子供がいる赤安妄想(20200822Twitter初出/20231109再掲)

 子供のいる赤安なんだけど、夏休みの自由研究とか工作に親が凄いはまるタイプだとかわいい。低学年くらいは喜んで「パパもダディも凄い」て誉めてくれるけど大きくなったら(高学年くらいかな)「やりすぎ」て呆れ顔。

 でも実は関わってくれるのがすんごく嬉しいんで照れてるだけで、しゅんとなっちゃったふたりに「でも嬉しい、アリガト」ってきちんと伝えられるいいこ。

 感極まったふたりからハグキスの嵐で、恥ずかしがりながらも受け入れてほしい。

 ふたりは普段忙しくてあまりそばにいられないぶん、関われるときは全力でって思っている。

 でも子は気にしてなくて、寂しいときもあるけどちゃんと自分を思って大切に愛してくれているのを分かってるから、まっすぐに育つ。


雨の日の妄想(20200813Twitter初出/20231109再掲)

弱雨→強雨→弱雨

「れいくん、れい……」

「ぁ、あかいっ」

 始まりと前戯。しとしと雨が降っていて湿気がまとわりつく感じがこう、ねっとりとした赤井さんのしつこい前戯を思わせる。


「ああン、やぁっ!」

「かわいいよ、気持ちいいな?れい」

 地面に叩きつけるような強い雨は、挿入後にガン責めしている感じと似ているのでは……


「ん、ぅ……」

「まだおさまらないんだ、もう一度付き合ってくれるか?」

「ゃ、もぉ、おわりぃっ……!」

 一回(降谷さんはいっぱい)射精(だ)した後、まだ欲に飲まれきってない赤井さんは少しインターバルを取ってあげるが当然それで終わりじゃない。

もうすぐ秋(20200831Twitter初出/20230918再掲)

屋上で休憩中こんなやり取りしてればいいよ。

そしかいごの赤安両片想い赤井さん押せ押せver。

そんなふたりをひっそり目撃してしまったモブに、わたしはなりたい。


 もうすぐ秋も終わり。そんな日付になってきた。

 暦ではとっくに涼しくなってもいいが、今年は長く暑い日が続いた。そのせいかようやく朝晩涼しくなってきた日々に、人々はほっと一息つく。やっと涼しく秋に向かっている実感。


「ようやく明日から九月ですね」

「そうだな」

「と、言っても僕らのやることが変わる訳じゃありませんけどね」

 短い休憩によく利用される自動販売機の前にある椅子に座りながら、疲れからか珍しく甘めのミルクティを両手で抱えて啜る降谷と、いつも通りのブラックの缶コーヒーを飲む赤井がひと時の休息を取っていた。

 ふぅ、とため息をつきつつ遠い目をする降谷に、赤井がちろりと視線を送る。

「……君の日本の秋は素晴らしいだろう?」

「秋だけじゃないですけどね!でも特に秋は寒くなるごとに色づく紅葉や実りの秋の食材を使った料理とか、いろいろな楽しみも多いですね。温泉もいいなぁ……」

「いいな」

「お仲間と行ってきたらいいんじゃないですか?業務の効率のための息抜きも必要じゃないですか。僕の日本の素晴らしいところを見て感じて、感激してこいFBI!!」

 飲み終えたのだろう。缶をかこんと缶ゴミに入れた降谷が立ちあがり、赤井の前に立ちふさがって両手を腰に回しつつ息荒く主張した。

 そんな姿もかわいいな、と赤井はそのとくいげなどや顔に目を細める。

「そうだな...…だがどうせ息抜きでゆっくりするなら君とがいいな」


 ふたりで、どうだ?温泉。


 そうして立ち上がり端正な顔を近づけ、ありったけの色を含む甘い声で囁いてやれば。

「な(に)、バ(カなこと)、いっ(てんだ)、え(ふびーあい)!」

 真っ赤になっていつもからは想像もつかないほどどもってしまう降谷は、誰が見ても相当な動揺を伺わせる。

 染まった頬に、潤んだ瞳に、困ったようにふにゃりと下がる眉に。

 そのすべてにむしゃぶりついて食べてしまいたいと目の前の男が思っているなどと想像がつかないのだろう。

 赤井が心の中で舌なめずりをしながら、その目の奥にギラリとした肉食獣めいた欲を滾らせて見つめつつ、

「はは、俺は本気だよ」

 などと冗談めかして言うが明らかに本気だ。このまま降谷が「仕方ないから僕がしっかりレクチャーしてやりますよ!もちろん、温泉の入り方もね」などと口にしてしまえば、温泉旅行がついでとばかりにぺろりと頂かれてしまうだろう。


 その後二人が温泉旅行に行ったかどうかは、ご想像にお任せする。



キリ番200リクエスト/陰陽師×鬼(?)(20230905初出)

久々織さんからのリクエストでした。

ありがとうございます😙


 草木も眠る、丑三つ時。

 生暖かくどろりとした空気を纏った黒風が吹き上げる。秋虫たちのささやかな演奏が、ぴたりと止まった。

 ひと時のち、さわ、ざわりと風が吹きやんでいるにもかかわらず、あたりの木々が変わりとばかりに騒めきはじめる。それに混じって聞こえる、けもののような、おどろおどろしい音。


 おおおぉーぅ、おおおぉーぅ。


 それは、少しずつ大きくなり、やがてあたりに響き渡った。

 来る朝を呪うよう。なにもかもを呪うよう。引きずられるようにあたり一帯の闇が黒く濃くなっていく。

 すべてが闇に飲まれる、その瞬間だった。

 綺羅綺羅とある一点から優しく強い光が見えたと思ったら、それは爆発的に拡がった。


「「爽籟」「金風」色なき風よ、在れ」


 涼やかな、しかし少しくぐもった声がぴしゃりと放ったその言葉に呼応するように、鬱屈とした闇を美しき名の風たちが吹き飛ばしてゆく。

 周りを一掃した風は、最後にひとつ甘えるように主人に柔らかく吹き付けると、ふぅ、と消えた。


 すっかりと何事もなかったかのような月夜が戻ってきた。


 声の主は、この地にはいない金糸の髪に鬼の面をかぶり顔を隠している、随分と上背の高い男だった。

 均整の取れた体。外の国で見られるような外套に似た上掛けと、きっちりと着つけられた着物に手甲。肌がかろうじて見える指先と足をみれば、その色は日に焼けたような褐色だった。


「ほぉー、流石だな」


 柳の幹にいつの間に寄りかかりたたずむ男から、感心した声が漏れた。

 急に後ろから声を掛けられたにもかかわらず、それに対してうろたえることもなく鬼はふわりと衣を翻しながらまるで舞うように歩み、体重を感じさせない軽やかさでふわりと跳躍した。


 石垣の上に立ち月光を浴びるその姿は、鬼面だというのにどこか清らかさを感じる。


「美しいな……」

「せっかくお越しいただいたようですが、あなたの仕事はもうないようですよ。僕がすべて片付けましたから」

「知っているさ。見ていたからな」

 ゆらりと立つ男は、狩衣を身に纏っていた。烏帽子から零れる漆黒の髪は、ほつれたように垂れる前髪が緩く巻いていて額に幾束か落ち色気がある。まるで病人かと見まごうほどに顔色が悪く、目の下にはくっきりと隈が刷かれていた。

「最近、見回りたちが嫌な気配を感じてそこへ行くと、着いたころにはその気配はまるで幻のように消え去り、かわりに身を翻して消えてゆく金糸の鬼を見たという話を聞いてな」

「見たならもういいだろう、去れ」

「そうしようと待っている間は思ったさ。しかしここまで美しいと、どうしてもその面の下を見たくなった」

「残念ながらそれはできませんね」

「ならば、力づくでも」

 いうが早いか、身を翻そうとした鬼に向かって跳躍する。まさかただの人間が自分と同じ動きをするとは思っていなかった彼は、その男の身ごなしに驚愕する。その一瞬が仇となった。腕を引かれ、体を囲い込まれる。

 密着してみれば、陰陽師とは思えないような鍛えられた体躯であることが解った。自分より太く逞しい腕に囚われ、動いても外れない。それは、男が近接対人にも長けていることを表していた。

「っ、離せ、無礼者!」

「おっと、足場が狭いんだ。暴れると危ない……夜中といえどここは往来。騒いでは人に見られてしまいそうだ」

 そう言うと陰陽師は懐から一枚の紙を放った。それは音もなく一羽の大きな鳥となる。

「俺は赤井秀一という。一緒に来ていただこうか、美しき鬼よ」




 真白い鳥に乗せられ着いた場所は、都でもはずれにある屋敷だった。空から庭に降りた鳥は、二人を下ろすとふわりと紙に戻る。それを拾い上げると、ぼぅ、と青白き焔に一瞬で燃え尽きた。

「……ずいぶんと厳重な囲いを張っている」

「敵が多いもんでね。……あとはうつくしきものをのがさぬように、かな」

 するりと腰に絡んだ太い腕が、ぐいと鬼を抱き寄せる。諦めたようにされるがままの彼に、おや?と男が首を傾げた。

「しかたない。こんなに醜いものでも見たければ、見ればいい」

 褐色の指が鬼面を括る金色(こんじき)の飾り紐をしゅるりと解いた。

 片手でゆっくりと外された面の下から現れた其れは。


(これは、)


 それを目の前で見た赤井はごくりと唾を飲んだ。


 額を隠す独特の癖のある前髪は、触れたらやわらかそうだ。

 そこから覗く眉は意志の強さを感じさせるしっかりとした形。その下にある瞳は、まるで空をそのままとじこめたような、少しくすんだ青灰色。甘やかに垂れた大きなそれは、少し高い位置の赤井を見上げるために上目遣いになり、甘えたように見えてしまう。

 すらりとした鼻筋と、桜を乗せたような淡いいろの小さな唇。


「天女か」

「はぁ?!何を馬鹿なことを、」

「自分の容姿を見たことがないのか?」

「見たことないわけないだろう!……この見てくれのせいで鬼子と呼ばれているんだぞ?」

「そいつらは本当にうつくしいものをわかってはいないのさ。たわわに実る稲穂のようなきらきらと光る髪、陽の神に愛された肌の色、みずみずしい果実のような愛らしい唇。なにより、」

 つい、と白く長い指が前髪をかき分ける。ハッキリと見える蒼玉を見つめると、赤井はほぅ、と艶かしいため息をついた。

「この目だ。帝の持つどんな宝石よりも価値のある、この世に一対の蒼玉。見ていると吸い込まれてしまいそうだ……」

 目をそらさぬままに近づいてゆく、距離。

「おまえの目は、森を閉じ込めたような色をしているんだな……」

 魅入られたように男の近づいてくる深緑を見つめる。そしてその距離が消える──と思った瞬間、柔らかく暖かいものが唇に押し付けられた。

「ん、ぅ……っ」

 触れた唇は、飽きることなく何度でも押し付けられてくる。思わず固く一文字に自分のそれを閉じていれば、そこを柔らかく解すようにはむ、はむ、と優しく食まれた。

「な、ぁ!」

 なぜ、とうつくしい鬼は問いたかったのだろう。その形に口を開いた瞬間、それを待っていたかのように男の舌がぬるりと挿入(はい)ってきた。

「ふぁ、んっ」

「ン……ふ、」

 自分より幾分厚い肉厚のそれがゆっくりと確かめるように咥内を這いまわる。少しでもピクリと反応を返す場所があれば、そこをねっとりと舐め擦ってきた。粘着質な音が耳を侵す。巧みにイイ場所を愛撫する男の舌技に段々と思考することができなくなってゆく。


 きもちがいい。


 脳内がそれだけでいっぱいだった。だからこそ、男のこそりと囁かれた問いに、答えてしまった。


「名は?」

「ぁ、れい……」

「れい、か。あぁ、かわいいな。口吸いだけでこんなに蕩けて」

「わかんな……ぁ、」

 男のくちびるがいつの間にか寛げられて露わになった首筋を通ってゆく。ちくり、とたまに甘美なまでの痛みを与えながら。そこには赤井がつけたシルシが散ってゆく。

「や、ぁ」

「一目見てお前だとわかってしまった。俺だけの運命、もう離してはやらない」

「なに……んっ」

 しなだれかかるように力を抜いたれいを抱き上げ、縁側から屋敷へと入る。奥にある寝所へと足を進めながら、腕の中にいる宝をうっそりとした眼差しで見つめた。

古き良き日本伝統行事について(20201222privatter初出/20230824再掲)

「なぁ零くん、俺も君の日本を知りたくて色々調べたんだが『姫はじめ』ってなんだ?」

 それは十二月二十一日、冬至。夕飯には南瓜や人参を使った料理、風呂は柚子湯を用意した時に赤井に聞かれ、古き良き日本の伝統文化について教えてやったのだ。

 まさかそれがこんなことになるとは。

 赤井は明らかにニヤついている。こいつ、絶対意味しってる。だが見ていろ、お前の言う通りにはさせない。

「いいでしょう。耳の穴かっぽじってよく聞いてろよ」

「うん?」

「姫始め(ひめはじめ)とは、頒暦(はんれき)の正月に記された暦注の一。正月にやわらかく炊いた飯(=姫飯(ひめいい))を食べ始める日とも、「飛馬始め」で馬の乗り初めの日とも、「姫糊始め」の意で女が洗濯や洗い張りを始める日ともいわれています。姫始め(ひめはじめ)とは、1月2日の行事ですが、由来は諸説あってはっきりしておらず、本来は何をする行事であったのかも判っていません。(wiki調べ)」

「ハ?」

「以上です」

 言い捨てて飲んでいた日本酒を一気にあけると、空になったグラスと皿を片付けにキッチンへ向かった。

 そこに残された赤井は、思っていたことと違う答えが返ってきたことに困惑していた。ただ降谷の口からちょっとイヤラしい言葉を聞きたかっただけなのに。

 しかし諦めない男、赤井秀一。自分もロックグラスに残ったバーボンを飲み干すと、それを片付けるためにキッチンへ向かう。グラスを置くとそっと後ろから包み込むように抱きしめ、少し赤くなった頬にそっと唇を押し当てた。

「零」

 赤井は知っていた。降谷が自分の声に弱いことに。低く、欲を孕んだ少しかすれた声で吐息とともに耳元に囁いてやれば、大抵の『オネガイ』は叶えられることを。

 案の定、名前を呼んだだけでびくりと反応し、首元までほのかに赤く染まっている。

「なぁ、零。それだけじゃないだろう……?教えてくれ」

「……っズルい、よわいの、わかっててっ……」

 さらに真っ赤に染まりながら振り向いてこちらを見る降谷の表情といったら堪らなかった。

 

 はぁはぁと湿った艶めかしい吐息を、その桜色の少しあいた唇から吐き出して。

 青灰色の瞳は、情事を思わせるほどに濡れて光っている。その大きな目を少しとろりとさせてこちらを見つめた。

 赤井は思わずペロリ、と舌で唇を湿らせる。降谷の唇が開き、息を吸い込んだ。

「とっ、年が……あ……から……え……の……と、です…………」

「うん?聞こえないな、なんだって?」

「年明け初めにするえっちのことですーーーー!!!!」

 セックスでも性交でもなく『えっち』とは……それはズルいだろう零くん……。赤井があまりの破壊力にフリーズした一瞬の隙に腕の囲いから逃げ出し、陸上選手もかくやというスピードでスタートダッシュする。それに気づき慌てて後を追って、何とか玄関で捕獲することができた。

「そんなに逃げることないだろう」

「だってっ恥ずかしいこと言わせるから!」

「そもそも零くん、俺たち普段もっと恥ずかしいことてるじゃな……グッ」

 赤井の身もふたもない言い草に、肘鉄を食らわせる。暴れる照れ屋な恋人をそれ以上暴力行為に走れないように後ろから抱きしめて拘束すると、また彼の好きな己の声で誘惑した。

「来年は俺としようか……姫はじめ」

 また可愛らしく照れて噛みついてくるのを期待するが、予想だにしない反撃が繰り出される。

「……来年まで、シないんですか……?」

 拗ねるように唇を尖らせて、ほんの少し下から上目遣いでちろり、と残念そうな視線を送られる。

 思わず顎を固定してそのとがった可愛らしい唇に吸い付いた。

「ンむぅ!」

「この……っわかって、やってるのか……!」

 噛みつくように口づけながら、合間にそう告げるとくるりと体をこちらに向けて自らの唇に喰らいつく男の髪を掻き混ぜながら、逞しい背中を撫でさする。

「ぁ、らって……んぅ、」

「零は俺に抱き殺されたいのか?」

 ガブリと真っ赤に色づいた耳たぶに少し強めに噛みついてやる。じわじわあげられる体の熱にぶるっと震えながらちゅうちゅうと唇に吸い付いてくる降谷を、目を眇めながら見つめる。

 膝裏を掬うように抱き上げると、キスを交わしながら寝室へと向かうのだった。

暑くても一緒にいたい(20200811Twitter初出/20230823再掲)

 外からは蝉の大合唱。短い生を全うすべく必死に紡ぐ、いのちの歌。子供の頃なら大喜びで夏空の下、虫たちを追い回していた。


 十数年たった今、もはや真夏の昼間に外に出るのは非常識。人の体温ならば高熱といっていい外気温が日々、続いていた。


 ふたりそろっての休みではあるが、本日の最高気温は37度。熱中症警戒アラートなるものまで発令されている。エアコンの室温、外気温お知らせボタンを押せば「お部屋の温度、28度。外の温度、40度以上です」というとんでもない情報をお知らせしてくれた。

「暑すぎてエアコンが効かない」

「そうだな」

「暑すぎる...僕の日本は一体どうなってしまったんだ」

「零くん。暑いならちょっと離れてはどうだ?くっついてもらえるのは嬉しいんだが」

 ソファーでぐったりと横になっていた(ここが一番エアコンの風が当たるのだ)赤井の上に乗っかる形で、降谷がべったりと張り付いている。

 いくらエアコンをかけている室内といえど、外の暑さでなかなか冷え切らない上、例年以上の湿度の高さで余計に暑く感じる。そんな中で体の前半分全てをくっつける形でいるふたりの触れた部分は、しっとりと汗をかいていた。暑い暑いと言いながらも離れようとはしない降谷に、下敷きにされている赤井が苦笑した。

「……暑いとくっつくのは、いや?」

 下から上目遣いのブルーグレイがうかがうようにこちらを見つめている。頬が赤いのは、暑さのせいだけではない。つと、とくるりとカーブしたもみあげのひと房から汗が流れた。

 それをもったいないとばかりに唇で掬い取る。

「ふ、しょっぱい」

「あたりまえでしょう……そんなの舐めないで」

「君のものはすべて独り占めしたいんだ」

「ばか、」

 ふしだらな行為を連想して上気した顔を隠すように、ぺとりとその逞しい胸に顔を伏せた。そんな仕草もかわいくて仕方ない男が、汗でしっとりとした蜂蜜色の髪を梳く。

「ぬるくしたシャワーでも浴びようか……ふたりで、」


 ひそりと色をのせた低音で弱い耳に囁けば、ひくりと身体が慄いた。


「しかたないですね、」

 ゆっくりと起き上がった恋人の顔は、艶かしく濡れていた。


ハウンド(20200729Twitter初出/20230822再掲)

「この距離なら、俺の番犬にやらせよう」

『bowwow!my master 呼んだかな?』

「どうせ聞いてたんだろう?さっさと終わらせるぞ」

『了解。ご褒美は期待していいのかな?』


 闇夜に光るモスグリーンが、自らの最愛のマスターからの命にゆるりと弧を描いた。




 なかなか尻尾を掴ませずのらりくらりの逃げられてしまう犯人のおかげでなかなか家に帰れない。もはや、捜査にかかわり必死に駆けまわる捜査官たちだけでなく、情人よりタフな降谷でさえ疲弊していた。


『なぁ、いつ帰ってくるんだ?』

「うるさいなぁ!僕だって帰りたいんですよ!!」

『……帰ってこないなら勝手に動くぞ?もう待ての時間は終わりでもいいだろう』

「ちょ。あかぃ?!」

 空いた時間を見つけて家で待つ赤井に連絡をしていた降谷だったが、きちんと言いつけを守って勝手をせずに家で留守番をしていた男ももはや限界だったらしい。

 無情にも沈黙するスマートフォンが、みしりと鳴った。

「っあの、駄犬が!!」

 ターゲットは慎重でそうそう姿を現さず、うまく逃げ回っていた。しかしそれを上回るシルバーブレットの運。赤井の独断専行で、とうとうターゲットの潜伏先を相手に気取らせずに突き止めることができた。

 しかし公安の捜査官も動き始め、にわかに周りがざわつきはじめると、機を狙ってかそこから動かずじっとして膠着状態となってしまった。

「降谷さん、ターゲットは追われていると気づいたんでしょう。部屋で籠城してしまっています」

「タイムリミットまで時間がない。この距離なら、俺の番犬にやらせよう」

「ハウンドですか」

「なんだよハウンドって」

「他の面々は彼の特性上そう呼んでいるんですよ……」


 そんないいもんじゃないと言いながら、スマートフォンを取り出し赤井に連絡をする降谷の目は、ひとつの異変も逃すまいとターゲットの潜むマンションを見つめたままだ。赤井の方も待っていたのだろう。ワンコールですぐにつながった。


『bowwow!my master 呼んだかな?』

「どうせ聞いてたんだろう?さっさと終わらせるぞ」

『了解。ご褒美は期待していいのかな?』

「わかってますよね?」

『ああ。視界は良好、いつでもいける』

「許可は後で取ります。一発で済ませろ」


『yes my master』


 赤井の一射が真っすぐにマンションのガラスを突き破った。射撃されると思っていなかったターゲットがまさかの事態に外に逃げ出そうと部屋から飛び出してくる。

「確保!!」

 鋭い降谷の声が闇夜に響いた。


 対象を確保し無事に大きな事件になる前に終了した案件に、ようやく帰宅のめどがついた面々はほっとした表情だ。

 あとは警察庁に戻り、事後処理を行うだけ。

「降谷さん、あとはわたしでも可能な業務です。我々も手分けして半数ずつ休ませます。あなたが一番動かれていたんだから、今日はもう戻ってください。明日、ゆっくり登庁していただければ結構ですので」

「うーん。そうだな。今日は戻らせてもらう」


 家で待つハウンドに、いい加減『えさ』を与えなければ。


 風見の言葉にありがたく帰宅することにした降谷は、愛車を駆り巣穴へと戻っていった。




 玄関を開ければふわりと漂う、コンソメの匂い。

 玄関を閉めると、どっと疲れが出た気がした。その場にドスンと鞄を落とした降谷に、奥から出てきた赤井がにっこりと微笑んでハグをする。

 撃った後はすぐに帰りしっかりとシャワーを浴びたらしい。もう、現場を思わせる匂いは一切しなかった。代わりに香る、降谷と同じボディソープの香り。

「おかえり、零くん。おつかれさま」

「ただいま、」

 帰宅し、それでもぐったりと動かない降谷をかいがいしく世話をしつつ、時折甘えるようにキスをする。

 疲れた体を癒すように、しっかりと風呂につからせ、この時間でも消化しきるような軽い食事を与える。

 そして。

「なぁ、イイコで待てできたろう?ご褒美が欲しい」

「おまえなぁ……最初は待てできなかったくせに」

「早くご主人さまと会いたいかわいい飼い犬の我儘だろう?許してやってくれ」

 すりすりと懐いてくる大型犬に絆された降谷は、その後自分が後悔することも知らずに「仕方ないからご褒美、いいですよ」と目の前のかわいい自分の雄犬に告げた。

「Thanks」

「好きに食べていいですよ……」

 うとうとと瞼が落ちそうな降谷には、抱き上げ寝室へ向かう、獣の目をした男に気付けなかった。

ましゅまろ

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