#323 役割語訳の機能
昨日の多々良先生のお話(「オンラインにおけるメディア報道の変容:メディアスポーツを事例として」)の中で紹介されていた、太田(2009)の「スポーツ放送の役割語」に関する文献を読みました。
この研究では、2008年の北京オリンピック期間中に放送された外国人選手のインタビューのうち、翻訳テロップがついているものを収集して分析しています。具体的には、文末表現の「さ」「ぜ」「よ」「ね」「の」「わ」「だろ」「かしら」「でしょ」、男性語としての「だね、だよ、んだ」、そして一人称代名詞の「おれ」「ぼく」などが含まれるテロップを「役割語訳」として扱っています。こうした役割語訳が使われたテロップは、総数166のうち83件あり、内訳は男性が106件中62件、女性が60件中21件でした。
著者は、これらの多くが形の上では男女の違いを認識できる「男性役割語」「女性役割語」でありながら、その機能としては単に話者の性別を示すだけでなく、人物像やキャラクター性と結びついた何らかの機能が付加されていると指摘しています。
文献では、そのパターンとして次の5つが挙げられていました。
①スーパースター(男性):男性性の強調が「強さ」の記号となるパターンです(例:ウサイン・ボルト選手の「オレがナンバー1だ!」)。
②"女王":単に柔らかい女らしさを表すのではなく、女性の強さを表す記号として使われます(例:エレーナ・イシンバエワ選手の「みんな 愛しているわ」)。
③ライバル対決:日本人選手のライバルに対して、「攻撃性」を強調する男性役割語が使われます。たとえば水泳競技で「レースごとに調子が上がっている オレは強いんだ 気分がいいぜ」といったテロップが見られました。
④濃いキャラクター性:選手の独特なキャラクターを際立たせるために使われます。
⑤競技者としての"弱者":スポーツ競技者として恵まれた立場にない選手に対して、「です・ます体」や「女性役割語」が使われるパターンです。「障害があっても努力をすれば夢は実現するのです」や「次回のロンドンオリンピックにも出場したいわ」といった丁寧な言葉遣いが、困難に向き合い一生懸命に努力してきた様子を視聴者に想像させます。
特に面白いと感じたのは、これらの役割語が登場する場面の多くが、競技終了直後のインタビューだったという点です。興奮が冷めやらない状態の勝者にマイクを向けた場面が圧倒的に多く、一方で記者会見などでは「です・ます体」が使われる傾向にあります。
太田は、スポーツ放送の翻訳テロップに出てくる男性役割語・女性役割語の文末表現には、提示されたいくつかのパターンのほかに、選手の「感動」「興奮」「喜び」といった「感情の高ぶり」を表す機能が多く付加されていると主張しています。
参考
太⽥眞希恵(2009)「ウサイン・ボルトの“I”、なぜ「オレ」と訳されるのか〜スポーツ放送の「役割語」〜」『放送研究と調査』59(3), 56-73, NHK放送⽂化研究所.
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