#300 聞き手の貢献
前回に引き続き「発話の共同構築」について…。日本語学における「発話の共同構築」には、相槌や相手の発話の繰り返しなども含めた「共話(きょうわ)」という広い概念(水谷1988、1993など)があります。また、談話分析の研究である宇佐美(2006)では、複数の話者によって完結される一つの文を「共同発話文」として扱っていることなどが、宮永(2025)の中で紹介されています。
宮永(2025)の研究では、日本語の母語話者同士、およびフランス語の母語話者同士、それぞれ8組が「旅行」について話す自由会話のデータを対象に分析を行っています。
分析ではターンテイキング(話者交代)の観点から、後続の発話がどのようなタイミングで始まっているかに注目しています。タイミングは大きく分けて、オーバーラップ(発話の重なり)が生じない場合と、生じる場合の2つに区別されます。オーバーラップが生じるのは、後続の話者が会話を引き取っても先行話者が話し続けたり、引き取りのタイミングが予備的要素の完了時点よりも早まったり遅れたりする場合です。
まず、オーバーラップしない場合は、先行話者が発話を止めたり、間に合わせたり、文末に強勢や抑揚をつけたりして、相手の発話を期待しているように見えるケースが多く見られました。一方でオーバーラップしている場合は、先行話者が自分で発話を完了させようとしているところに、後続話者の発話が重なるパターンが見られます。
これらについて分析したところ、「フランス語の発話の共同構築では、後続話者が話し始めても先行話者が発話を続けたり、後続話者が発話に重ねる形で引き取りを行ったりする傾向がある」という点に有意差が出ました。この背景には、語順が比較的固定されており、要素間の統語的な結びつきが強い言語であることも影響している可能性が指摘されています。
具体的に日本語では、「Y:なんかそれがあったから:= F:=うん.価値観変わった?」のように、「テ」「カラ」「ケド」「ノデ」といった従属節の形式のあとに、後続話者が主節を引き取る現象が多く見られます(従属節―主節)。
これに対してフランス語では、「動詞句ー補部」の組み合わせにおいて共同構築が見られます(日本語では「補部ー動詞句」という逆の順序になるものの、日本語でもこのパターンは2番目に多かったとのことです)。
さらに、フランス語にしか見られなかった特徴的なものとして「主節ー従属節(関係節)」の組み合わせが挙げられます。たとえば、「N:C'est comme le fruit là, euh:(あの果物みたいな えっと)」「L:Ah! Oui! le: qui sent comme les poubelles là(あ そうだ あのゴミみたいな臭いがする(果物)ね)」というやり取りがその一例です。ここでは、先行話者(N)の主節に対して、後続話者(L)が後ろから関係節(従属節)を付け足して文を完成させており、こうした違いは両言語の統語的な特性(語順のルール)によるものであると指摘されています。
最終的な結論として、日本語でもフランス語でも共同構築発話は頻繁に見られることが分かりました。また、後続話者が会話を引き取ることでどのような行為をしているかについては、両言語共通して「理解の証拠を提示する」「理解の候補を確認する」「助け船を出す」といった役割が見られました。ただし、フランス語特有の傾向として「からかい」や「話のオチをつける」といった行為も見られたとのことです。
いずれの行為も、聞き手として会話の進行に大きく貢献していることは間違いなく、こうした現象は今後の会話教育にも取り入れるべきものであると指摘されています。
参考
宮永愛子. (2025). 発話の共同構築に関する日仏対照分析―フランス語学習者と日本語学習者の会話教育を視野に―. 語用論研究, 27, 85-104.
水谷信子. (1988).「あいづち論」、『日本語学』7 (13)、4–11、東京:明治書院.
水谷信子. (1993).「『共話』から『対話』へ」、『日本語学』12(4)、7–13、東京:明治書院.
宇佐美まゆみ. (2006).「話し手と聞き手の相互作用としての『共同発話文』の日英比較ー『共話』、「Co-construction」現象の再検討ー」、『高見澤孟先生古希記念論文集』、103–130.
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