#358 対等にしない「ニナリマス」
以前とりあげた「ファミコン敬語」について、色々と調べてみました。
本多(2006)では、「こちら領収書になります」のような「になります」という表現に注目しています。これは、本来であれば主語の状態変化を表す動詞「なる」が用いられているにもかかわらず、実際には主語が変化していないため、不自然に感じられると指摘されています。こうした表現は、ある種の丁寧さを表すものとしてファミレスやコンビニなどで若い店員がよく用いることから、「ファミコン敬語」と呼ばれています。
しかし、不自然であるにもかかわらず非常に広い範囲で用いられていることから、論文では「になります」がどのような表現効果を持ち、どのような人がどんな場合に使っているのかなどが詳しく考察されています。
まず表現効果についてですが、「こちらカレーライスです・になります・ございます」の3つを比較して説明されています。「です」は店員と客が同じ形式で話す対等の立場の表現であり、「ございます」はファミレスやコンビニで使うには少し堅苦しい印象を与えます。それに対して「になります」は、客から店員に向けて使うことはない表現であり、店員と客の間で対等な関係を成立させないための表現であるといえます。
次に「だれが使うのか」という点については、ファミレスやコンビニにとどまらず、より広い場面で見られます。例えば、領収書などの<授与>だけでなく、「資料の〇〇ページになります」といった<提示>や、「確定申告会場は長野県自治会館になります」といった場面でも使われており、若者に限らず幅広い層で用いられています。
では「どのような場合に使われるのか」というと、「です」と「になります」の交換不可能性から説明されています。店員から客に「カレーライスになります」と言うことはできても、そのカレーライスを受け取った客が別の客へ渡す場合、「です」は使えても「になります」を使うと不自然になります。この違いについて本多(2006)では、「自分が職務上管理責任を持つものを相手に授与、または提示するとき」に用いられると説明されています。
最後に、これがどのような仕組みで生まれたのかという点では、「話し手および聞き手の認識世界における変化」を示すという視点から指摘がなされています。例えば「お釣りは100円になります」という場面では、店員はお釣りを計算し、管理して渡す責任を負っています。しっかり計算した結果として「そうなった」というプロセスを店員が客に示す表現として、「〇〇円になります」という言い方が固定化していったのではないかと考えられています。
参考
本多啓. (2006). ニナリマス敬語について. 駿河台大学論叢, (31), 77-91.
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