東北大学大学院・生命科学研究科
生命科学セミナー
再生を促進する細胞の発見
~ヤマトヒメミミズの再生モデルとしての有用性~
東北大学大学院・生命科学研究科
生命科学セミナー
~ヤマトヒメミミズの再生モデルとしての有用性~
日時:2025年6月2日(月)15:30~17:00
場所:生物・地学共通講義室(青葉山キャンパス)
講師:山口真ニ・教授
(帝京大学薬学部基礎生物学研究室)
講演要旨
ヒトは、損傷により失われた器官を再生することができない。一方、小断片から体全体を再生する(全身再生)ことが可能な再生能の高い動物も存在する。「生物種による再生能の違いが、どのような細胞・分子基盤によるのか?」、不明な点が多い。
環形動物ヤマトヒメミミズは、全身再生の能力を有する。再生時には切断端に未分化細胞の塊である「再生芽」を形成し、失われた器官を作る材料とする。講演者は、比較RNA-seq解析により、再生芽が形成される際に、最も発現上昇する転写因子としてsoxC を同定した。ヤマトヒメミミズで新規に構築したRNA干渉を用いてsoxC 発現を抑圧すると、再生芽が小さくなったことから、soxC が再生芽形成に必要であることが分かった。次に、再生芽形成に伴う発現解析の結果、soxC 発現細胞は、次第に再生芽に集積し、再生芽のほぼ全体を占めることが判明した。これらのことから、soxC 発現細胞が再生芽に遊走する「再生芽前駆細胞」であるという概念を提唱した(Nat.Commun,(2024))。さらに、再生能が高い脊椎動物であるツメガエル幼生(オタマジャクシ)を用いて、尾の切断端に出来る再生芽において、soxCオルソログの発現を検討した。驚くべきことに、soxC発現細胞は、オタマジャクシの再生芽でも集積することが示された。これまで無脊椎動物(ミミズ)と脊椎動物(カエル)の再生芽が形成される仕組みは全く異なると考えられていたが、soxC発現細胞は共通に集積することから、器官再生は動物種を問わない共通の仕組みによっておこる可能性がある。肝臓をのぞき高い再生能力をもつ器官は存在しないヒトにおいても、 soxCは存在していることから、soxC発現細胞(=再生芽前駆細胞)の細胞動態を明らかとしていくことで、新規創薬や再生医療にも新たな視点を与えることが期待される。
(参考文献)
SoxC and MmpReg promote blastema formation in whole-body regeneration of fragmenting potworms Enchytraeus japonensis .
Fujita, T., Aoki, N., Mori, C., Homma, K. J., Yamaguchi, S. *
Nature Communications, 15, 6659 (2024)
講師紹介
山口 真二 教授は、私(竹内秀明)と同じく東京大学大学院薬学系研究科・名取俊二研究室の出身であり、2000年に同研究科博士課程を修了されました。修了後は同大学にて研究生を経て、2000年から2004年まで米国ピッツバーグ大学およびノースウェスタン大学でポストドクターとして勤務。そこで新規がん抑制因子「ちび」の同定(Nature 422, 905–909 (2003))や、ショウジョウバエにおける細胞周期関連キナーゼのRNA干渉スクリーニング(Nature 432, 980–987 (2004))に成功されました。
2004年に帰国後は帝京大学薬学部病態分子生物学研究室に着任し、助手、助教、准教授を歴任。鳥類ヒナの“刷り込み”を記憶学習モデルとして分子機構を解析し、甲状腺ホルモンが刷り込みの臨界期を制御するメカニズムを解明(Nat. Commun. (2012))しました。2018年からは同大学薬学部基礎生物学研究室の代表として独立し、環形動物ヤマトヒメミミズを用いた再生研究を立ち上げ、soxC発現細胞の遊走・集積が再生芽形成を駆動することを世界で初めて示しました(Nat. Commun. (2024))。現在は、普遍的な再生メカニズムの解明と再生医療への応用に向けた研究を展開中です。
問い合わせ先
東北大学生命科学研究科分子行動分野
竹内秀明
TEL:022-217-6218 (竹内)
E-mail Address:hideaki.takeuchi.a8(at)tohoku.ac.jp (at)=@