#326 デジタル社会のフェーズ
朝日新聞の「Globe+」でパリのベストセラーが紹介されていたのですが、その中に『Le temps de l'obsolescence humaine(人間が廃れる時代)』という本がありました。「快感あおるAIへの警鐘」というタイトルで取り上げられており、作中で語られている「デジタル社会の区分」が非常に興味深く、忘れないようにここに書き留めておこうと思います。ちなみに著者は、質の高い文化番組を制作することで知られる、独仏共同出資のテレビ局「アルテ・フランス」の社長を務めている方だそうです。
本書では、デジタル社会を以下の3つの時期に区分しています。
第1期(1989年〜): Webの展開が始まり、世界中でネットアクセスが可能になった時代
第2期(2007年〜): スマートフォンの到来により、ソーシャルメディアが急速に発達した時代
第3期(2022年〜): ChatGPTの登場を機に、AIが私たちの日常に浸透しつつある現代
第1期から第2期にかけては、初期のWebが思い描いていた「速やかな知の共有と伝達」というユートピア的な理想が、巨大企業の介入によって方向性を歪められていきました。私たちのデータと時間は吸い取られ、怒りや驚きといった感情に訴えかける情報ばかりが増幅・拡散されるようになります。そして、刺激が欲求を呼び、その欲求がさらに刺激を求めるというループが生まれてしまいました。
さらに現在の第3期において、著者は「最大の危険性」として次の2点を指摘しています。1つは、偽物と本物が微妙に入り組み、区別がつかない「本当っぽいもの」の横行が当たり前になること。もう1つは、AIが私たちの欲求に応えることでナルシシズムがあおられ、私たちがひたすら受動的になって依存し、アルゴリズムが作り出す快感のサイクルに閉じ込められていくことです。
その背後には、中立な仲介者であるはずのAIに絆を求める人間の心を利用し、人々の脳内回路を操作しやすいものへと変革することもいとわない、恐ろしいビジネスモデルが存在しているのだとも指摘されています。
この本はまだ日本語の翻訳版が出ていないようです。フランス語で頑張って読んでみようか……と、少し迷っているところです。
参考
https://globe.asahi.com/article/16683374
keywords
[メディアの違い] [メディア]