#337 企業コミュニケーションにおける文脈
高広(2021)は、企業のコミュニケーション活動において、メッセージの送り手と受け手の間のコンテクストの違いから「齟齬が起きる(時に炎上する)」と指摘し、コンテクストの重要性について語用論や関連性理論などの言語学的視点を踏まえて考えています。
まず、送信者と受信者は、それぞれが所属している社会・文化や日常生活などを背景にメッセージの意味を解釈しています。そのため、発話者の意図について聞き手は、発話された文章だけでなく、その場面や前後の文脈から「会話的含意(conversational implicature)」を汲み取る必要があります。また関連性理論の考え方として、送り手の意図する行為と受け手の推論の行為のギャップを埋めるべく、受け手は既存の知識を動員し、送り手のメッセージを関連性のあるものとして最大化しようと推論を行います。その際、複雑なルートを辿るよりも「最小の労力で推論という行為が行われる」という特徴も紹介されています。
これを受けて、コミュニケーションの実務においては、送り手がメッセージをどのように適切に伝えるかという視点だけでなく、受け手側の「認知環境の理解」や、送られた情報がどのように解釈されるかの想定が必要です。人々の認識をまったく新しいものに置き換えるよりは、既存の認識を関連性の視点をもって施策に活かす方が、効率よくコミュニケーションを行うことができるのではないかと考察されています。
このようなコンテクストは、企業活動においても生活者に共感してもらうための「社会的な文脈」や、人々の暗黙知としての「空気」という言葉などで、その理解や構築が目指されていると取り上げられています。
さらに、モノを中心とした「グッズ・ドミナント・ロジック」と対比する形で「サービス・ドミナント・ロジック」についても触れられています。これは、「モノ自体には価値は存在せず、モノを手にした人がそれを使用したときに価値が創出されると考える」という視点です。このロジックにおいては、コミュニケーションを送り手と受け手だけの関係にとどめず、企業や株主、消費者などその企業に関わる「アクター」間、つまり二者を取り巻く他者からも影響を受けている行為として考えるべきだと述べられています。
最終的には、「どのようなコミュニケーションであったとしても、その参加者それぞれのコンテクスト、共有されるコンテクスト、及びそれぞれの参加者と結びつく他者とのコンテクストなど多様・多層なコンテクストの結びつきによって行われているのであり、コミュニケーションをたった二者間の問題としてとらえるべきではない」という、視野を拡大することの意義が強調されています。
参考
高広伯彦. (2021). コンテクストを重視した企業コミュニケーション活動への視点 語用論・関連性理論とサービス・ドミナント・ロジックを手がかりに. 広報研究, 25, 87-102.
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[関連性理論] [語用論]