#382 引き金としての言語
稲永ほか(2017)の論文では、英文の大学案内において、各大学が留学生獲得に向けどのような表象(表現)を行っているのかが、批判的談話分析の枠組みを援用して分析されています。
この論文の中で整理されていたフェアクラフ(2012)による「前提」の概念についての解説が非常にわかりやすく、参考になりました。かつて読んだことがあるはずなのですが、すっかり記憶から抜け落ちてしまっていたため、自分自身の備忘録としてここに書き留めておきたいと思います。
フェアクラフの説く「前提」には、大きく分けて以下の3つのタイプが存在します。
存在の前提:すでに存在しているものに関する前提
命題の前提:事実であること、あるいは事実でありうること・あろうことに関する前提
価値の前提:望ましいものや優良なものに関する前提
これらの前提は、テクスト内の特定の言語的特性が「引き金(trigger)」となって表示されるという特徴があります。
たとえば「存在の前提」は、定冠詞や指示詞、限定的な指示マーカーなどが引き金となって示されます。
「命題の前提」では、"I realized that global warming is advancing at an unusual rate." という文において、"realized"(気づいた)という動詞が引き金となり、「地球温暖化が異常なペースで進んでいる」という事実そのものが前提として提示されます。
また「価値の前提」の例としては、"This program will help improve your English language skills." といった文があげられます。ここでは "help" という動詞が引き金となり、「英語スキルを伸ばすことは良いことである」という価値観があらかじめ共有すべき前提とされています。
振り返ってみると、私がこれまで目にしてきた企業の経営理念なども、まさに「誰にとっても良いものであるはずだ」という、こうした「価値の前提」を巧みに利用して作られているものが多いと感じます。以前こちらで紹介した旅行広告などもそのひとつだと思います。
もう一度フェアクラフの著作をじっくり読み直さなければいけないなと感じているところです(これを書き終えて、この本を家に持ち帰っていることに気付きました。明日の課題といたします。)。
参考
稲永知世, 越智有紀, 冨成絢子, & 仲西恭子. (2017). グローバル化社会とメディア英語のディスコース分析 英文大学案内の比較分析. メディア・英語・コミュニケーション, 7(1), 105–132.
フェアクラフ, N. (2012). 『ディスコースを分析する』(日本メディア英語学会メディア英語談話分析研究分科会訳). くろしお出版. (原著『Analysing Discourse: Textual Analysis for Social Research』2003年刊)
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