#354 流行的方言の背景
前回の井上先生の論文の中から、土手康瑛氏の節では「流行的方言」がコミュニケーションの資源となっている点が取り上げられています。
ここで取り上げられている「流行的方言」とは、女子高校生をはじめとする若者の間で、電子メールなどの文字によるコミュニケーションの際に、自身の出身地とは異なる(例えば東京生まれであっても)地方の方言をあえて使用する現象を指します。具体例として、東京生まれの女子高校生が「なまら(北海道弁)〜やないか(大阪弁)」といった表現を使用し、それが流行語大賞に選ばれるような事例が挙げられています。
土手氏は流行的方言の特徴として、以下の3点をまとめています。
方言の生まれた土地にゆかりのない人物が使用していること
異なる地域の方言が複合的に用いられていること
方言は本来、地方の人々にとって誇りである一方で都市志向などから使用が避けられる傾向にあったが、この流行をきっかけに突然注目を浴びたこと
流行的方言が生まれる背景には特定の地域との関係性は薄く、アンケート調査によると「かわいらしさ」や「ユーモア」、また「表現に柔らかみを持たせる」といった使用理由が多く見られました。
このような「地域複合的」かつ「地方出身ではない若者に用いられる」という特徴は、一種の隠語的性質によるものとされています。異なる地域の方言を独自に組み合わせて用いることで、同じコミュニティ内にのみ通じる言語を作り上げ、仲間の連帯感を高める機能を果たしていると考えられます。
隠語的性格を持つ言語資源としてなぜ方言が選ばれたのかについては、「柔らかい表現」という特徴が重要な鍵となります。「音」や「文字」の柔らかさに加え、会話だけでなく電子メールでも使用されることから、視覚的なメッセージ性もまた重要なコミュニケーション資源となっていることが伺えます。
そして、こうした現象の発生と流布を後押しした要因としてネットワーク社会の発展が挙げられます。流行的方言は、従来の方言とは異なり、「若者の新たな隠語を創作したいという欲求」と「ネットワーク社会化」が結びつくことによって生まれた現代的な言語現象であると考えられています。
参考
土手康瑛. (2006). コミュニケーションの資源としての「流行的方言」. 井上逸兵・他, コミュニケーションの生態系: 現代日本の若年層の言語使用を中心として. 『慶應義塾大学日吉紀要. 言語・文化・コミュニケーション』, (36), 2-5.
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