#333 方言とアイデンティティ
『新英語教育』に掲載されている神崎高明先生の「同じ地域の英語話者はみんな同じ英語を話しているか?」という論考を読みました。データ自体はその後更新されている部分もあるかと思いますが、英語に限らず面白い指摘がいくつかありましたので、書き留めておきたいと思います。
まず、井上(1980)が全国7大学の学生550人を対象に行った調査が紹介されています。それによると、「東京弁や北海道地方の方言は知的なイメージが強い反面、東北、北陸、九州地方の方言は知的なイメージが弱い」という傾向が見られたそうです。さらに、「京都、四国、近畿地方の方言は情緒的(情的)なイメージが強い一方で、東京弁や大阪弁の情緒的なイメージが弱いのは、これら2つの都市が持つ本質的な冷たさが言葉のイメージに反映されているのではないか」と分析されています。
この「都会の冷たさと言葉のイメージ」という指摘に対し、石黒先生の著書では異なる側面が示されています。そこでは、大阪弁を使うことで「心情的な側面を強めることができる」とされています。
同書では「方言コスプレ(田中 2011)」の例として、次のような会話シーンが挙げられています。
「嘉門達夫の替え歌、一度もきいたことないの?『鼻から牛乳』も?『かつお風味のふんどし』も?一度聞いてみなよ。ほんま、めっちゃおもろいで」
このようにあえて大阪弁を交えることで、相手との心理的な距離を縮め、親しみやすさを生み出すスタイル(心理的接近)として紹介されており、状況によって言葉の機能が異なることが分かります。
また、カナダ英語のユニークな特徴として、文末に「eh(発音は [ei])」をつける用法があります。
A: Phil's a good guy, eh?(フィルっていい奴だよね?)
B: The best.(最高さ)
A: The best, yes.(本当にね)
実際のやり取りはYouTubeなどの動画でも確認できます。動画の解説によると、これは「付加疑問文(~だよね?と同意を求める表現)のような感覚」で使われるとのことです。なお、その動画の配信者自身はカナダ出身ではないため、「自分が eh を使うと『カナダ人ぶっている』ように聞こえてしまうから使わない」と説明しており、この表現がカナダらしさを象徴するアイデンティティを持っていることがうかがえます。
参考
神崎高明「同じ地域の英語話者はみんな同じ英語を話しているか?」『新英語教育』
井上史雄(1980)「方言のイメージ」『言語生活』341, 48-56
石黒圭(2013)『日本語は「空気」が決める 社会言語学入門』光文社新書
田中ゆかり(2011)『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』岩波書店
YouTube動画:https://youtube.com/shorts/1LzUlu4fW5k?si=vi4Z6qds74NN3dVk