2005年頃「トポロジカル絶縁体」と呼ばれる物質のまったく新しい状態が存在することが理論的に提唱され、2007年にはその実在が実験的に明らかにされた。これは物性物理の世界で大きな注目を集め、新たな一分野を築くに至った。
トポロジカル絶縁体とは、バルクにはギャップがあるが、表面・界面にはギャップレスの励起モードが存在し、美しい数学(トポロジー)によって特徴づけられる物質相のことである。3次元トポロジカル絶縁体の表面状態は2次元の相対論的波動方程式(ディラック方程式)で記述され、通常の金属とは異なる特殊な性質を示す。当理論グループでは、トポロジカル物質の表面における電気伝導、特に乱れや相互作用の効果、および表面状態に起因する電磁応答、それらのスピントロニクスへの応用に関する理論的研究を行っている。
トポロジカル物質の概念は絶縁体に留まることなく、トポロジーによって特徴付けられる超伝導体、トポロジカル超伝導体の存在も提唱された。
3次元トポロジカル超伝導体の表面状態はマヨラナ準粒子として記述される。マヨラナ粒子とは自分自身が反粒子である粒子であり、非可換統計に従うなど奇妙な性質を示す。 近年、その性質が量子計算に応用できることが指摘され、量子コンピュータ実現の鍵として精力的に研究が進められている。
我々のグループでは、トポロジカル超伝導体接合系などで見られる現象や基礎的な特性を理解するための研究を行っている。
トポロジカル半金属は、バルクに3次元的線形分散を持つ物質である。これは波数空間で考えるとトポロジカル絶縁体と自明な絶縁体を積層したような構造を持っており、やはりトポロジカル物質の一種として理解することが可能である。バルクに表れるギャップレス点が4重縮退したものはディラック半金属、対称性が破れて2重縮退のものはワイル半金属と呼ばれる。
薄膜化するとトポロジカル絶縁体と同じく表面・界面の性質が支配的になり、積層することでバルクの線形分散に起因する特殊な性質も表れる。そのためデバイス応用へのより豊かな展開が期待され、物質探索が進められている。我々のグループでは、トポロジカル半金属が示す普遍的な基礎物性を解明するための研究から、カゴメ層状物質Co3Sn2S2など具体的な物質を想定したデバイス動作原理の提案まで幅広い研究に取り組んでいる。
分数量子ホール絶縁体は、強磁場下で電子が2次元系に閉じ込められたときに現れるトポロジカルな量子状態である。この状態の準粒子は分数電荷を持ち、フェルミ統計やボース統計とは異なる奇妙な統計性(エニオン統計)に従う。ある分数量子ホール絶縁体では、こうした準粒子の中にマヨラナ粒子などの非可換エニオンが含まれ、トポロジカル量子計算への応用が期待されている。さらに特定の条件下では、フィボナッチエニオンという非可換エニオンが現れ、これは量子計算の基本操作を全て安定して実現できる性質を持つ。我々のグループでは、トポロジカル量子計算を念頭に分数量子ホール絶縁体の基礎的な性質を研究している。