私たちは,有機合成化学の研究をおこなっています。
独自の合成手法に立脚し,この世に無い物を創りたい。それが面白い機能を示せば最高です。
小分子から高分子まで,幅広い対象の合成に興味があります。
以下に,これまでの主な成果を紹介します。
全ての頂点にフッ素原子が結合した多面体型分子は,その内部に電子を受けとることが理論的に予想されていましたが,その合成は長らく達成されていませんでした。我々は,全ての頂点にフッ素原子が結合した立方体型分子である「全フッ素化キュバン」を初めて合成し,その内部に電子を閉じこめた状態を観測することに成功しました。合成の鍵となったのは,フッ素ガスを用いた反応です。フッ素ガスは有機化合物と爆発的に反応するため,これまで有機合成には利用されてきませんでした。これに対して我々は,フッ素ガスの反応性を制御しながら有機化合物にフッ素原子を導入する独自の技術を利用し,前人未踏の分子の合成に成功しました。
また,キュバンに6つのフッ素と2つのハロゲン原子(塩素,臭素,ヨウ素)が結合した化合物を合成しました。驚くべきことに,この分子の炭素–ハロゲン結合は通常の炭素–ハロゲン単結合より遥かに短いことを発見しました。
J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 30686–30697.
全フッ素化アダマンチル基を有する化合物の合成にも取り組んでいます。全フッ素化アダマンチル基を有する色素材料を開発し,この置換基が嵩高く強力な電子求引性基として働くことを実証しました。
含フッ素高分子は撥水撥油性,低屈折率など有用な性質を示します。しかし,使用可能なフッ素モノマーの制限や,フッ素モノマーの特異な反応性から,非フッ素系高分子に比べ合成法・構造の多様性が低いことが課題です。我々は,フッ素モノマー特有の反応性を活かし,新しい主鎖構造をもつ含フッ素高分子を合成しました。
[1.1.1]プロペランとフッ素化アルケンの交互共重合により新規高分子を合成しました。得られた高分子は,市販の含フッ素高分子すら凌駕する撥水撥油性能を示しました。
ACS Macro Lett. 2024, 13, 1383–1389.
ヘキサフルオロプロピレンオキシドの開環アニオン重合とトリフルオロメチル化反応を組み合わせ,重合と共に官能基化が進行する反応を開発しました。得られた高分子は,導入したトリフルオロメチル基に由来して結晶性を発現しました。
オレフィンメタセシスは2つの二重結合を組み替える有用な触媒反応です。しかし,二重結合にフッ素が直接結合したフッ素化アルケンを用いると,反応は著しく進行しづらくなることが知られています。我々は,高活性触媒の開発および反応性の低さを逆手に取る反応設計により,フッ素化アルケンを用いた3種類のメタセシスを実現しました。
反応性が極めて低いことが知られているテトラフルオロエチレン(TFE)を用いたメタセシスに対し,七員環配位子を有する触媒(Ru7)が特異的に高い活性を示すことを見出し,触媒回転数を従来より2桁向上させました。
J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 20980–20987.
上記の反応を応用し,TFEが介在する閉環メタセシスの設計・実現に至りました。従来は熱力学的・速度論的に不利とされたジビニロキシアルカンの閉環メタセシスを,TFEおよびRu7触媒の添加によって進行させることに成功しました。
J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 32550–32557.
フッ素化アルケンの反応性の低さを逆手に取り,高分子重合の配列制御に活用しました。ノルボルネンのフッ素化によりジヒドロフランとの完全交互共重合を進行させ,分子量10000超の高分子を合成しました。