#351 方言周圏論について
石黒(2013)を読み進めていたところ、方言の伝播する方向性について、民俗学者の柳田國男(1930)が唱えた「方言周圏論」が取り上げられていました。これは、かたつむりを指す言葉が近畿地方を中心として、「デデムシ」→「マイマイ」→「カタツムリ」→「ツブリ」→「ナメクジ」というように同心円状に分布していることを発見したものです。方言周圏論では、このように都で生まれた新しい方言が、各地へ放射状に広がっていくと考えられています。
しかし、もちろんこの法則には例外もあります。たとえば「~じゃん」は東海地方の方言が静岡や山梨から東京へ流入したものですし、「うざったい」は東京の多摩地区の方言が広まったものです。また、「ご注文は以上でよろしかったでしょうか」のように「た」を入れる形式は、北海道を拠点に全国展開した居酒屋チェーンのマニュアルに由来すると言われています。これらは都から地方へ向かうのではなく、一度東京の中心に向かって言葉が流れた例と言えます。
この方言周圏論の背景について、東條(1950)の論考を読んだのですが、そこでは以下のように述べられていました。
「文化の中心知にはよく語の改新が起こる。いま、ある事物を表す名称に新語が発生したとすると、やがて、それまでに使われていた旧名称は中心地から駆逐され、その外側地帯に押し出される場合が少なくない。かやうな改新が中央で数回行はれると、池に小石を投げたときに起こる波紋のやうに、中心地の新語を囲んで、いくつかの同心円的な前代語の層ができる。この場合、より古い発生のものが、中心よりより遠い距離に広がるわけである。」
こちらの方が、その方向性を考える上でわかりやすいように感じました。要するに「方言周圏論」で言いたかったのは、文化の中心において改良が起こり、その次に生まれる単語なり言い方なりが遠い村里には波及せず、久しく元のままである場合があり得るということです。
なお、東條(1950)はあくまで方言周圏論を方言研究のひとつの立場であるとしており、「方言区画論」についても論じています。それについても、また今度まとめておきたいと思います。
参考
石黒圭(2013)『日本語は「空気」が決める 社会言語学入門』光文社新書
東條操(1950)「方言周圏論と方言区画論」『国語学』第4号、1-12頁
柳田國男(1930)『蝸牛考』刀江書院
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