#327 言語の起源を支える3つの能力
岡ノ谷一夫先生が執筆に加わったサイエンス誌の論文をもとにした記事、「人間だけに語らう力 偶然の産物」を読みました。
そこでは、人間にだけ言語が生まれたのはたった一つの進化によるものではなく、生物が持ちうる3つの能力が人間にだけたまたまバランスよく重なったからではないか、という興味深い説が紹介されています。その3つの能力とは、「発生学習」「規則創発」「社会協調」です。
まず「発生学習」とは、新しい音を真似して学び、それを再現する能力のことです。親や仲間の声、歌などを真似することで、求愛だけでなく、自分が何者であるかや、優れた個体であるかをアピールするコミュニケーションとして使われます。この能力は、人間に遺伝的に近い霊長類にはほとんど見られず、むしろ鳥類に多く見られるのが特徴です。ただし、鳥類は音の模写はできても、人間のように文章を作ることはできません。
次に「規則創発」です。これは、最初は雑多だった音と意味の結びつきが、人々の間で使われ伝わっていくうちに、自然と扱いやすい形に整理されて規則が立ち上がる現象を指します。学習と伝達を繰り返す中で、人間の認知能力の範囲で扱いやすい形へと整理され、規則性が生まれたと考えられています。また、言葉が「分離」されること、たとえば「転がり落ちる」という表現が「転がる」と「落ちる」に分かれることで、他の言葉との様々な組み合わせが可能になり、表現が多彩になっていきました。
最後が「社会協調」です。群れを作り、協力して暮らす能力のことで、この協調性が高まると「発生学習」が柔軟になり、「規則創発」も進んでいきます。つまり、両者を結びつけて後押しする基盤として機能するのです。他の動物にも社会性は見られますが、人間ほど大きな集団ではなく、ここまで深く協調していません。また、人間は「自分が持っている知識を他人に伝えたい」という傾向が非常に強いことも指摘されており、その場にいない人のエピソードまで具体的な情報交換を行ってきました。
そこから、いわゆる「ゴシップ」の機能についても言及されています。ゴシップには社会を安定に保つ役割があり、他人の評判が共有されることで、身勝手な振る舞いが抑えられ、人々が協調的に行動する土台ができたのではないかと言われています。
これは先週の「上」の記事からだったので、明日は「下」から内容をまとめたいと思います。
参考
https://www.asahi.com/articles/DA3S16490334.html