#359 エンレジスタメントを考える前に
前回の記事で扱った「コンビニ敬語」と「エンレジスタメント」という概念が「いのほた言語学チャンネル」でともに論じられたのを受けて、エンレジスタメントについての論文を探していたところ、Johnstone(2016)を見つけました。
著者のBarbara Johnstone先生は、コロナ禍前の2019年にUC Davisで開催されたアメリカ言語学会の夏期講座で、実際に講義を受けた先生だったため、当時のことをとても懐かしく思い出しました。担当されていたのはDiscourse Analysis(談話分析)の授業だったのですが、課題で短い談話を書き起こす際、全く聞き取れずに苦労した記憶があります。書き起こしの大変さを実感するとともに、談話とアイデンティティの結びつきについて考えさせられた授業でした(当時は今よりも知識がないまま臨んでいたため、色々とチンプンカンプンだったのですが……)。
話を戻しまして、今回はこの論文の中で印象に残った箇所や、エンレジスタメント周辺の話題について書き留めておきたいと思います(エンレジスタメントそのものの詳しい内容については、次回に回そうと思います)。
エンレジスタメントの具体的な説明に入る前に、社会言語学の目的とエンレジスタメントとの繋がりについて触れた概要の記述が非常に印象的でした。
"A key question for sociolinguistics is how communicative signs and sets of signs come to index styles, identities, activities, genres, dialects, and other social and communicative practices. The concept of "enregisterment," borrowed from linguistic anthropologists in the Piercian semiotic tradition, provides a useful heuristic for thinking about this process.(社会言語学における主要な問いは、コミュニケーション上の記号やその集合が、いかにしてスタイル、アイデンティティ、活動、ジャンル、方言、その他の社会的・コミュニケーション的実践を指標化するようになるか、という点にあります。パース派の記号論的伝統を汲む言語人類学者から借用された「エンレジスタメント」という概念は、このプロセスを考える上で有用な視点を提供してくれます。) "
また、「特定の単語や文法パターン、イントネーションのパターンが、どのようにして特定のアイデンティティや活動を指し示すようになるのか?」という問いに答える一つの方法として言語人類学(linguistic anthropology)が挙げられています。
その発展に貢献した人物として、ローマン・ヤコブソン(Roman Jakobson)、チャールズ・S・パース(Charles S. Peirce)、そして人類学者のマイケル・シルバースタイン(Michael Silverstein; 1993, 2003)やアシフ・アガ(Asif Agha; 2003, 2007)らが挙げられています。彼らは、「社会的な意味」と言語的選択がいかに結びつくようになるのか、そして言語的選択の集まりがいかにして「言語変種(varieties)」として理解されるようになるのかを考察するための枠組みを発展させてきました。その中で特に重要な役割を果たしているのが「指標性(indexicality)」という概念である、と説明されています。
参考
Johnstone, B. (2016). Enregisterment: How linguistic items become linked with ways of speaking. Language and Linguistics Compass, 10(11), 632-643.
Silverstein, M. (2003). Indexical order and the dialectics of sociolinguistic life. Language and communication, (23), 193–229.
Agha, A. (2003). The social life of a cultural value. Language and communication, 23, 231–273
Agha, A. (2007). Language and social relations. New York: Cambridge University Press.
keywords
[指標性] [エンレジスタメント]
最終日にはサインをいただきました。
とってもお優しい先生でした。