#344 よろしくです!
昨日、名探偵コナンのアニメを見ていた時のことです。作中で安室透がカフェ店員の同僚である梓さんにおつかいを頼むシーンがあり、そこで彼が「よろしくです」と言ったことに少し違和感を覚えました。
この「よろしくです」という表現について色々と調べてみたところ、鈴木(2012)の論文に出会いました。論文の中ではこれを「感動詞相当句+です」文と呼び、「よろしくです」のほかにも「ありがとうです/でした」「ごめんなさいです」などの例がブログから挙げられています。
論文によると、ブログの書き手には「話題に取り上げている事物を宣伝したい」という意図があったとしても、読者が必ずしもそれに興味を持って賛同するとは限りません。そのため、「よろしくお願いします」という直接的な依頼表現をあえて避けることで、読み手側の拒否や反発、困惑といった感情をあらかじめ回避する働きをしているのではないか、と指摘されています。
また、「ありがとうです」「ごめんなさいです」については、肯定的断定の発話態度を伝える「です」を用いることで、感謝や謝罪の気持ちが「あくまで話し手側の捉え方」として表明される形になります。ここでも、感謝や謝罪の対象が不特定多数の読者と必ずしも一致しないという背景があり、結果として「読み手に違和感などの心的負担が生じることを避ける方策がとられているのではないか」と説明されていました。
一方で、言いさし文「〜なきゃ」の後に「ダ」が続く形(例:宿題やらなきゃだ)を観察している國澤(2022)の論文でも、新屋(2015)を参考にする形で「よろしくです」が新しいデス文として取り上げられています。そこでは、「デス」が名詞述語文(例:雨だ)や形容詞述語文(例:静かだ)以外で用いられるケース(例:練習をするです)を対象に、これらの文には「適度な丁寧さ」という性質があると述べられています。さらに、こうした話し言葉の要素を含む文はブログのような場にふさわしいため、広く用いられるようになったのではないか、という見解が示されていました。新屋の知見を参考に、言いさし文(例:調べてからでないとです!、行かねばーです)や挨拶言葉、感動詞などに付加される「デス」に共通する特徴として説明されています。
アニメに出てきた安室さんの「よろしくです」は、本来ブログなどで見られる表現が話し言葉としてリアルタイムに使われていたため、私は少し違和感を持ったのかもしれません。しかし、通常の「お願いします」ほど堅苦しくなく、「よろしく」という親しみやすさがありながらも、相手に丸投げしすぎない敬意が「です」によって添えられており、どこかニュアンスが中和されているような印象を受けました。
今回は「よろしくです」を中心にお話ししましたが、國澤(2022)の論文で扱われている言いさし文の話も非常に興味深かったので、こちらはまた明日ご紹介できればと思います。
参考
國澤里美. (2022). 言いさし文 「V なきゃ」 に後接する 「ダ」 の機能. 群馬県立女子大学紀要, 43, 101-111.
新屋映子(2015)「新しいデス文―その実態と機能―」『日本語文法』15(2), pp.65─81
鈴木智美. (2012). ニュース報道およびブログ等に見られる 「~ です」 文の意味・機能―「~ を徹底取材です」「~ に期待です」「~ をよろしくです」―, 東京外国語大学論集, 84, 341-357.
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