#314 ミームで広まるナラティブ
朝日新聞の朝刊(6月19日付)のオピニオン&フォーラム面に掲載されていた、「エプスタイン問題と米国 陰謀論と親和性 世代間対立も」という記事を読みました。その中で、宗教学者の柳澤田実さんが語られていた以下の言葉が印象に残っています。
「もともと米国社会は陰謀論に親和性があります。反ワクチン陰謀論は右派にも左派にも見られます。米国は巨大な国で、州ごとの独立性も強い。国をまとめるには共通のナラティブ(物語)が必要で、それが宗教であったり、陰謀論であったりする。エプスタイン問題は、その陰謀論とすごく親和性が高い」
また、さらに恐ろしくも面白いなと思ったのが、次の指摘です。
「…エプスタイン問題がネットミーム化していることです。エプスタイン氏の写真や動画をAIで加工し、無関係な有名人と組み合わせたものがネットで流通し、消費されています。生成AIという新しい技術とリンクして、ネットミーム化したことで、エプスタイン問題は米国の共通のナラティブになったともいえます。陰謀論的な『闇の勢力』の象徴として、エプスタイン氏はネット上で永遠に生き続けるのかもしれません」
この記事を通して、ナラティブがいかに共通のストーリーをつくりあげ、アイデンティティの確立や集団の結束に結びつくかということを考えさせられました。さらに、その広まり方や強化の手段としてネットミームが挙げられていて、たしかにこれぞ今時のナラティブ構築のあり方かもしれないと感じました。
ニュース記事の構成におけるナラティブについては、坪井(2017)が、ジャーナリストの視点とそれに伴う見出し、リード、主たる出来事、その背景、成り行きと結果、論評などの構造がテーマの一貫性を支えることで、物語が構築・維持されるとしています。
一方でネットミームでは、そうしたニュース記事以上に多くの参加者がこの物語の構築に関わります。そのため、どの解釈が広まり定着するか、そのスピードなども速いでしょうし、広まっていくなかで元の出来事と乖離して定着する可能性も否めません。そこに恐ろしさを覚えつつも、そうして加工された物語が自分の手元に届く可能性があるということを、しっかりと意識していきたいと思いました。
参考
井上逸兵 (編). (2017). 『朝倉日英対照言語学シリーズ 発展編1 社会言語学』. 東京: 朝倉書店.
- 第3章 坪井睦子「メディア翻訳の社会言語学」pp. 43–57.