これまで多くの日本企業は、日本人の男性を主な中核的な社員として想定し、事業活動を行なってきました。その結果、日本人男性と比べたときに、女性社員や外国人社員など、平均的に同程度の報酬・地位・権利を獲得できないことが問題視されてきました。
女性社員や外国人社員のような少数派となりやすい性質や属性を持つ人を「マイノリティ」と言います。マイノリティには、性別、SOGI(性的指向・性自認)、人種、国籍、障害、年齢、学歴、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も入ります。
現在、周縁的な労働力として位置づけられてきた「マイノリティ」の人々がうまく企業で活躍できるように、様々な施策が講じられています。例えば、男女雇用機会均等法以降の女性活躍やグローバルな外国人社員の活用、障害者雇用促進などです。それぞれの場面と対象者において、活躍を促すような政策が行われ、企業もそれに対応してきました。
特に近年は、「多様性の尊重」「ダイバーシティ・マネジメント」「ダイバーシティ&インクルージョン」「DEI (多様性・公平性・包括性)」などの言葉が広がっています。企業の社会的責任という観点からも、ほとんどの日本企業では、何らかの形で多様な人材を確保することが求められています。
さらに、人口減少による人材不足の影響もあり、これまで中核的な社員としてきた日本人男性以外の活躍がより一層大事になっています。
これまで、マイノリティの雇用に関するデータの開示・分析がほとんど進んできませんでした。そこで、本プロジェクトでは、下記の2つのミッションを通じて、この現状を変えることを目指しています。
ミッション1:様々なマイノリティの比較をおこなえるデータを収集し、日本企業の現状を正確に分析します。
これまではマイノリティの活躍を考えるうえで、それぞれのカテゴリー(性別・国籍・人種・性自認・障害など)に特化して研究が進められてきました。企業でも、女性を活躍させるためにはどうすれば良いか、障害者を活躍させるにはどうすれば良いか、外国人を活躍させるためにはどうすれば良いかなど、それぞれの集団の活躍を個々に考えてきたのではないでしょうか。
この現状は、企業にとっても、研究者にとってもメリットがありません。例えば、「女性」への活用戦略と「障害者」への活用戦略の共通点や相違点が見つけにくい現状です。さらに、女性であり、障害者でもあるといった複数のマイノリティの「重なり」についても、検証されてきませんでした。これは、企業にとって、マイノリティを活かしてきれない現状に繋がっています。日本の労働・組織に関する研究者にとっても、国際的に遅れをとる痛手となっています。
企業と研究者が協力して、マイノリティの雇用に関する人事データ等の開示・分析をおこなうことで、企業としては、より信頼性の高く安全な「エビデンス(証拠)」を得ながら自社の実践を振り返ることができます。もしかしたら、マイノリティの雇用に関する情報は、秘匿性の高くセンシティブな要素を多く含むため、開示することが難しい現状があるかもしれません。しかし、研究者は、研究倫理に基づいてデータの収集や分析をおこなうため、当事者の匿名性に配慮した結果の提示ができます。そのため、アカウンタビリティ(企業の状況や財務内容を報告する説明責任)を高めながらも、日本の企業をより良い方向に先導する役割を担うことができると考えられます。
ミッション2:人事データの分析をすることで、マイノリティの雇用状況と、その問題点を明らかにし、改善策を共に考えます。
自社におけるマイノリティの雇用状況が、日本全体で見たときにどのような状況にあり、それがどのような職場の環境・各事業部門の実践・人的資本経営などと繋がっているのかを、専門家の適切な視点から評価することが重要です。専門家と共同研究をおこない、適切なデータ分析方法と研究蓄積のうえで評価されることで、自社におけるマイノリティ雇用の状況を透明化していくことや、より良い実践を模索していくことが可能となります。
マイノリティの雇用に関するデータの開示・分析が進めば、日本の企業・研究者・社会がすべて善い方向へと進んでいくことが可能となります。
✓ 社会学を基盤とした労働市場における包括的な研究の推進
国際学会での報告や国際的な査読ジャーナルへの執筆を含めた学術的な発信
✓ 多様な人材活躍を促進したい企業との共同研究の実施
参画頂いた企業へのヒアリングや人事データの分析、社員へのアンケート調査の実施
✓ 多様な人材活躍に悩む企業に対するアドバイザー(助言や指導、講演)