#374 商店での雑談
昨日聞いた「いらっしゃいませ」という言葉からインスピレーションを受け、お店でのやりとりに関する論文を読んでみたいと思い調べてみました。
今回読んだ酒井(2022)の論文では、広島県の瀬戸内海島しょ部にある個人商店の会話データを分析し、地方や小規模地域の近隣型商店における店員と常連客のコミュニケーション、特に「出会いのあいさつ直後に生起する雑談」に着目しています。
この論文の中で雑談は、単なる目的達成のためのものではなく、交感的なつながりを生む言語使用の一つとして位置づけられています。そして筒井(2012)の定義を引用し、「特定の達成すべき課題がない状況において、あるいは課題があってもそれを行っていない時期において、相手とともに時を過ごす活動として行う会話」と説明されています。
分析結果の中で特に面白いと感じたのは、店員と客の間で「持続的な関係の確認」が行われている点です。前回の接触や互いの生活サイクル、共通の知人の話題などが自然と交わされており、例えば店員が客に「おばちゃん昨日ありがと。おでんがおいしかった」と話しかけるようなやりとりが見られます。
また、通常の接客ではあまり見られない「冗談としての対立」が存在するのも興味深い特徴です。店員が「いらっしゃい」と声をかけたのに対し、客が「いぬるわい(帰るぞ)」と返し、それを店員が笑って受け流すようなやりとりが紹介されています。これに関連して、「客が上、店員が下」という規範的な上下関係にとらわれない対等な関係性もうかがえ、店員が「よう知っとるじゃん、おじさん女心を」と客を評価するような場面も見られます。
こうした雑談が生まれる背景には、店の出入り口のすぐ横にレジがあるという店舗構造も大きく影響しているそうです。いずれにせよ、このような近隣型商店が地域社会のコミュニケーションにおいて非常に重要な役割を果たしていることが分かります。
私の祖母と叔父も現在おもちゃ屋さんを続けているのですが、やはり入り口付近にレジがあり、幼い頃から知っている常連のお客さんも多いため、いつも楽しそうに雑談をしています。時にはお客さんにちょっとした店番を頼むことすらあり、そうした温かい場所の魅力を改めて実感させられました。
参考
酒井晴香. (2022). 近隣型商店における店員と常連客の言語使用―出会いのあいさつの後に生じる雑談に着目して―. 社会言語科学, 25(1), 166-181.
筒井佐代. (2012). 雑談の構造分析.くろしお出版.
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