#286 本当に単刀直入?
先日、友人のインスタグラムのストーリーで「単刀直入に言います。…好きです」というメッセージとともに、推しのアイドルの写真が挙げられていました。正確な文言は忘れてしまったのですが、これを見たときに、ただ「好き」と言うよりも、すごくスピード感が出るなと感心してしまいました。
ストーリーはわずか10秒ほどに制限された短い時間です。ただ写真をあげて「好きです」とだけ書くほうが文字通り単刀直入なはずですが、あえて「単刀直入に言います」と言及することで、むしろアテンションゲッティングな投稿になっているなと感動すら覚えました。とにかく短い時間の中でメッセージを伝える、あるいは相手に伝わるようにするためにはとても便利な表現ですし、その意味で非常に「今時な」表現なのではないかと思いました。
そこで、この「単刀直入に」という言葉はいったい何なのだろう、と色々考えていました。これから本題や要点がすぐにくることを相手に伝えるという意味では「メタ・コミュニケーション」と言えますし、聞き手への配慮としての「前置き」表現とも捉えられます。あるいは、会話や文章の構造や流れを整える「ディスコース・マーカー(談話標識)」なのか…。
このディスコース・マーカーについては、髙村(2019)にとても分かりやすく定義がまとめられていたので参考にしてみました。そこでは、Schiffrin(1987)の著書『Discourse Markers』の内容が紹介されています。
Schiffrinは、ohなどの感動詞、well, now, thenなどの副詞、and, but, orなどの論理的接続表現、so, becauseなどの因果に関わる接続表現、y'knowやI meanなどの挿入句を談話標識としてまとめています。そして、これらを「連鎖する会話の流れの中で、会話をカッコで括る要素」であり、「話しの単位の境界に立って、そのカッコ付けした中身をどのように理解するべきかという枠組みを提供するもの」として定義づけているそうです。
さらにそれらは「コンテクスト座標」として、解釈されるべきコンテクスト(文脈・状況)を指し示すものとされています。このコンテクストには、話し手と聞き手のどちらにより深く関わるのかという「参加者座標」と、前述・後述のテクストのどちらにより関わるのかを知らせる「テクスト座標」の2つに分かれるそうです。
たとえば、先ほど挙げたy'knowやI meanは、聞き手の知識や同意に関わるものと、話し手の意図に関わるものとに分かれるため「参加者座標」にあたり、一方でthenやbecauseなどは、話の前後のつながりを示す点で「テクスト座標」と言えそうです。
そう考えてみると、「単刀直入に」という表現には、次にくる言葉(推しへの愛)をカッコ付けして提示する役割だけでなく、「前置きを省く」というテクスト座標と、「短い時間だから説明を省くね」という参加者座標の双方の性質がありそうです。ただ、談話標識は本来、書き言葉よりも話し言葉に特有のもので、両者では形式や機能が異なる場合があるとも言われています。インスタグラムのストーリーという「書き言葉でありながら話し言葉に近い」ハイブリッドな空間だからこそ、この表現が独特なスピード感やアテンションを生んだのかもしれません。
そもそも「単刀直入に」をディスコースマーカーとして考えられるのか、という点も含め、話し言葉と書き言葉の境界線にあるSNSの言葉について、これからもっと勉強していきたいです。
参考
Schiffrin, D. (1987). Discourse markers. Cambridge University Press.
高村遼. (2019). 「談話標識 well の言い澱み: Praat による韻律分析」『青山学院大学文学部紀要』(61), 41–59.
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[談話標識] [メタコミュニケーション]