#283 文章の指紋について
明日の授業で「法言語学」のセクションを取り上げるため、関連する文献や記事を色々と読み込んでいます。
法言語学といえば、私が学部生の時に堀田秀吾先生の講演を聞いた際、非常に印象に残ったお話があります。それは、筆跡だけでなく「文章そのもの」にもその人の特徴が強く表れており、実際にそうした分析が個人の特定に使われることもある、というお話でした。私の記憶が正しければ、特に「句読点の打ち方」などには、その人の特徴がよく現れるとのことでした。
この内容については、2019年のネット記事『SNS社会でなりすましは不可能!"文章の指紋"による高度な解析法を言語学者が解説』でも詳しく触れられています。デジタル機器を使って文書を作成すると、全体の体裁が整うため一見すると個性が消えてしまうようにも思えます。しかし、堀田先生は「デジタル機器で作成した文書のほうが、その人の人となりが表れやすい」と指摘されています。実際、なりすましメッセージの嘘を暴くために、言語学者に分析の依頼が来るケースもあるそうです。
この「文章の指紋」が具体的にどこに現れるかというと、記事の中では「句読点を打つタイミング」や「助詞の使い方」などが挙げられており、これらには長年培われた個人の癖が出ると言われています。また、日本語特有の要素として、私たちはひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットなどを巧みに使い分けているため、その組み合わせの比率にも個性が強く出やすいのだそうです。記事では、SNSのように匿名性が高くなる空間ほど、かえって人は雄弁になる傾向があると指摘されています。実はそうして饒舌に語られた文章ほど、その人の「文章の指紋」が多く残るため、結果として犯人の特定につながりやすくなるのだそうです。記事ではこうした分析の可能性を示しつつ、ネット上でのなりすましや嘘に対して警鐘を鳴らしています。さらに海外に目を向けると、イギリスの保険会社では言語学者を専任で雇う事例もあるそうです。これは、他殺であるにもかかわらず自殺を装って書かれた遺書を見抜き、保険金詐欺を防ぐという実務的な目的があるとのことでした。
こうした「文章の指紋」や文体の特徴について、書籍を直接手にとれてはいないのですが、孫(2020)による書評を拝読し、計量的な文体分析の具体的なアプローチを知ることができました。その書評で取り上げられている書籍『犯罪捜査のためのテキストマイニング』によると、文体の特徴を捉える指標として、文字のn-gramや読点の打ち方、漢字・ひらがな・カタカナの使用率、品詞や単語のn-gram、文節パターンなどが挙げられています。さらに「非内容語の使用比率」や「文末語の使用比率」も重要な指標とされています。ここで言う「非内容語」とは、機能語(助詞や助動詞など)に近い概念ですが、名詞や動詞、形容詞といった単独で具体的な意味(内容)を表さない語の総称を指します。
今回のテーマは、言語学の中でも「文体論(stylistics)」に非常に近い領域だと感じています。文体論そのものについては、また後日、まとめてみたいと思います。
参考
ライブドアニュース(2019年10月24日)
SNS社会でなりすましは不可能!"文章の指紋"による高度な解析法を言語学者が解説(https://news.livedoor.com/article/detail/17279472/)
孫 昊(2020)「書評:金明哲(監修)財津亘(著)『犯罪捜査のためのテキストマイニング―文章の指紋を探り,サイバー犯罪に挑む計量的文体分析の手法―』」『計量国語学』32巻4号、pp.228-233.
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