ポスター講演を申し込まれた方で,以下にお名前のない方や講演当日に関する案内のメイルが届いていない方がいらっしゃいましたら,事務局までご連絡ください.
[1] 伊藤 雅人 (立命館大学)
Splitting of low-lying eigenvalues for a wedge-shaped symmetric double well potential
キーワード: Semiclassical analysis,Schr\"{o}dinger operator,Eigenvalues
Schr\"{o}dinger作用素$-h^2(d/dx)^2 + V(x)$において,$V(x)$が単井戸ポテンシャル (ex. $V(x) = x^2$,以降単井戸) の場合は固有値が存在することがよく知られている.$V(x)$が二重井戸ポテンシャルの場合 (ex. V(x) = x^4 - 1,以降二重井戸),片側の井戸を埋めた単井戸が2つあると考え,各単井戸から得られる固有値の和集合が二重井戸をもつSchr\"{o}dinger作用素の固有値の集合であると期待される.すると,左右対称 (V(x) = V(-x)) な二重井戸の場合は各単井戸から得られる固有値が一致してしまい,片側を埋めた単井戸の固有値と同じものが得られると予想できる.しかし,実際は単井戸から得られる固有値の近くに2つ,分裂したかのように二重井戸から得られる固有値が現れる.この2つの固有値の差は"固有値の分裂"と呼ばれ,量子力学で扱われるトンネル効果に関係している.
先行研究では滑らかな二重井戸に対して,準古典解析を用いて解析が行われてきた.本ポスターでは井戸底が尖った (滑らかでない) 二重井戸を考え,固有値の分裂が$h \to +0$としたときにどのような挙動をするのかを紹介する.
[2] 髙橋 勇人 (ランダムデータラボラトリ合同会社)
Space and time complexity for exact distributions of runs
キーワード: exact distribution, run, integer partition
連の分布の明示的公式とその計算量について発表する.提示する方法はいくつかの条件のもとでサンプルサイズに対して線形時間で厳密分布が計算できることを示しサンプルサイズが巨大な場合でも厳密計算が可能なことを示す.
[3] 大西 勇 (広島大学)
Spin-Polarized Quantum Many-Body Hysteresis in MOF/TI Hybrids: Rigorous RG Analysis with KG-Dirac Coupling for CO2 Reduction, Hydrogen Storage, and Relativistic Quantum Information
キーワード: Spin-Polarized Quantum Many-Body Hysteresis, Rigorous RG Analysis with KG-Dirac Coupling, MOF/TI Hybrids
This study presents a quantum field-theoretic model for spin-polarized many-body hysteresis in metal-organic framework/topological insulator (MOF/TI) hybrids, aimed at enhancing CO2 reduction and hydrogen storage catalysis. By coupling a Klein-Gordon scalar field, representing bosonic vibrations in MOF pores, with a Dirac spinor field modeling fermionic electrons in TI surface states via a Yukawa interaction g¯ , we derive the total Lagrangian and Euler-Lagrange equations. Symbolic computations using SymPy validate the modified Klein-Gordon equation 2 + m2 = g¯ , highlighting the spinor densitys role as a hysteresis modulating source for both catalytic and quantum coherence effects. Renormalization group (RG) analysis at one-loop order reveals infrared freedom of the coupling g, enabling perturbative treatments at catalytic scales. Photothermal extensions incorporate light-matter interactions, predicting reduced activation barriers (20-30%) under solar irradiation and enhanced entanglement fidelity (15-25%) for RQI tasks. Case studies benchmark the model against 2025 experimental data, such as ZIF-8/Bi2Se3 heterostructures achieving 22.65μmol g−1 h−1 CO rates, 1.3wt% H2 capacities, and Unruh-DeWitt-like detectors for vacuum fluctuations, confirming spin-momentum lockings enhancement of multi-electron transfers and relativistic quantum channels.
The framework bridges QFT with materials science and RQI, offering predictive insights for sustainable energy technologies and quantum devices, with future directions including multi-flavor generalizations and MXene integrations.
[4] ISHII, Daisuke (Kiara Inc.)
オープンソース実験による格子暗号アルゴリズムの実装的検証と計算効率評価
キーワード: ポスト量子暗号 (Post-Quantum Cryptography),格子基底簡約 (Lattice Basis Reduction),計算複雑性評価 (Computational Complexity Evaluation)
本研究は,量子計算の登場により従来の公開鍵暗号 (RSAやECC) が脅かされる中で,有力な耐量子候補とされる格子暗号の実用化を目指す試みである.特に,理論的には堅牢だが,計算コストや基底簡約の複雑性,大きな鍵サイズといった課題を抱える現状を踏まえ,オープンソース実験基盤を通じて理論と実装のギャップを埋めようとする.プロジェクトでは,格子構築・基底簡約・暗号処理を段階的に開発・検証し,計算効率や数値安定性を定量的に評価する.現在,理想格子構築ツール (ver1.0),基本的な基底簡約アルゴリズム (ver1.1),およびKZ簡約法 (ver1.2) を実装済みである.これらを用いて,Lattice Challengeなどの公開ベンチマークを通し,格子次元に対するスケーラビリティや計算時間の複雑性を測定する.得られた成果はオープンデータとして公開し,再現可能な基準を提供することを目的とする.最終的には,世界水準の格子簡約に要する計算努力を明らかにし,次世代のポスト量子暗号設計に実践的洞察をもたらす.
[5] 宇田 智紀 (富山大学)
異方性のパーシステントホモロジーへの反映
キーワード: トポロジカルデータ解析,パーシステントホモロジー,異方性
位相的データ解析では様々な手法によりデータの「かたち」を特徴量として取り出せる.点群を入力データとする標準的なパーシステントホモロジー解析では,各点に置いた円盤の半径パラメータを増大させ拡げていく図形列を考える.本研究ではこれを楕円に拡張することで,データが本来持つ非等方性を効果的に特徴量抽出へと反映させる.講演では,拡大パラメータに関する楕円間接触の高速かつ安定な計算方法と,異方的パーシステントホモロジーによる解析の結果を示す.また,Pythonライブラリー実装における生成AIの活用と知見についても述べたい.
[6] WANG, Lingxiao (理化学研究所)
Physics-Driven Deep Learning for Inverse Modeling
キーワード: Physics-Driven Learning, Inverse Problem, Generative Models
The integration of deep learning techniques and physics-driven designs is reforming the way we address inverse problems, in which accurate physical properties are extracted from complex observations. Physics-driven learning can extract quantities from data more efficiently in a probabilistic framework because embedding priors, e.g., symmetries, principles, physics equations and constrains can reduce the optimization effort.
[7] 岩井 桃佳 (明治大学)
解釈可能な時系列生成モデルの構築および活用 ー死因別死亡率の予測と区間推定ー
キーワード: 畳み込み変分自己符号化器 (CVAE),区間推定,死因別死亡率予測
保険数理分野の時系列予測の中でも,相互依存性をもちながら多様な時間発展をする死因別死亡率の予測は困難なタスクとされてきた.死因別死亡率モデルの研究は主にベイズモデルの枠組みで進められてきたが,それらは推論と解釈性に重きが置かれたため予測精度の追及は難しく産業ニーズに応えられなかった.最近になって提案されたデータ駆動型モデルは,次元削減により一定の解釈性を確保しつつ予測精度を追求したが,データ再構成と時系列予測の二段階推定となる統計的な不整合性の問題があった.本研究は,生成ニューラルネットワーク (NN) の一種で変分推論を行う自己符号化器と畳み込み演算を組み合わせることで,NNの弱点とされることの多いブラックボックス化を回避し,解釈性を失わずに,従来のデータ駆動型では実現できなかった一段階推定により高い予測精度を達成できることを示した.さらに,従来はベイズモデルの特長とされてきた区間推定も実現しリスク管理への活用に道を開いた.
[8] 松江 要 (九州大学)
有限時間特異性: 力学系の観点からいくつか
キーワード: Tipping,有限時間爆発,無限遠ダイナミクス,マルチスケールダイナミクス
有限時間で引き起こされる (非) 可逆・急激な変化を伴う現象について,力学系の観点によるこれまでの考察をまとめます.外部環境により引き起こされる有限時間の系の不安定化である「Tipping」現象とその「炭素濃度・地表温度モデル」への応用,微分方程式の解の有限時間爆発の新動向 (特に,非自励系やそれに付随する別のクラスの方程式系に対する考察) を中心に,現象抽出の難しさ,それを適切に記述する力学系理論の展開を論じます.
[9] 深川 宏樹 (DeepFlow株式会社)
「描く」から「定める」へ.Generative DesignとSimulationによる最適設計
キーワード: ジェネレーティブデザイン,シミュレーション,最適設計
ジェネレーティブデザインとは,設計者がコンピュータソフトウェアに⽬標,性能,製造の制約条件 (材料,重量,コスト) を⼊⼒し,AIやアルゴリズムがこれらの条件を満たす多数の設計案を⾃動⽣成する⼿法です.これに物理シミュレーションでの検証を組み合わせれば,図⾯を「描く」ことなく,⽬的と制約を「定める」ことで最適な設計が得られます.
これからは,「⽬的と制約」が駆動する新しい設計プロセスが必要となると考えます.設計は企画を基に⽬的と制約を定める概念設計から始まります.基礎設計では,設計諸元と評価項⽬とを定め,最適設計のための探査計画を作成します.次に,探査計画に基づいて,ワークフロークラウドがシミュレーションに必要な形状データと物理条件を数百パターン⽣成し,性能計算機でシミュレーションします.データ分析では,計算結果から応答局⾯を構築し,最適設計を探索します.知⾒はデータベースに蓄えられ,設計者・AIはこれらを参照しながら,次の探索計画の⽴案します.
[10] 徐 百歌 (神戸大学)
CoSyNN: エネルギー散逸系の学習のためのConformal Symplectic Neural Networks
キーワード: エネルギー散逸系,Conformal symplectic構造,構造保存型機械学習
エネルギー散逸項をもつハミルトン系の多くは,conformal symplectic構造という,symplectic形式が比例的に保存される構造をもつ.本研究では,このような散逸系の conformal symplectic構造に着目し,その構造を保つ学習の枠組みCoSyNN (Conformal Symplectic Neural Network)を提案する.提案手法は,conformalベクトル場の分解に基づき,エネルギー保存の挙動を担うハミルトンベクトル場のフローと,エネルギー散逸の挙動を担うLiouvilleベクトル場のフローを合成して散逸系の解写像を近似する.数値実験として,散逸型Duffing振動子およびHénon–Heiles系に対し,MLPによる単純な写像近似に比べ,CoSyNNは精度とエネルギー散逸の再現性に優れることを示す.
[11] 蓮井 太朗 (九州大学)
ベッチ数を与えた場合の連結2部グラフの数え上げおよびその漸近挙動
キーワード: グラフ理論,2部グラフ,ベッチ数
本講演では,2部グラフと呼ばれる2種類の頂点から構成されるグラフについて,その「連結性」と「ベッチ数」と呼ばれる構造的特徴に基づく列挙問題を扱う.ベッチ数とは,グラフに含まれる独立な閉路の数を表す量であり,そのトポロジー的な複雑さを測る指標である.本研究では,頂点数を固定したときのすべてのラベル付き連結2部グラフを体系的に数え上げるために,それらの個数をまとめて表現する指数型母関数を導入した.この母関数が満たす偏微分方程式を導き,帰納的に解くことで,ベッチ数が1や2の場合に対応する具体的な関数形を求めた.さらに,頂点数が大きくなったときの個数の増え方を解析し,一般のグラフとの対応関係を明らかにした.加えて,すべての連結2部グラフを有限個の「基本的な形」に分類し,母関数をそれらの有理関数の和として表す新しい構成法を提案する.本研究は白井朋之氏 (九州大学IMI),藪奥哲史氏 (福岡大学) との共同研究による.
[12] 正宗 淳 (東北大学)
Stokes–Cahn–Hilliard系の均質化によるRichards型方程式の導出 ―界面張力効果を考慮した多相流モデルのマクロ化―
キーワード: 多孔質媒体,マルチスケール解析,界面張力
多孔質媒体内での二相流の挙動を理解することは,土壌中の水移動や燃料電池などの工学的応用において重要である.本研究では,界面張力を含む二相流の微視的モデルとして知られるStokes–Cahn–Hilliard系を出発点とし,周期的微細構造をもつ媒体に対して均質化法 (homogenization) を適用することにより,世界に先駆けて界面張力効果を含むマクロスケールのリチャーズ型方程式 (Richards-type equation) を厳密に導出した.得られた方程式は,界面張力や相濃度の空間勾配に由来する効果を明示的に含み,従来のリチャーズ方程式では捉えられなかった微視的界面構造の影響を定量的に評価できる点が特徴である.本成果は,多相流体の輸送特性や浸透現象の高精度モデリングに新たな理論的基盤を提供し,土壌物理やエネルギー工学への応用が期待される.