#363 突き当たりにないトイレ
昨日、百貨店に勤める友人と話していたときに、ふと気になって「従業員同士でトイレに行くことを何と言うのか」を尋ねてみました。
返ってきた答えは「突き当たり」。「突き当たり行ってきます!」と使うそうなのですが、聞いたことがなかったので非常に面白く感じました。そういえば以前、大学の授業で学生たちに尋ねた際も、「10番行ってきます」や「R行ってきます」といった様々な表現が上がっていたのを思い出します。
興味深かったのは友人の反応で、尋ねられるまで自分でも特に意識したことがなかったそうです。実際にトイレが通路の突き当たりにあるわけでもなく、研修マニュアルに載っていた記憶もないとのこと。おそらく、先輩社員から自然と受け継がれていく職場独自の言葉なのだろうなと感じました。さらに面白かったのは、別の百貨店ではまた違う呼び名が使われていることを友人が知っており、「他社とは違う」という差別化の意識はしっかり持っていた点です。
「排泄」に関わる事柄だからこそ、直接的な表現を避ける「婉曲表現」や「隠語」が使われるわけですが、同じ職業やコミュニティ内でのみ通じる「集団語」としての側面もあり、とても興味深く感じます。
気になって他の百貨店についても調べてみたところ、中西太郎先生による国立国語研究所の記事に行き着きました。記事の冒頭によると、百貨店はスーパーやコンビニなどとは異なり、高級品を扱い顧客の満足感を重視する業態であるため、お客様に不快感を与えないよう特に言葉遣いに気を配っているのだそうです。
また、記事では隠語の定義として木村(2009)の「2人以上が何かを隠すための意図で、人工的に作った言葉のこと」という説明が挙げられていました。さらに、トイレの呼び方に関する米川(2009)の調査結果も紹介されており、三越は「遠方」、松坂屋は「新閣」または「中村」(店舗による)、松屋は「二の字」、高島屋は「仁久」、大丸やそごうは「さんさん」と呼ぶそうです。今度百貨店に行った際には、従業員の方々の会話にこっそり耳を澄ませてみたくなりました。
こうした隠語や言い換えの現象は、身近なところにもあふれています。例えば「生理」の呼び方もそのひとつです。私自身の中高生時代には、少女漫画雑誌の『ちゃお』を使って「今日ちゃおだ~」なんて会話をしていました。学生に聞いてみると、生理日管理アプリの『ルナルナ』から「ルナちゃん」と呼んでいたという声もあり、時代やコミュニティごとに独自の表現が生まれる面白さを改めて実感しました。
参考
中西太郎(2018)「百貨店で使われる秘密のことば」『ことば研究館』国立国語研究所(https://kotoba.ninjal.ac.jp/qa/yokuaru/qa-40/)
木村義之(2009)「隠語の世界」中山緑朗ほか編『みんなの日本語事典―言葉の疑問・不思議に答える』明治書院、pp.360-361.
米川明彦(2009)『集団語の研究 上巻』東京堂出版
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[隠語] [婉曲表現] [集団語]