#370 ことばのフェードアウト
お盆休みの不在中にたまっていた新聞を、いま一気に読んでおります。その中でも8月13日の紙面には、自分の中でしっかりと記録しておきたい記事が2つありました。少し長くなりそうなので、数日に分けて共有します。
一つ目は、言語学者・中村桃子先生の「新しいことば『当たり前』を変える」という記事です。先日取り上げた「義実家」に続き、今回は「ワンオペ育児」や「異性愛」といった言葉が例として挙げられていました。
「ワンオペ」はもともと飲食店などで人手が不足する時間帯を一人で切り盛りすることを指していましたが、そこから派生して、家事や育児を一人で担う状態を「ワンオペ育児」と呼ぶようになりました。朝日新聞の記事データベースによると、初出は2016年とのこと。
中村先生によれば、ご自身の時代はワンオペ育児の状態が当たり前であり、そうした日常化している事柄には名前すらなかったと言います。辞書でも、かつては「同性愛」の掲載はあっても「異性愛」は載っていなかったそうで、後者が掲載されるようになったのは「異性愛だけが当たり前ではない」と社会に認識され始めた表れだと説明されていました。社会を変える新しい言葉が広がるほど、性別役割が固定化されていた時代の「当たり前」が書き換わっていくのだと実感します。
また、この記事で興味深かったのは、言葉と向き合う校閲の現場についての言及です。「君はいい奥さんになるよ」という表現を例に、配偶者を「奥さん」と呼ぶ妥当性や、それを褒め言葉と捉える感覚について問い直していました。中村先生は、差別意識の組み込まれた使い古された言葉を使わずにフェードアウトさせていくことも、言葉から社会の不平等を治す戦略の一つだと述べています。具体的には「〇〇夫人」(夫ありきの表現)や「未婚」(結婚を前提とした表現)なども見直しの対象として挙げられていました。
この記事を受けた記者の方も、実際の校閲で働く女性が経験したエピソードを紹介していました。専業主婦の母から「いま仕事を辞めたら、子育てが済んでから『私の人生何だったんだ』と思うわよ」と言われ気になったという話です。そのまま載せると「働く女性は専業主婦より偉い」というメッセージに見えかねませんが、母には「働きたくても働けなかった」背景があったと補足することで、対立構造を回避できたそうです。
言葉の背景にある意識にまで目を配ることの大切さを学び、私自身も日々発信する際にはできる限り注意を払いたいと感じました。
参考
https://www.asahi.com/articles/DA3S16525245.html
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