64段

…コノハ様。なんだか不機嫌でしたね。

アヤツの不機嫌は、もはや地球の自転並に普遍的なものじゃけど…

今回はどうも、“不愉快”って感じに見えたなぁ。

どういう意見ですか?

はなから虫の居所が悪いというより、タキの反応が気に入らない…

そんな風に見えた。原因はわからんが…

そういえば、何やらコノハ様も調子が悪そうにしてましたね。

タキ様への対応と何か関係があるのでしょうか。

う〜む…

大丈夫かなぁ…

あの2人を残してきて。

大丈夫ですよ!

コノハ様は何だかんだで面倒見の良い方です!

しかし、タキがあの性格じゃからなぁ…

…変に波風立てなきゃいいのじゃが。

コノハー。《お供え物》、見つけてきたぞ。

…あ、アマテラス様…

…ぜぇ… …ぜぇ… …おかえりなさい… …はぁ… …はぁ…

…なんでいきなりぶっ倒れかけとるんじゃ。

あ、おかえりアマテラス様。《お供え物》、その辺に置いといて。

ホラ“末っ子”、休憩終わりだよ。もう一回り行ってな。

え、もう休憩終わり!?あと、5分…

寝起きの学生かよ。

ぐだってないで、さっさと立つ!

ううう…

随分厳しくやっとるようじゃけど…何かの特訓か?

そんな大仰なものじゃないのだわ。気分転換よ、気分転換。

そんな慎ましいものじゃないだろ! 横暴だ! 横柄だ!

…………

…仲良くやっとるようでなによりじゃ。

どこがですかッ!

結局仕事には一切手がついてないし…

ハイ、“仕事”はNGワード。もう10週追加ね。

あっ!いや、違うって!!今のは口が滑っただけで!

くそっ、このまま足止めを食らってたら、また姉さんたちに迷惑を…

姉さんたちに迷惑”もNGワード。更に10周追加なのだわ。

行ってくればいいんだろ!もおおぉぉーッ!

…で、何させとるのじゃ?

…だから、気分転換。

いっぺん仕事のこと忘れてそこら中走り回ってもらってるのだわ。

調子悪いときは変に考え込むより汗でも流したほうがいいのよ。

な、なるほど… そういう方針か…

…となると、あの厳しい罰則にも、何か意味があるワケか。

いや、あれはコノハが楽しむためのささやかなイタズラ心なのだわ。

あ、そう…

しっかし、あの末っ子… どうも肝心なことが分かってないのだわ。

戻ってきたら、その辺りきっちり叩き込んでおかないとね。

…ま、まぁ、程々にな?

どうかしらね。今回はコノハの気分転換も兼ねてるからなぁ。

…ブレーキの踏みどころが難しくって…

…ゴクリ。

あ、そうそう。ツクモの試験も見てあげなくちゃだっけ。

いやぁ、コレはコレで、気分転換になって助かるのだわ〜。

…く、くれぐれも、程々にな?

コノハ様が楽しそうで、何よりです!

…他人事みたいに言っておるなぁ…

しかしまぁ、今回コノハがあっさり引き受けた理由も、大体分かってきたな。

ご自身の気分転換も兼ねていたのですね。

最近調子が悪いと言ってましたもんね。

まぁ、結局アヤツがタキに抱いてる想いが何かはよく分からんが…

《神格試験》が終わったら、教えてもらえますかね。

まぁ、どのみちワシらは試験を受けることしかできんけどな。

コノハが程々に加減してくれることを祈るとしよう…

はい、合格ー。

うんうん、なんだかんだ言って、着々と成長してるみたいじゃないの。

正直コノハからしたらトロすぎてお話にならないレベルではあるけれど…

コレはコレで、カメとナメクジのかけっこ勝負みたいなエンタメ性を感じるのだわ。

…む、無茶苦茶言うな、お前。

…なにさ。せっかく褒めてあげてるのに。

コノハの教えをちゃ~んと守ってて、感心感心、ってハナシをしてるのだわ。

…それに比べて。

…ゼハァ… …ゼハァ… …ゼッ…………

…………

…ぶあッハァ…

お、戻ってきたかタキ。…随分と遅かったな。

…本州をぐるっと20周、してきました…

…そ、それは… …随分と早かったな…

…これ以上… ゼェ… …仕事を遅らせるわけには… ハァ…

…いきませんので… フゥ…

…まーだ言ってるよ。

で、今日の仕事のノルマは?

…とりあえず、東の海の流れを、きっちり整えないと…

それじゃ、さっさとやってみるのだわ。

…この状態で!?

ただでさえ調子が悪いのに…うまくいくワケないだろ!

あー、そういうのいいから…つべこべ言わずにさっさとやる。

…わ、わかったよ。


んんんん…

でぇいっ!!

…………

…やっぱり、ダメだ。少しは調整できたけど、完璧じゃない…

で、どうなの?“交通安全”的には。

…え?

…寝ぼけてんの? もともと海上の交通を守るための仕事でしょうが。

…ま、まぁまぁかな。これならそんなに危険はないと思う。

…確実とは言えないけど。

じゃ、十分でしょ。はい、今日は解散。お仕事終了。

とっとと帰って体の疲れでも取りな。

何言ってんのさ!この程度じゃ足りないって!

波を完璧にコントロールしてみせないと…“ムナカタ三女神”の一柱として!

そういうところが“半人前”だって言ってんのよ。

…な、なんだって?

一日二日根性で頑張ったって何がどうなるってワケでもないっしょ。

…プロってのはね。どんなに調子が悪かろうが、力が及ばなかろうが…

やるべきことを毎日続けてるヤツのことを言うのよ。

…そ、それを言うなら…

ぼくだって続けてるさ!毎日一生懸命にな!

調子が悪いときに“完璧”を求めるのは、やるべきこととは言わないっての。

…う。

ニンゲンもめがみも、1日に出来るのは、1歩か半歩前に進むことぐらいなのよ。

それでもナメクジみたいに這って進んで、振り返れば結構遠くに来てる…

そういうもんでしょ。そこの、ツクモみたいにさ。

…………

ま、コノハに言えるのはここまでね。そろそろ帰るのだわ。

お、おう。世話になったな、コノハ。

別にいーよ。今回はコノハのストレス発散にもなったし。

おかげ様で、明日からまたバリバリ働けそうなのだわ。

お、おい!

あー、ダメダメ。もうサービス終了だから。

あとは自分で考えて向き合いな。末っ子ちゃん。

…行っちゃいましたね。コノハ様。

…タキも、フラフラどっか行ってしまったな。

まぁ、本州をぐるっと20周なんて言ってましたからね…

流石に、休みに行ったのではないでしょうか…

やれやれ、タキの調査をちゃんと済まさねばならんのじゃがなぁ…

…コノハ様のコトバ、結構手厳しいアドバイスに思いましたけれど…

大丈夫でしょうか、タキ様。

…とりあえず、もう少し待ってみるか。

アヤツも落ち着いたら、ひょっこり出て来るじゃろ。

…そうですね。