#362 勝ったと勝ちきった
朝日新聞の「夕刊 ことば係」の記事で、「勝ちきる」という言葉が取り上げられていました。
この記事は、サッカーの試合で負けた側のチームの熱狂的なサポーターが「内容は勝っていた」と言ったエピソードから始まります。今でこそスポーツでよく使われるようになった「勝ちきる」という言葉ですが、もともとは将棋や囲碁の世界で使われていた言葉で、「優勢な状態からリードを保って勝つ」という意味なのだそうです。
囲碁棋士の例を挙げながら「勝つ」との違いについても触れられており、「わずかな隙も見逃さない気合」や「勝利に最短に突き進んでいく感じ」などが説明されています。記事では、常に優位に立っているイメージの「勝ちきる」に対して、「勝つ」は上述の例のように負けたときにも使える言葉になったのかもしれない、とも言われていました。
では、「〜きる」という形式はどのように論じられているのか、論文を探してみてパッと見つかったのが玉城(2010)でした。この論文では、アスペクト的な意味である「終了」を表す複合動詞「しおわる」「しおえる」「しやむ」「しあげる」「しあがる」「しきる」「しつくす」「しはてる」の8形式が取り上げられています。これらは「おわり」を表現する点では共通していますが、前につく動作の終了限界達成を表現するもの(「しおわる」「しおえる」「しやむ」)と、そのあり方を表現するもの(「しあげる」「しあがる」「しきる」「しつくす」「しはてる」)の2つの種類に分けられることが明らかにされています。
このうち「あり方」を表現する方に分類された「しあげる」については、山崎(1995)を例に、そのアスペクト的な意味が「(完成品をともなう)作業活動の完了および行為の完了(+同時に話者の満足感・達成感といったムード的意味)」と説明されています。
そして「しきる」について玉城は、〈終点への到達〉(例. 交差点を渡り切った)、〈動作の完遂〉(例. 書き切るためには、調べ切っていない)、〈それ以上進まない変化〉(例. 夜が明けきると)、〈程度の強調〉(例. 弱りきった、疲労しきっていた)という4つのあり方で終了限界と関わっている、と指摘しています。
参考
https://www.asahi.com/articles/DA3S16520112.html
玉城あゆみ. (2010). 「終了」を表す複合的な動詞について. 留学生教育:琉球大学留学生センター紀要, 7, 1–15.
山崎恵. (1995). 終了の局面を取り立てる局面動詞について. 窪田富男教授退官記念事業会(編), 日本語の研究と教育:窪田富男教授退官記念論文集 (pp. 77–91). 専門教育出版.
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