#339 モチモチもいろいろ
今朝の朝日新聞の「リレーおぴにおん」に掲載されていた、絵本作家・イラストレーターのきのとりこさんの寄稿「『モチモチ』英語で味わうなら」を楽しく拝読しました。
この記事では、「おいしさ」を外国語で表現することの難しさが取り上げられていました。日本語には、短い独特な言葉でなんとなくニュアンスが伝わってしまう、豊かなオノマトペ(擬音語・擬態語)が存在します。たとえば、チョコレートやドーナツの食感を表す「モチモチ」や、その派生形(「もっちゅりん」などもそうでしょうか)が挙げられますが、一口に「モチモチ」と言っても、お餅より粘り気の少ないものから「雪見だいふく」のような柔らかさまで、そのニュアンスは様々です。ほかにも、クロワッサンや天ぷら、リンゴの食感を伝える「サクッ」や、「かりかり」「しゃきしゃき」といった表現があります。これらを英語で一括りに「クリスピー(crispy)」と訳してしまうと、本来のニュアンスが十分に伝わらないというもどかしさを感じることが多いものです。きのさんは、特にこうした「食」に関する表現に注目し、絵本『おなかぺこぺこオノマトペ I'm PEKO-PEKO Hungry!』を執筆されたそうです。
このお話を読みながら、ちょうど先週、大学1年生の授業でオノマトペを扱ったことを思い出しました。授業では田守(2010)の論考を紹介したのですが、そこでは歩き方の表現を例に、日本語は様子を表すオノマトペが豊富である一方、英語には歩き方そのものを特定した特殊な動詞(loiter, trotなど)が存在することが指摘されています。
さらに授業では、日本語のオノマトペが持つ体系性についても触れました。たとえば、2モーラの語基(基本形)を持つオノマトペにおいて、「ぽきっ」「ぽきり」「ぽきん」「ぽきぽき」を比較すると、促音の「っ」は急な終わり方を、接尾辞の「り」はゆったりとした感じを、撥音の「ん」は共鳴を、そして反復形は動作の繰り返しや連続を表します。
これらを英語で表そうとすると、たとえば「ぴかっ」と1回限りの光は「flash」、「ぴかぴか」と連続する光は「glitter」や「sparkle」といったように、全く別の動詞で示されることになります。先ほどの促音や撥音によるニュアンスの変化は、まさに音そのものが特定のイメージを喚起する「音象徴(サウンド・シンボリズム)」とも深く関わっていると言えます。
参考
田守育啓 (2010)「「ぴかっと光る」と「ぴかぴか光る」は英語でどう表されるか?」,『英語教育』9. 月号,12-13.
https://www.asahi.com/articles/DA3S16503930.html