最も軽い構造用金属の力学多機能化
創発的研究支援事業(JST FOREST) 古原パネル、2025年10月~2033年3月
創発的研究支援事業(JST FOREST) 古原パネル、2025年10月~2033年3月
本研究提案では、人類が生活する環境下で安定して使用できる稠密金属の中で最も軽い「Mg-Li基合金」にフォーカスを当て、多様な力学機能を発現させるための材料設計指針を確立します。
消費社会の急速な拡大に伴い、高分子材料やセラミックスと比較して力学特性のバランスが優れ、耐熱性や導電性などの特性を併せ持つ金属材料がますます重要な位置を占めています。その中でも私たちの生活を支える輸送機器や機械・医療機器では、「軽くて強い」金属材料がますます重要になっています。軽くて強い軽金属材料の開発として、
①強いものを軽くする
②軽いものを強くする
という二つの戦略が考えられます。しかし、稠密な金属材料の密度を下げるというのは原理的に困難となります。一方で、高強度化には様々な合金における多様なアプローチが提案されており、最高の構造用軽金属開発には②のような元から軽いものを強くする戦略が重要になると考えます。軽金属と呼ばれる材料群として、チタン(Ti、密度~4.5 g/cm3)、アルミニウム(Al、密度~2.7 g/cm3)、マグネシウム(Mg、密度~1.7 g/cm3)はその代表格です。Tiは高い耐熱性と強度を有しますが重く高価で、Alは軽量性と加工性のバランスに優れる一方でさらなる軽量化には限界があります。Mgは実用金属の中で最も軽量であり、輸送機器の軽量化やエネルギー効率向上に貢献する材料として注目されています。軽金属の中でも、環境負荷低減と性能の両立を実現するために、Mg系材料の高機能化は次世代の社会を支える鍵となっています。
Mg合金の中でも、リチウム(Li)を添加したMg-Li基合金は、実用可能な金属材料の中で最も軽いという特性を持ち、優れた加工性も兼ね備えています。Mg-Li基合金の密度は1.4 g/cm3程度でありAlの半分、鉄の1/5程度と格段に軽く、他の金属材料では実現不可能な特長を有しています。本合金系はその軽量性から、20世紀初頭から航空宇宙材料としての応用を目指した研究開発が世界中で行われてきました。しかし、Li相を含む本合金系は他の軽金属と比べても強度や耐久性に課題があり、力学機能の不足から実用化は見送られてきたという経緯があります。近年、マルチスケール(ナノ~サブミリメートル)にわたる組織制御技術の進展によりMg-Li基合金における多様な力学機能発現の可能性が浮上し、本研究ではその力学機能を飛躍的に向上させることに挑戦しています。
現代の産業では、単に「軽くて強い」だけでなく、さまざまな過酷な環境に耐えられる性能が構造材料に求められています。たとえば、自動車や航空機においては、衝突や振動に耐える高い強度と延性が必要です。エンジン周辺などの高温部材では、長時間の耐熱性(クリープ耐性)が不可欠です。自動車ホイールや医療機器に用いられる場合には、繰り返し使用に耐える疲労特性が重要となります。本研究では、Mg-Li基合金に対してこれら複数の力学特性(強度・延性・耐熱性・疲労特性など)を同時に満たす設計指針を構築し、現実の産業応用に耐える次世代超軽量金属材料の創製を目指しています。この成果は、自動車の燃費向上、航空機の軽量化、身体への負担が少ない医療用インプラントなど、幅広い分野での技術革新につながると期待されています。
○室温力学機能
○高温力学機能
○解説
○室温力学機能
○高温力学機能
○耐食性
○招待講演