#312 スケボーの解説
授業では、スポーツ実況の日英語対照(多々良 2017)を扱いました。そこでは先行研究の知見も交えながら、実際の例をもとに日米の言語文化の違いが説明されています。
日本語の実況では、アナウンサーが解説者に情報を求めたり、1つの内容を2人で共同構築したりします。さらに重複やあいづち、笑い、繰り返し、同時発話なども多く、これらは「共に語る言語文化」と銘打たれています。また、アナウンサーの言動には、専門家に自身の提案を否定されてもそれを受け入れてその場を進めるなど、「わきまえ」た言語行動が見られます。ここには、日本特有の上下関係や専門家を重視する文化の存在も指摘されています。
一方で英語の実況は、プレーに対してそれぞれが自由に自分の意見を述べ、同時発話や重複発話が少ない「対話する言語文化」とされています。
この内容から思い出したのが、東京オリンピックのスケートボード中継です。解説を務めた瀬尻稜選手(当時24歳)による異色の中継が話題になったことを思い出し、朝日クロスリサーチで当時の記事を探して読んでみました。
中継では、「やべえ」をはじめ、でかい手すりや階段など怖いセクションでがんがん攻めるという意味の「ゴン攻めしてて」、レールに乗るときに狙い通りぴったりはまったことを表す「ビッタビタでしたね」といった言葉が飛び交いました。こうしたフランクでスケーター独特の専門的な言葉遣いに対し、SNSでは「わかりやすい」「愛着を感じる」と大きな話題になったそうです。また、実況を担当したフジテレビのアナウンサーが技について的確に説明し、スケボーのカルチャーを理解した上で解説していたことも、良い掛け合いを生み出す要因になっていたようです。
瀬尻さんは「結局スケボーはストリートカルチャー」と語っており、別の記事でも「肩ひじ張らない普段着の語り口は、路上から始まった競技の自由さゆえだろうか」と説明されていました。
一般的には「オーディエンスのことを考えて言葉を分かりやすくする」と考えられる傾向にあると思いますが、今回は逆に「スケボー語」でありのままを伝えたからこそ、強い臨場感が伝わったのだと感じます。もちろん、それはスケートボードという競技の性質や、アナウンサーによる見事な解説の補強があってこそ成り立ったものです。従来の実況中継の枠組みから良い意味で逸脱していた点も、多くの人の関心を惹きつける魅力になったのではないかと思いを馳せながら、当時の記事を楽しく読みました。
参考
多々良直弘(2017)「報道の社会言語学」井上逸兵編『社会言語学』61-81. 朝倉書店
「天声人語」『朝日新聞』2021年7月27日朝刊、1面(朝日新聞クロスサーチにて閲覧)
「伝われ スケボーの『やべえ』魅力 テレビ解説話題 瀬尻選手」『朝日新聞』2021年7月27日夕刊、9面(朝日新聞クロスサーチにて閲覧)
keywords
[オーディエンス・デザイン] [対照分析] [繰り返し]