)

ルドルフ


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(役表)

メリー♀:

益田♂:

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メリー:プルルルルル、プルルルルル。


益田:ガチャ。

   もしもし、誰だ。


メリー:もしもし、私、メリーさん。


益田:知ってるよ。


メリー:なんで!?


益田:バカか。

   番号登録してあるからに決まってんだろ。


メリー:それもそうか。

    え、じゃあなんで最初、「誰だ」とか言ったの?


益田:雰囲気。


メリー:雰囲気……


益田:で?


メリー:え?


益田:続きは?


メリー:なにが?


益田:「私、メリーさん」の続きだよ。


メリー:やって欲しいの?


益田:嫌ならいい、じゃっ。

   ブチッ。


メリー:あ、ちょっと!

    プルルルルル、プルルルルル。


益田:ガチャ。

   もしもし、誰だ。


メリー:もしもし、私、メリーさん。


益田:知ってるよ。


メリー:なんで!?


益田:またやんのか、その流れ。


メリー:別にいいじゃん。


益田:めんどくさい。


メリー:えー、付き合ってよ。


益田:通信料と時間の無駄だ。


メリー:関係ないよ。

    私、悪霊だから。


益田:お前は関係なくても、俺はあんの。

   ていうか、お前人間だろ。


メリー:ノリ悪いなあ。


益田:いいからさっさと来い。

   ブチッ。


メリー:あっ!

    プルルルルル!


益田:ガチャ。

   もしもし、なんだよメリーさん。


メリー:もしもし、私……

    潰さないでよ!


益田:しつこいんだよ。


メリー:構ってよ。


益田:嫌だ。


メリー:なんで。


益田:お前はもっと他に、するべきことがあるだろ。


メリー:ちゃんとやってるよ、今から電車乗るんだもん。


益田:今から?

   それは乗り換えの駅か、それともお前の家の最寄駅か。


メリー:それはー……

    もちろん、乗り換えの、


益田:最寄駅か。


メリー:最寄駅です……


益田:起きてから間もないか。


メリー:……ごめんなさい……


益田:分かった。

   じゃあ、こっちの駅着いたらまた連絡しろ。


メリー:え、切らなきゃダメ?


益田:公共のルールは守れ、電車で電話すんな。


メリー:はーい。

    じゃ、また電話しまーす。


益田:メールで。


メリー:嫌です、じゃっ。

    ブチッ。


益田:あ、切りやがった。

   ったく……

   ……あれ、また電話?

   誰だっけか、この番号……

   はい、もしもし、益田です。


   (営業ボイスON)

   あっ、はい、お世話になっております!

   はい、はい。

   あ、そうですか!

   それはそれは、わざわざどうも、はい!

   あっ、では、夕方頃には届くということで。

   はい、わかりました、ありがとうございますー!

   ……はい?

   ああ、いえいえとんでもない!

   はい、では、失礼致しますー、はい!

   (営業ボイスOFF)


   ……はあ、やれやれ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


メリー:プルルルルル、プルルルルル。


益田:ガチャ。

   (営業ボイスON)

   もしもし、益田です。


メリー:もしもし、私、メリーさん。


益田:ブチッ。


メリー:え、ちょっ!

    プルルルルル!


益田:ガチャ。

   (営業ボイスOFF)

   もしもし、誰だ。


メリー:「誰だ」じゃないよ、なんで切るのよ!


益田:非通知でかけんな。


メリー:なんでよ、いいじゃん。

    そっちでは、「益田くん」って名前で通してるんでしょ?


益田:こっちの仕事の時は、「クリスさん」って呼べって言ってんだろ。


メリー:えー、いいじゃーん。

    どのみち本名が、「益田クリス」さんなんだから。

    ねー、ま、す、だ、くん♪


益田:次言ったら着信拒否するからな。


メリー:ごめんなさい。


益田:で?

   今どこにいるんだ。


メリー:あ、そうだった。

    ブチッ。


益田:あ?


メリー:プルルルルル、プルルルルル。


益田:ガチャ。

   おい、なんで切った。


メリー:もしもし、私、メリーさん。

    今、駅前を離れてすぐの電気屋を通り過ぎた後、

    すぐに見えてくるスポーツジムのところで右に曲がって、

    まっすぐ、たぶん200mくらい歩いたところで、喫茶店を通り過ぎたから突き当たりを左に曲がって、

    そしたらでっかいスクランブル交差点に出たから、渡ってたら人波にさらわれて、

    あれよあれよと揉まれてるうちに、どこから来てどっちに行くのか分からなくなってきて、

    とりあえずそこから見えた一番大きいビルの足元まで行って、

    そのビルの向かいにあった、ファーストフード店の中の窓際席にいるの。

    助けて。


益田:迷ったのか。


メリー:はい、すみません。


益田:その向かいのビルの名前は。


メリー:ホームセンターおてあらいって書いてあるけど……


益田:覚えとけ、それは多分「みたらい」だ。

   ちょっと待て、調べる。


   ……おい、メリー。


メリー:はい、クリスさん。


益田:お前、降りる駅間違えただろ。


メリー:はい、寝過ごしました……


益田:……わかったよ、住所送ってやる。

   地図アプリでもなんでも使って来い。


メリー:迎えには来てくれないの?


益田:迷うの何回目だと思ってんだお前。


メリー:5回目。


益田:12回目だ。

   さっさと来い。


メリー:はい……


益田:ブチッ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


メリー:ピンポーン。


益田:はい、誰だ。


メリー:モニターで見えてるでしょー、開けてよー。


益田:合言葉は。


メリー:えぇー……やるの?


益田:決まりだろうが。

   俺だって、ホントはやりたくねえよ。

   やらないと、この扉開かねえんだよ。


メリー:どういう仕組み?


益田:雰囲気。


メリー:雰囲気……


益田:それに、考案者お前だろうが。

   責任持てっての。


メリー:はーい……

    くそぅ、当時の自分を殴りたい……


益田:とっととやるぞ。

   近所の奴らに、白い目で見られたくないだろ。

   はい、合言葉は?


メリー:『ハッピー☆メリー!


益田:クリスマスだッ!!☆』


   ……開いたぞ、入れ。


メリー:お邪魔しまーす……

    もうやだ……合言葉変えたい……


益田:うるせえ、元凶がそれを言うな。


メリー:でも、なんだかんだでクリスさんも、合言葉やるときノリノリじゃないですか。


益田:仕方ねえだろ、テンション高くやらないと開かねえんだから。


メリー:だから、それはどういう仕組みなのよぉ。


益田:だから、雰囲気だっつってんだろ。


メリー:いや、そろそろつっこみたいんだけど。

    その雰囲気っていうのはなんなの?


益田:この物語の進行において、表現を曖昧にしてもなんら問題のない、

   本来言葉で説明しきれないような非現実的な現象および、

   それが引き起こす辻褄もへったくれも無いご都合主義的な展開を、

   説明すらめんどくさくなった制作者側が、一言で無理矢理片付けるために準備した……


メリー:(益田の台詞の途中から被せながら)

    待って待って待って待って、メタいメタいメタいメタい!

    ごめんなさい、私が悪かったです!

    それ以上言わないでくださいお願いします!


益田:なんだよ、人がせっかく説明してやってるってのに。


メリー:危ないから。


益田:それを承知でやってんだよ。


メリー:もー……


益田:で、どうだった、街の様子は。


メリー:あー、もうクリスマス一色だねー。

    そこら中に、サンタやら、トナカイやらのコスプレした人いたよ。

    やっぱり知名度高いんだねー、どこの国でも。


益田:そうみたいだな。

   しかし、サンタは分かるにしても、トナカイのコスプレなんてなぁ……

   物好きな奴もいるもんだ。


メリー:あれ、あと2人は?


益田:ああ、なんか時間ギリギリまで、女の子と一緒に街に遊びに行くとか抜かしてたな。

   全くよー、自分達の仕事をなんだと思ってんだか。


メリー:あの2人は肉体労働なのにねー。

    また翌日には、全身筋肉痛でダウンしてるんじゃないかなー。

    でもさ、そういう私達だって、こうやって仕事もせずに遊んでるんだから、

    人のこと言えないんじゃない?


益田:当日になって、昼まで寝てるお前と一緒にすんな。

   もう全部ノルマ終わってるよ。

   夜まですることもないから、のんびりしてるだけだ。

   ソリの手配も済んでるし、順調そのもの。


メリー:え、もう全部やっちゃったの?


益田:そうだよ。

   お前の分のノルマもやっといたよ、役立たず。


メリー:うわぁー。

    クリスさん、やーさーしーいー♪


益田:おー、そうかぁ。

   来年はお前が、俺の分のノルマもやってくれるのかぁ。

   優しいなぁメリーは。


メリー:やめてくださいほんとごめんなさい。

    ただでさえクリスさんのノルマ、私の3倍はあるんだから勘弁してください。


益田:ピンポーン。


メリー:ん、誰だろ?


益田:たぶん、ソリ業者の人だろ、出てきてくれ。


メリー:えー……外寒いのに……


益田:ノルマ。


メリー:どーぞ座っててくださいクリスさん!

    はーい、今出まーす!


(間)


メリー:ピンポーン。


益田:はい、誰だ。


メリー:クリスさん分かっててやったでしょー!


益田:むしろよく気付かなかったな。


メリー:ソリの受け取りなんて、玄関先じゃ出来ないですからね!

    また合言葉やらないといけないじゃないですか!


益田:そうだな、そうしないと開かないもんな。


メリー:あ、でもー。

    こうして私を締め出して、また合言葉をやる羽目になる状況を作ったってことはー、

    クリスさん、密かにあの合言葉にハマってるんじゃないのー?


益田:なにバカ言ってんだ。


メリー:いいんですよー益田くん、そんなに照れなくてもー♪

    今日2回目なんだから、いっそ1回目より、元気よくやりましょうよ。

    ほらせーの、『ハッピー☆メリー!


益田:あ、もしもし、サンタさんですか。

   ソリ無事届いたんでー、はい。


メリー:開けてー!


益田:はい、それじゃ、また夜に。

   お疲れ様ですー、失礼しまーす。

   ……さて、あとは他の人の仕事だし、時間まで寝るか。

   サンタもトナカイもそうだけど、妖精だって頑張ってるんですよ、

   っと。


メリー:開ーけーてー!!


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