新緑を吹き抜ける風が心地よく、初夏への移り変わりを感じる季節となりました。
先日、南道庵にて、小さなお茶事をいたしました。
今回のテーマは「行雲流水(こううんりゅうすい)」。
空を見上げれば、青空に白い雲が静かに流れ、視線を落とせば、清らかな水が川面をさらさらと渡っていく。そんな風景を心に描きながら、お道具やしつらえに小さな「水の物語」を込めて、お客様をお迎えしました。
待合では冷たいお茶を召し上がっていただき、その後、外の腰掛待合へ。
迎え付けののち、お客様には蹲(つくばい)で心身を清めていただき、本席へお入りいただきます。
床の間には「行雲流水」のお軸を掛け、流水に浮かぶ船に見立てた香合を飾りました。
席入りの後は懐石です。
リラックスして、料理やお酒を楽しんでいただけたらとの思いから、今回はテーブル懐石といたしました。
八寸には「小舟」に見立てた焼きそら豆を添え、床の間の船から続く物語をさりげなくつなぎます。
懐石のあとは再び茶室へ戻り、初炭に代えて「聞香(もんこう)」と「句会」を行いました。
俳句がお好きなお客様に楽しんでいただければと考えた趣向です。
香を焚き、香木のほのかな香りを楽しんでいただいた後、初夏の季語を交えながら、それぞれの思いを一句にしたためていただきました。
香の余韻と、先ほどのお酒の心地よい酔いも相まってか、筆も軽やかに進み、個性豊かな句が並びました。
全員が書き終えると、お一人おひとりに句を詠み上げていただき、その句に込められた思いや情景をお話しいただきました。
新緑の季節を詠む瑞々しい句の数々。皆様の温かなお言葉によって、お茶室には和やかで楽しい時間が流れていきました。
その余韻のなかでお出した主菓子の銘は「虹のかけ橋」。
雲から雨が降り、水となって流れ、その先の青空に虹がかかる――。
今回のテーマである「行雲流水」の物語を、お菓子にも重ねてみました。
主菓子の後は中立ちとなります。
お客様に再び腰掛待合へお移りいただいている間に、席中の準備を整えます。
やがて静寂のなかに響く銅鑼(どら)の音を合図に、お客様が再び席へと戻られます。
後半の席では、お軸に代わって、真っ白なギボウシの花を床の間中央に飾りました。
大ぶりの葉の緑に映える白い花が、初夏らしい爽やかさを感じさせてくれます。
花入れには、川で鮎を獲る際に使う道具を見立てた鮎籠(あゆかご)を用いました。
川辺の景色を思わせる鮎籠が、初夏らしい趣を添えてくれました。
ここからはお薄の席です。
白地に青い模様が涼やかな祥瑞の水指には、井戸の縁から中をのぞき込む愛らしい二閑人がいます。
蓋置も一閑人で揃え、水つながりの小さな遊び心を添えました。
お薄を点てる手元を彩るのは、笹の葉に露をあしらったお棗です。
床の間の船から始まり、鮎籠、水指の井戸へとつながってきた「水の物語」が、最後には手のひらほどの小さな露となって結ばれる。
そんな見立てを心に置きながら、一服を点てさせていただきました。
お帰りの際、お客様が再び待合へ戻られると、そこには句会で皆様がお書きになった色紙が軸として飾られています。
思いがけないしつらえに驚きながら、皆様が一日の出来事を振り返り、最後まで笑顔の絶えないひとときとなりました。
私自身、まだまだ学ぶことばかりですが、皆様の温かな笑顔に包まれながら過ごした一日は、心に残る大切な時間となりました。
こうして同じ席に集い、ともに楽しみ、語り合えることのありがたさを、改めて感じた一日でもありました。
最高の伝統に敬意を払いながら、身の丈に合った、自分らしく楽しめる私たちのお茶を。
いただいたご縁に感謝しながら、皆様とともに少しずつ育んでいけたらと思っています。