曲紹介

第1部
アンサンブルステージ
2~10人のグループでの
アンサンブルをお届け 

KU-KA-ILIMOKU
/ Christopher Rouse

 本曲「KU-KA-ILIMOKU」は、ハワイの神話における最上位の神のひとりである「KU」が戦いを司る神に化身した姿「KU-KA-ILIMOKU」にちなんで名付けられた楽曲です。

 作曲者であるChristpher Rouseは、リズミカルな無調音楽を得意としており、「KU-KA-ILIMOKU」は彼のキャリア初期の無調音楽として作曲されました。鍵盤打楽器を使用せず、ウッドブロック、ログドラムなど様々なリズム楽器を用いることで、ハワイの凶暴な戦いの踊りを表現しています。


 本曲の見所は、曲中に散りばめられた数々の変拍子です。不規則に移り変わる変拍子を各演奏者が掛け合いながらエネルギッシュに駆け抜ける様は、神「KU-KA-ILIMOKU」が統べる戦いにおける敵味方の激しい攻防を彷彿とさせます。


 多数の打楽器により繰り広げられるアップテンポなハワイの戦いを、どうぞお楽しみください。

OHAYASHI-ZANMAI / 福田 洋介

 祭りのお囃子と言えば甲高い笛の印象がありますが、OHAYASHI ZANMAIはお囃子の和太鼓のリズムを元に作られた打楽器三重奏です。冒頭は3人でシンクロして太鼓を叩き、中盤はマリンバの音色で祭りの様子を表し、太鼓やチャンチキ、拍子木で調子良く盛り上げます。最後にもう一度3人で太鼓を叩き、クライマックスを迎えます。奏者はそれぞれ皮系・木製系・金属系の楽器を担当し、対比的な構図となっています。3人の見せ場が随所に散りばめられたソロや、緊張感ある静の間と、お囃子に煽られ踊り狂ったような動の瞬間を、日本伝統の祭りの宵に思いを馳せながらお楽しみください。


 作曲者は吹奏楽のための「風之舞」や「さくらのうた」でおなじみの福田洋介さん。奏者は今回初めて一緒にアンサンブルをするFKM(ふの・こーが・もつ)の3人です。ちなみにテンション上がって3人のロゴも作っちゃいました(no image)。

Extremes / Jason Treuting

 本曲「Extremes」 は単語の母音と子音に音符(音価)と楽器を当てはめて作られています。


題材になっているのはアメリカの6つの都市 DENVER、HELENA、BURLINGTON、CLEVELAND、BROOKLYN、HOUSTON。曲の構成としては全部で4つのセクションに分かれています。


 最初と3番目のセクションは DENVER、HELENA の2都市によって構成されています。文字数が等しく母音と子音の順序が異なるこれらの文字列は、定型的でありながら複雑なビート感を創り出します。


 2番目、4番目のセクションは残りの4都市によって構成されています。各都市が創り出す不規則ながらも心地のいいリズムが賑やかに、時に爽やかに駆け抜けていきます。


 この曲は、リズムパターン解説のために1フレーズ分の五線譜が記されている他は全て文章で記譜されており、細かい表現方法や楽器の選択は奏者に委ねられています。今回は「音階のある金属音」という指定に対して、最初と3番目のセクションではハンドベルを、2番目と4番目のセクションでは音程を合わせて長さを調整したアルミパイプを使用し、各セクションの音色のコントラストが特徴的な1曲に仕上げました。


 モチーフから譜面まで、ほぼ言語で創られたJason Treutingの独特な世界観をお楽しみください。

Catching Shadows
/ Ivan Trevino

 作曲者であるIvan Trevinoは作曲家、シンガーソングライターとしても知られる打楽器奏者であり「into the air」「2+1」などマリンバデュオのための曲の他、多くのアンサンブル曲を作曲、演奏している。 


 今回演奏する「Catching Shadows」 はロチェスター大学イーストマン音楽学校で教授を務めるMichael Burrittの委嘱により作曲され、Michaelと作曲者自身により2013年のロチェスターフリンジフェスティバルで初演されている。同年、作曲者自身の手で打楽器6重奏版も作曲、初演されており、近年ではドラムやパーカッションを加える形で多くの打楽器奏者が演奏している。作曲者自身のYouTubeチャンネルで公開されている本人たちの演奏動画は現在120万回以上再生されており、打楽器好きなら一度は耳にした事があるだろう。無いなら是非聞こう。


 「Catching Shadows」はかねてより親交のあったMichaelとIvanの2人が、当時の車での演奏旅行と、その車中でMichaelの流したプレイリストに着想を得て作曲されている。急-緩-急の三部構成であるが、全体を通じてミニマルミュージックのように単純な音型が繰り返される。9分間の演奏時間の中で各々の奏者が奏でるフレーズのパターンは数えるほどしかない。しかし、繰り返しの中での細かな強弱の変化や、テンポが変化していく中であっても16分音符1つのズレや音の噛み合わせを変えていくことにより、たった2台の楽器でありながら多彩な響きを生み出している。その分、演奏には相手に惑わされない精神力と4本のマレットを自在に動かす技術が要求される。楽譜は音符で真っ黒であり、マレットを持ち替える暇もない。どちらの奏者も常に必死である。応援してほしい。余談ではあるが、今回は奏者自身の所有するマリンバを使用して演奏する。


 書き忘れたが車中でMichaelの流したプレイリストは「Radiohead」「Dave Matthews」「Earth, Wind&Fire」

 ロックにファンクである。


「Ready? Take1 」「Whoo‼︎ 」

Gravity / Marc Mellits

 作曲者のマーク・メリッツはアメリカの現代音楽作曲家です。本曲は同じくアメリカを拠点に活動する打楽器アンサンブルグループであるClocks in Motionへの委嘱作品として、2013年に作曲されました。Clocks in Motionは打楽器のための現代音楽をレパートリーとするグループであり、若手の現代音楽作曲家一人と4年間ほどコラボレーションして、打楽器の現代音楽を作曲してもらうワークショップ(Clock Shop)をしています。本作品は、メリッツがClock Shopに在籍していた際に作曲された作品です。


この曲は、同じリズムや同じ和音進行のフレーズが繰り返し演奏されながら次第に変化していくという、ミニマル・ミュージックの構成をとっています。特に冒頭は全員によるD音の連打から始まり、2小節または1小節ごとに1音ずつ音程が規則正しく変化していきます。この構造は調性を変えて曲の様々な場面で表れますが、似た楽譜を繰り返すうちに少しずつ違いが生まれていく美しさや面白さを感じることができます。


また本作品の大きな特徴として、各パートが主旋律・副旋律・伴奏に分離されておらず、全パートで一つの和音を構成していることがあげられます。例えば冒頭では、マリンバ奏者・ヴィブラフォン奏者が同じ楽譜をばらばらのタイミングで演奏し、バスマリンバ奏者はアルペジオを演奏します。これにより、マリンバとヴィブラフォンという音色の異なる楽器で構成されるにも関わらず、5台の楽器がまるで1つの楽器に融合しているかのように、各楽器の音が一体感のあるフレーズとなって聞こえてきます。


ところで、この曲のタイトルである「Gravity」とは、重力・引力のことです。作曲者のメリッツは自身の作品解説の中で次のように述べています(鍵括弧内は筆者の意訳)。

「音楽的な引力により、各奏者の演奏する音はお互いに連なり、前後に揺れ動く。」「曲全体のリズムとテンポは“引力が働いているかのように”変化する。この曲ではテンポは連続的に早くなっていき、また音程が下降するにつれてテンポが速くなり、音楽の質感が変わると螺旋を描くように新たなテンポに移り変わる。」


実際多くのクラシック曲では、曲中で場面や質感が変化する際には休符やソロによるカデンツァが入って間が空きますが、本曲中にはそのような間がほとんどありません。むしろ新たな場面に移り変わる際には、和音・テンポがカデンツで連続し、かつテンポが加速することで緊張感がますます高まるよう精密に構成されています。その様子はまるで次の場面からの”引力”に引き寄せられて音楽が進んでいるかのようです。


 本作品を通じて普段触れることの少ないミニマル・ミュージックの世界、そして鍵盤打楽器の透明で温かい響きを感じてもらえれば幸いです。

お逃げなさい  / 了徳寺 佳祐

 Percussion Ensemble CATCH!!のために委嘱された本作は、鍵盤ハーモニカと5Octマリンバとカホンのための打楽器アンサンブルです。鍵盤ハーモニカは打楽器じゃない!そう思われた方は正しい。鍵盤ハーモニカは打楽器ではありません。鍵盤ハーモニカとは、ハーモニカと同じく金属のリードを呼気で鳴らす鍵盤楽器であり、ピアノのような鍵盤が並んではいますがハーモニカの一種です。鍵盤と連動したバルブの開閉によって、特定のリードを確実に演奏することが出来きますが、ハーモニカと違い吸気で鳴らすことは出来ません。なお「ピアニカ」「メロディオン」などはメーカーの商標名ですが、通称として一般的に普及しています。


 話は逸れますが、アコーディオンは、蛇腹のふいごと鍵盤の操作によって演奏する可搬式のリードによる気鳴楽器です。コンサーティーナやバンドネオンは近縁の楽器であり、広義にはアコーディオンに含められることがあります。これらはあわせて蛇腹楽器と総称され、日本語では手風琴と称されますが、打楽器ではありません。


 いまこの演奏会が行われているアクア文化ホールは、大阪府豊中市中部に位置する地区“曽根”にある文化施設です。緑深い風光の優れた芦田ヶ池のほとりにあり、隣接する中央公民館とともに「(昭和60年度)大阪都市景観建築賞」を受賞しています。特に音響効果にすぐれており、緞帳には高い人気を誇る伊藤若冲の「仙人掌(さぼてん)群鶏図」からデザインされたものを使用しています。なお本日は緞帳を降ろす演出がございませんので、ご覧になられたい方は豊中市立文化芸術センターHPをご確認ください。バーチャルツアーは舞台を自由に移動してみることができ必見です。


 本日は原曲にない鍵盤打楽器や打楽器も加え、明るさと色どりを倍増させた音楽をお届けします。スピード感の中にほんのり哀愁を感じる林檎系メロディをこの会場とともに楽しんでいただければ幸いです。

 

第2部
大編成ステージ
30人にも及ぶメンバーで、
唯一無二のサウンドをお届けします 

3つのジャポニズム/真島俊夫

 この曲は東京佼成ウインドオーケストラの委嘱で真島俊夫氏により作曲され、2001年4月27日にダグラス・ボストック氏指揮の東京佼成ウインドオーケストラにより初演されました。


 真島氏によると、『私が日本的だと感じるものを、あくまで西洋的な楽器編成、音階、ハーモニー等の語法により、3曲から成る組曲にした。』とのこと。


 曲は「La danse des grues(鶴が舞う)」、「La riviere en neigée(雪の川)」、「La fête du feu(祭り)」の3曲からなります。 


1.La danse des grues(鶴が舞う)

 丹頂ツルの求愛の踊りが表わされています。丹頂ツルは頭頂部の赤と一部の黒い羽が全体の白い羽とのコントラストを見せて美しい鳥で、雄がコーと一声鳴くと、雌がコーコーと答えます。途中、鶴の羽ばたきと鳴き声が演奏されるなど様々な鶴の様子が描かれます。


2.La riviere en neigée(雪の川)

 冬の峡谷を静かに流れる川に、雪がしんしんと降り続ける墨絵のような光景が描写されています。


3.La fête du feu(祭り)

 激しい日本の夏祭りを描写し、いろいろな祭りのリズムが目まぐるしく登場する音のコラージュになっています。中間部は青空に入道雲が出ている、じりじりとした日本の夏の光景。やがて遠くから聞こえてくる太鼓は、真島氏の幼少の記憶に結びついた、故郷青森の「ねぶた」のリズムです。


 熱い要望から作曲者の手により管弦楽にも編曲された人気の曲を、本日は打楽器オーケストラによる、透明感溢れる響きでお楽しみください。

リバーダンス/ビル・ウィーラン

 リバーダンスはアイリッシュ・ダンスやアイルランド音楽を中心とした舞台作品です。1994年4月30日のユーロビジョン・ソング・コンテストの幕間に、ホスト国であったアイルランドが披露した約7分間のパフォーマンスが元になっており、曲をビル・ウィーランが担当しました。このステージが好評を博し、翌1995年2月9日から、フラメンコやロシア・バレエなども採り入れた舞台として上演されました。


 本日は1st Stageから3rd Stageの3部構成にて、7曲を抜粋しお届けします。


<1st Stage>

・RiverDance

物語は川の女神(Riverwoman)を呼び起こすことから始まります。大河が大地を流れるように、歴史の夜明けを通り過ぎていきます。やがて女神の力は強くなり、荒野は豊かになり、人々が目覚めていきます。すると私たちの物語は、生命や喜びの多様な祝詞としてこの世界から零れ出してくるのです。 


<2nd Stage>

・Macedonian Morning

新しいものに出会ったとき初めに気付くのは、知らないものの中に親しみのあるものがあり、親しみあると思っていたものの中に知らないものがある、ということです。異国や異文化を感じる曲は、心を揺さぶったり郷愁を覚えさせ、遠い故郷の舞踊を想起させます。


・Home And The Heartland

遠く離れたところから移り住んできた子供はいつも、郷愁を抱えています。故郷に帰りたいという強い思いも感じています。「かつての場所で暮らしていた時のように、今はここで生きているのだ」というある種の心残りがそのように思わせるのです。そして、新たに見つけた自信と誇りを胸に、今の場所での大切な思い出を生まれ故郷に持ち帰るのです。長い旅はふるさとの空の下で終わりを迎え、ここからまた新たで豊かな旅を始めてゆきます。


・Slip Into The Spring

実りの秋から閉塞の冬を経て立春を迎えるまで、四季はゆっくりと流れてゆきます。若葉が芽を出し、春の訪れを告げます。季節はめぐり、世界はまた新たに生まれ変わるのです。


<3rd Stage>

・Andalucia

アンダルシアはフラメンコや闘牛を生み出した、スペインでも第一の州です。大都会という様々なものが集うるつぼの中で、街並みの喧騒によって生み出されるエネルギーが、燃え上がるようなラテンダンスのリズムに反映されています。


・The Harvest

様々な困難を乗り越えた先に迎える豊穣の秋、喜びは最も高まります。各々の気持ちの昂りは、人毎に違う形をもって表されているようです。


・Reel Around The Sun

太陽は世界に生命と光と炎をもたらしました。曲の冒頭では円を描く(Reel)ようなダンスとなっており、これは慈愛に満ちた雄々しい太陽の姿を讃えています。


 ビル・ウィーランの作り上げた祖国と異国の両方に思いを馳せられる音楽を、打楽器ならではのパワーとリズムに乗せてどうぞお楽しみください。

おまけ
Gallery
スペースの都合上パンフレットに載せられなかった写真、練習風景、打楽器ひと図鑑で使った写真など

編曲者:了徳寺 佳祐

指揮者:柴田 優介

練習風景

打楽器ひと図鑑